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マカヒキは南米なら種牡馬として需要がある?

 という質問をいただいたので回答します。個人的な推測が含まれているので、雑談程度にと言いますか、話半分に読んでください。

 年齢・費用・輸送・母系など、マカヒキが抱えているあらゆる事情や背景を無視して『ディープインパクト産駒のマカヒキ』という単品で考えれば、答えは「イエス」です。需要はあります。

 アルゼンチンにロデオ・チコ牧場という生産牧場があります。この牧場の関係者が以前、「新しい種牡馬を導入するならディープインパクト種牡馬 or イントゥミスチーフ種牡馬?」という主旨の発言をしました。また、サトノジェネシスが現役を引退するとき、ウルグアイの関係者から僕のところに「参考にしたいから現役時代のレース映像をすべて送ってほしい」というお願いが来ました。『日本の種牡馬』『サンデーサイレンスの血』『ディープインパクト産駒』というのは、南米の生産者の間で真剣に考えられている選択肢の1つです。

 では、ここにマカヒキが持つ背景が加わるとどうなるでしょうか? 答えは「イエス」から「限りなく非現実的」に変わります。

 アルゼンチンのエージェントの方によると、日本から南米に馬を輸入する際にもっともネックになるのが輸送費です。その方の言葉を借りれば、「日本の馬を導入するとなると、常にロジスティクスが問題になる。日本から日本馬を輸入するのと、アメリカやヨーロッパで走っている日本馬を輸入するのでは訳が違う。コストが劇的に違ってくる」とのことです。

 これは人間の場合で考えても分かります。「マチュピチュを見にペルーに行きたい」「ウユニ塩湖を見にボリビアに行きたい」というのは口では簡単ですが、めっちゃお金がかかりますし、どんなに最短で行けたとしても24時間超えの移動になります。超面倒です。人間でさえ南米に行くのが面倒なんですから、馬にとってはもはや拷問でしょう。

 アジア - 南米間で馬を輸送する大変さは、ウルグアイからドバイに遠征した馬の経路が証明してくれます。まず、ウルグアイからドイツへ飛び、ドイツで数日休み、それからドバイへ向かい、検疫と調教を経て出走するという流れです。コロナで飛行機が満足に飛んでいなかった2020年は、モンテビデオ⇒サンパウロ⇒カナリア諸島⇒フランクフルト(ここで2泊)⇒ドバイという、お前鈴井さんにサイコロ振らせたんか?くらいの超過酷旅程を強いられました。

 マカヒキという馬本体にかかる値段、日本から南米までの輸送費、人件費を含むその他諸々の費用、導入までに要する労力・負担・時間など、いずれもバカになりません。マカヒキの年齢を考えれば、種牡馬として働けるのは10年くらいでしょう。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアや南アフリカにたくさんの種牡馬候補がいる中で、あるいは、タピット種牡馬、スキャットダディ種牡馬、キャンディライド種牡馬、キングマン種牡馬という選択肢と比較して、マカヒキが費用対効果で勝てる気がしません。

 以上が、マカヒキを南米で種牡馬入りさせるのが極めて難しい客観的な理由です。

 ここからは個人的な意見です。

 仮にマカヒキが南米で種牡馬入りするとしたらアルゼンチンが第1候補に挙がると思います。ですが、マカヒキはアルゼンチンの生産者が好みそうな種牡馬ではないです。

 アルゼンチンの生産者が好む種牡馬とは『ダート適性』『良血馬』、ざっくりこの2点です。今年アディファレントスタイルを種牡馬として導入したロス・リリオス牧場のマルティン・スベルディーア氏は次のように述べました。「アディファレントスタイルはスピードのある早熟馬だった。父系は素晴らしく、母もデビューしてすぐに良い走りを見せた。アルゼンチンの競馬にはこういうタイプでダート適性のある馬が求められる」

 マカヒキはダート未出走なので、ダート適性があるかどうか誰も分かりません。あるかもしれないし、ないかもしれない。そんな未知数な種牡馬に大金と労力を懸ける危ういギャンブルはしないでしょう。

 良血という観点でもマカヒキは外れそうです。南米では日本と異なり、現役時代に活躍したかどうかはあまり重要ではありません。いや重要なんですけど、別に必須ではないということです。活躍した馬ってだいたい高額なので、南米の経済力では到底買えないですし。

 現役時代の栄光よりも、『大活躍した馬の兄弟』や『現役時代はあんまり走らなかったけど誰もが認める良血馬』のほうが重視されます。

 たとえば、チリで活躍中のグランドダディ。競走馬としては平凡でしたが、スキャットダディの全弟という良血馬です。最近輸入された中では、ブラジルのサンガリアス、アルゼンチンのガーシュウィンなどが、GⅠ勝ちはなくても血統を評価されて導入されました。

 マカヒキは日本ダービー馬ですが、血統的にどうなんですかね? ディープインパクトに、それなりにGⅠ馬を輩出したアルゼンチン牝系、兄弟にGⅢ馬……よく分からない。だったら、サンセットクラウドやダノンマジェスティみたいな、誰が見ても分かる超良血馬のほうが好まれると思います。というか、サンセットクラウドとダノンマジェスティは南米にくださいくださいください。未来のBC馬の父として必ず日本競馬に還元しますから。

 まとめると、マカヒキは南米なら種牡馬として需要はあると思います。ですが、導入にコストがかかりすぎます。年齢も重ねているし、適性も未知数です。費用対効果を考えれば、同じディープ種牡馬ならマカヒキではなくて他の馬、たとえば、アメリカやヨーロッパにいるディープ産駒 or 母父ディープが選ばれるでしょう。金子さんが「1000万円。輸送費も何もかもこちらが負担します」みたいなことを言ってくれれば話は別ですが、マカヒキが南米で種牡馬入りする可能性は極めて低いでしょう(代打北川ばり、1999年のマンチェVSバイヤン並みの大逆転あるか?)。

 そもそも、ラストインパクトですらアルゼンチンに売らなかった日本が、天下の日本ダービー馬マカヒキを南米に売るはずありません。歳はいってるけど、なんだかんだ言ってまだ27戦だし、去年もGⅡ勝ってますし、もうちょい現役でいいと思います。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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