【アイルトン・セナのこと】2023年5月2日

 1994年5月1日。夜中に電話が鳴った。

 1983年からスタートさせたホンダのF1参戦は2度目であり、通称「第2期F1参戦」と呼ばれている。ロータスに裏切られた第1期の反省から自社チームではなくエンジン供給という形を取る。さらに海外チームのエンジニアの引き抜き、テストチーム編成、大資本の開発部署設立など準備万端で始めたこともあり、翌84年にエンジン供給したウイリアムズが初勝利。86年にコンストラクターズ・タイトル獲得、87年はコンストラクターズとピケのドライバーズチャンピオンを獲得。

 87年にはウイリアムズだけでなくロータスにもエンジン供給。中島悟を日本人初のフル参戦ドライバーとして送り込むとともに若きアイルトン・セナと契約。2度の勝利を含む8度の表彰台を獲得した。

 88にホンダは中島の加入を拒否したウイリアムズとの契約を解除しマクラーレンと契約。セナを移籍させるとともに、当時もっとも強いドライバーと言われていたアラン・プロストをポルシェから移籍させる。セカンドドライバー不在のダブルエース体制となった。ホンダエンジンへの変更1年目でドライバーも総入れ替えとなったマクラーレンは苦戦が予想されたが、フタを開けてみればプロスト7勝、セナ8勝と合計15勝。全16戦中イタリアGP以外のすべてに勝利。しかもワンツーフィニッシュが計10で、コンストラクターズポイントは199。2位のフェラーリが65と圧倒的なシーズンとなった(写真上)。

 89年も当然同じチーム、ドライバー、エンジンで望むことになったが、セナとプロスト両者の争いが激しくなる。プロストリードで迎えた第15戦の日本GPはシケインで衝突し両者リタイヤという最悪の結果に。実際コースインのスピードがはやかったのはセナで、レースの常識からするとプロストが譲るべきだったが、それをブロックしたため起きた事故だった。これによりプロストが年間チャンピオンを獲得する。しかし、プロストはセナとの関係だけでなくマクラーレンとの関係性も悪くなり、移籍することに。

 90年はフェラーリに移籍したプロストとマクラーレンに残ったセナとの対決に終始。そして再び日本GPで悲劇は起こる。ポイントリードするセナがスタート直後にプロストに接触。両者リタイヤとなりセナの年間チャンピオンが決定するのだ。お互いが口も聞かなかったなど噂が絶えなかったが、実は2人は仲が良かった。実際には衝突後のコース脇を2人で並んで話をしながらピットに戻ってくる姿がカメラマン原富治雄さんの写真に収められている。

 91年はセナはウイリアムズに移籍する噂があったが残留。12気筒になったホンダエンジンで安定した走りをみせ2年連続の年間チャンピオンを獲得するが、ルノーとは僅差。そして開発の遅れから同じマシンで臨んだ92年はウイリアムズ・ルノーの圧倒的な強さの前にまったく勝てなくなったが、セナが得意とするモナコでマンセルに勝利。92年のモナコは自分にとっても最高のレースだった。この当時暗い顔が多かったセナだが、明るく笑った顔があった。

 93年はホンダが撤退し、フォードV8エンジンを搭載したMP4/8でセナは健闘。フェラーリを追い出されたプロストが、マンセルとパトレーゼに逃げられたウイリアムズ・ルノーに移籍。プロストは最後の年間チャンピオンとなり、セナは年間2位という好成績で終える。

 そして94年。念願のウイリアムズ・ルノーに移籍したセナだったが、開幕戦からマシンが不安定で2戦目までリタイヤで終わる。迎えたサンマリノGP。金曜日予選でバリチェロが事故で負傷。土曜日予選ではラッツェンバーガーがヴィルヌーヴカーブで事故死。セナは恋人や担当医にも走りたくないと言っていたという。だが予選はセナがポールポジションを獲得した。日曜日の決勝ではスタート直後にエンジンストールしたJ.J.レートを避けきれずペドロ・ラミーが衝突。観客を巻き込む事故となった。当然セーフティーカーが出たが、低速走行でタイヤが冷えた状態になったにも関わらずそのままローリングスタート。2周後にトップを走っていたセナがタンブレロコーナーでコースアウト。200キロまで減速したが、そのまま壁に激突。マシンから動かないセナの姿は生中継され続けた。

 実はこの後、F1を見なくなってしまった。次に見たのは2000年の第3期ホンダF1参戦から。セナの死亡だけが原因ではなく、結局FIA会長の意向で日本のエンジン、そしてドライバーは排除されることがあからさまだったからだ。政治や金の世界と分かっていたが、当時の若い自分にはきつかったのだろう。

 ちなみに5/1の夜中に電話をくれたのは友人。「セナが、セナが」と電話口で半泣き。こんな状況を生むF1ドライバーはもう出てくることはないだろう。

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