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オリンピックとデジカメの未来

これまで「オリンピックとカメラ」といえば、どのメーカーのカメラが多いかを、ずらっと並んだ長玉レンズの色を見て話題にしてきました。(白が多いとキヤノン、黒が多いとニコンという具合です)

そこに、2020年の東京オリンピックでは、ミラーレスという新しい仕組みで動くカメラが使われる可能性が出てきました。

オリンピックでの写真はスポーツ写真であると同時に、ヒューマンドラマを含んだポートレート写真でなければなりません。

ミラーレスカメラの優位性は小型軽量だけでなく、人物認識や瞳AFなどの画像認識をベースにした撮影サポート技術など多岐に渡ります。

従来から搭載してきたオリンパスやパナソニック、ソニーを追うようにキヤノンやニコンが「ファームアップ予告」を出してきているのを見ると、かなり重要な機能であることが分かります。

これはアマチュアカメラマンでもプロのように瞳にピントが合った写真が撮れるということだけでなく、プロカメラマンがオリンピックのような、激しい動きの中でもしっかりと瞳にピントが合った写真を撮りたいという要求から来ているものです。

現時点では、モデルのポージングについていけるだけであっても、1年半後にはスポーツシーンにきちんと対応し期待に応えるレベルに仕上がっていなければならないのです。

もしどこかのメーカーがそれを達成することができれば、ミラーレスカメラにとって東京オリンピックは記念すべき大会になるかもしれません。

オリンピックのプロサポートが変わる

カメラ業界では、オリンピックの期間中に機材の面倒をみてくれる「プロサポート」の存在がニコン・キヤノンとそれ以外のメーカーで大きな違いとして語られてきました。(もちろんそれ以外の期間のサポートも重要)

それ程にサポートは重要で、2020年の東京オリンピックではパナソニックもLumixに対するプロサポートをおこなうと発表しています。

これは私のUIデザイナーとしての予想と願望ですが、これまでサポートの中心はハードウェアの故障に対応する「修理屋」としての対応でしたが、次のオリンピックでは最新のソフトウェアの提供や操作性の向上のサポートおこなう「コンシェルジュ」の役割に大きく変わっていくのではないかと考えています。

オリンピックが限られた場所でおこなわれ、情報提供の中心となる選手の情報が得やすいことが背景としてあります。
不特定多数の状況ではなく、また少数のプロカメラマンに対してしっかりとしたサポートをおこなうことができますので、大イベントではありますが実現に向けて準備しやい面もあるため、新しい実験がおこなわれる可能性が高いと考えられるのです。

ソフトウェアとインフォメーションの提供

多くのプロカメラマンは、自分の使い易いようにカメラの操作方法をカスタマイズしています。そのため代替機をポンと渡されただけではすぐに使うことはできませんので、メーカーはカメラマンのカスタム設定を事前に登録してもらい、カメラを渡された瞬間から、それまで通りに撮影できるようにしなければなりません。またカメラマンの使い方を把握することでより良い設定についてのアドバイスをおこなうこともあるかもしれません。

さらに提供されるのは、最新のソフトウェアや設定ノウハウだけではありません。特定選手用の認識データなど各競技内容に応じたAIデータのカスタマイズや、会場の照明環境への最適化や、ドローン画像や選手につけられたGPSタグによる空間情報の提供など、撮影ワークフローと撮影判断に必要な情報を提供してくれるのではないかと思っています。

鉄道写真や航空写真では、時刻表や管制無線による情報活用は当たり前ですし、天体写真ではさらにスケールが大きい話ですが何年も先まで星の配置を正確に計算し、その瞬間に向けてカメラマンたちは準備をしています。

当然オリンピックを撮影するカメラマンは何年も情報収集し準備していますが、刻々と変わる状況への適切な対応や、撮影に集中するために、情報サポートを受けるメリットがあるのです。

コネクテッド・カメラで変わる撮影体験

ハードウェアのサポートであれば、サービスステーションに来てもらうか、ドローンなどで機材を運ばなければなりませんが、ソフトウェアやインフォメーションであれば、スマホなどを経由して、いつでもカメラの状態を把握したり、サポートをおこなうことができます。

電話でカメラマンが希望を言い、リモートアクセスでカメラの設定をサポートするというようなことが可能になります。

「コネクテッド・カメラ」というコンセプトは、スマートフォンとSNSという形で一度は達成されましたが、写真を「撮る」行為にリアルタイムで対応することで新しい体験を提供するようになります。

コネクテッド・カーを例としてみると、クルマの中で観光情報を見るのと、運転に対して天候情報や交通情報をリアルタイムに見てドライビングを変えていくことと比較すると分かりやすいかもしれません。

ちょうどタイミング的にも、AI技術が一気に広まり、カメラの処理能力が飛躍的に強化され、通信環境も5Gで一気に向上するために、実現される可能性が高くなってきました。

EVFがもたらす撮影情報UIの未来

「EVFは過去のシーンを見ている」というのは、一眼レフの光学的なファインダーの優位性を説明するために、映像処理による表示遅れのことを言っているのですが、このことは逆に言えば「EVFは現在の時間に縛られない」ということを意味しています。つまり将来的には未来のシーンを見ることも可能だということです。

現在でも、撮影結果を事前にファインダーで確認できる設定があります。露出補正やホワイトバランス、デジタルエフェクトなどを事前に撮影結果を確認しながら調整することで、思い通りの作画をおこなうことができるようになっています。

この「事前に分かる」特徴をさらに進化させて、これから起きる未来が見えるファインダーを作ることができ、そのためにはたくさんの情報を扱う仕組みが不可欠になってきます。

飛んでいる飛行機の種類や予測飛行経路、山陰にかくれている列車の通過予想時間まで、多くの情報提供サービスがファインダーを通して見ることができるようになります。

MicrosoftのMixed Realityが未来のファインダーの参考になります。現実とバーチャル(未来)が自在に融合することができます

ユーザーとメーカーの関係が大きく変わる

オリンピックの終了後、この技術は近い将来私たちが使うデジカメにも組み込まれることになります。
ただ一般の人が撮影する被写体はオリンピック選手ではありませんので、それぞれの被写体やテーマに応じたAI学習用のデータや様々なインフォメーションが必要になります。

人物以外の物体認識では、オリンパスはレース(ヘルメット)、飛行機(コックピット)、鉄道(運転席)を認識することができます。
パナソニックはネコ類、イヌ類を、ソニーでは動物の瞳AFを実現する予定になっています。

ただこれだけではあまりにも範囲が狭く、利用できるシーンが限定されてしまいます。より多くのシーンに対応していくためにユーザーの参加が不可欠なのです。

アクティビティデータ/エクスペリエンスデータの重要性

一般の人が撮る写真は、さまざまな場所、環境、目的、表現で撮影されます。それをサポートしていくためには単に撮影された画像単体ではなく、さまざまな活動情報、文脈情報と結びついた「意味を持つ画像」を膨大に集め学習データとしていく必要があります。

撮影データ、設定データは比較的簡単に入手できますが、撮影状況やユーザーの想いという文脈と結び付いていた方が、より利用範囲や精度を高くすることができます。

アウトプット(写真)データからアクティビティ(行動)データへ、さらにエクスペリエンス(経験)データという形で情報の高度化していくことで、カメラで使われるAIも高度化していくことになります。

データを集めるためにはユーザーの理解を得なければなりませんので、まずはユーザー自身にデータ活用の楽しさや便利さを理解してもらう必要があります。そのためにいくつかのメーカーではカメラにアクティビティデータを収集するためのセンサーを搭載しています。

OLYMPUS E-M1Xは「フィールドセンサーシステム(GPSセンサー、気圧センサー、コンパス、温度計)」を搭載することでアクティビティデータを写真データと紐付けることができます

セキュリティやプライバシーの課題をクリアし、将来これらのデータがユーザーから提供されるようになれば、メーカーとユーザーの新しい関係が始まることになります。

メーカーはこれまでもユーザーの声を開発に取り込んできましたが、それよりもずっとダイレクトな繋がりを作っていくことができるのです。

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