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”IoT”についてデザイナーと考えてみた

最近では「デザイン思考」がさまざまな業務の中で実践され、ユーザーの行動を観察し、そこから本質的な欲求や価値を見つけ出し、それを実現するために様々なテクノロジーを用いて解決していく、というプロセスが広くおこなわれるようになってきました。

その中で「IoT」は、解決手段として用いられるテクノロジーの一つで、従来では一部の情報機器だけが持っていた情報に対するインプット/アウトプットの能力をさまざまなモノの中に埋め込み、人の行為と情報の世界をよりシームレス連携させる重要ものになっています。

デザイン思考の実践から見るとIoTは手段の一つに過ぎませんが、いざ必要になってからデザインやプロトタイピングの手法などを準備しようとしても間に合わないため、事前に「IoTデザイン」をおこない手法やプロセスを整備しておかなければなりません。

このような背景があり、本来は手段であるIoTをデザインの対象として考えてみることにしました。
この記事は、その活動から私が感じたことをまとめたものです。また活動は初期段階ですので今回は途中報告ということをお断りしておきます。


若手デザイナーにIoTの説明をしてみた

今回ちょっとしたプレゼンの機会があったため、普段から興味を持っている「IoTの本質」について話してみることにしました。

デジカメ登場の初期(2000年前後)に会話していた内容や、J-PHONEの登場、さらにiPhoneが登場したときに会話した内容と比べて、IoT的な会話やアイデアが少なくなっていると感じており、そのあたりに刺激を与えようというのが狙いとしてありました。

昔は実際に製品化することは難しかったため「空想」の領域が大きくアイデアが会話に出されていましたが、最近は技術的に可能なことが多くなりリアリティが増した分会話が少なくなってしまったというのが私の分析です。

エンジニアの技術開発のワクワクは峠を越したのかもしれないが、デザインの世界で「IoT」をもう一度ユーザーの利用文脈の発見と「こんなことができたら面白い」という夢のあるUXデザインの世界に引き戻し、ワクワクするデザインができないかと考えました。

デザイナーに提供する情報として、世の中のIoT事例を説明することも考えましたが、すでに知っている情報であるため、基本的な構造や少し哲学的な内容を提供することにしました。



まずIoTの基本構造について

IoTの実態は、1つのモノではなく、複数のモノが繋がっているシステムです。
Internetの部分が繋がり(エッジ)であり、Thingsの部分がモノやクラウドサーバ(ノード)と考えるとグラフ構造の最小単位がIoTの基本構造であることが分かります。

私がIoTの基本パターンとして思い浮かべるのは「一人暮らしのお年寄りが、毎日使っているポットで、ある日お湯を沸かさなかった時、離れて住む子供のところに通知が送られる」というシナリオです。

このIoTパターンには、次の3つの仕組みが含まれています。
①ポットの動作をお年寄りの生活パターンのセンサーにする
②お湯を沸かさない日というネガティブな状態を判定する
③ネットワークを使って離れた子供のところに情報を送る

既にIoTの古典になっているものですが、最近のより高度なセンサー技術や、AIを使った判定技術、ネットワークでつながれる範囲の拡大などによって、同様のパターンであっても新しい文脈を見つけ活用できると考えています。


IoT基本構造をフレーワークにまとめる

両端のノードとそれを結ぶエッジを横方向に並べ、上側に全体の概念、下側に具体的な実現手段を記入できるようにしたもです。

左右の構造はひとつのストーリーとして考えることができ、上下の構造は上流の要件を実現する手段としてドリルダウンしていくことができるようにしてあります。

このフレームワークを使ってIoTアイデアを考えてもらったところ、人によって横方向が得意な人と、縦方向が得意な人がいることが分かりました。

つまり、この全体像を同時に考えるための教育や訓練が必要であり、縦横の全体を構想することができる人のことを「IoT人材/IoTデザイナー」と呼ぶことができるということです。

こちらが記入例



IoTシステム(関係性のデザイン)のプロトタイピングをやってみる

続いて、IoTのプロトタイピングについて考えてみました。
概念設計をしただけではデザイとは言えませんので、デザイン思考の基本にのっとりIoTデザインにも何らかのプロトタイプが必要です。

IoTプロトタイプの難しいところは、一つの装置ではなく、複数の装置やサービスが連携しているところです。それらの同時展開する状態変化を再現しなければならず、これまではペーパープロトタイプとロールプレイ(アクティングアウト)を組み合わせたようなもで、実際の様子を想像で補う必要がありました。

関係性のデザインは目で見ることができないからこそ体験できるプロトタイピングが重要ですので、どうにかプロトタイピングができるようにしていきたいと考えました。

そこで今回は子供たちのSTEM教育に使われているBBCの「micro:bit」を用いて、基本グラフ構造のプロトタイピングをおこなってみることにしました。

micro:bitを選んだ理由は、プログラムをブロックエディターでおこなえ、複数のmicro:bitを無線通信で簡単につなげることができるため、IoTのプロトタイピングに使えそうだったからです。

未来のIoT社会で活躍する子供たちの教育に、コミュケーションや機器連携が必要だと考え作られた仕様ですので、IoTデザインの基本を学んだり基本構造をプロトタイピングするのには持って来いのものだと思います。

具体的には、ノード(micro:bit)を複数台用意して、関係性の場を設定し、それぞれのノードに役割(ロール)を定義していく形になります。

<micro:bitでできること>
本体には、2つのスイッチと加速度センサー、方位センサー、明るさセンサー、温度センサーなどのインプット系、5x5のマトリクス配置のLEDが内蔵されており、単独でも一通りにIoTデバイスとして動作し、さらに端子にセンサーやスイッチを直接接続したり、拡張ボードを取り付ければさらに多くの入力/出力をおこなうことができます。

ワークショップで作ってみた

今回のプレゼンでは、ちょっとしたワークショップもおこない、10分程度で無線接続でメッセージを伝える「ペアLチカ」を作ってみました。

「Lチカ」ができれば、そこからどんな複雑なことでもできるようになりますので、今後のプロトタイピングのプロトタイプとして作ってみました。

もちろんプロダクトデザイン、GUIデザインとしては何もしていませんが、IoTデザインとしては立派なコミュニケーションツールの動作をプロトタイピングすることができました。

これを面白いと感じるかどうかで、IoTデザイナーとしての資質が分かります。
現在のデジカメや医療機器のシステムも、このような基本モデルの上にUXデザインを重ねて作られてきてたものです。それを「当たり前」と思うのではなく、プロトタイピングを通してもう一度自分たちの手で作り直すチャンスだと考えて取り組まなければなりません。



IoTの理解からUXデザインへ

IoTをグラフ理論で説明したり、フレーワークを造ったり、簡単なプロトタイピングをおこなった理由についてまとめておきます。

IoTを深く理解することは、UXデザイナーのマインドセット/スキルセットにとって有益なことが多いと考えています。
ユーザーの行為の中から連動関係を抽出し、内在する情報項目の発見につながるなど、IoTがソリューションを実現する手段としてだけでなく、デザインする対象を認識する「視点(ビューポイント)」になるということです。

ただこの話題で盛り上がるためには、普段やっている製品デザインから離れる必要があるとも感じました。
今回のプロトタイプでも、外観的なデザインは一切無く、純粋な関係性が時間軸と空間軸で展開されているだけです。

通常デザイナーは、システムの中の1つの製品を担当する形で関わるため、大きなシステム全体をデザインする機会が少ないのが現状です。
上流のシステム構想を担当しているのが、商品企画部門であったり開発部門である場合が多く、デザイン部門がイニシアティブを持てないため、デザイナーの視点が「製品操作のUX」のように小さくなってしまいます。

今回IoTについてプレゼンテーションとワークショップを通していくつかの課題が見つかりました。次のアクションをどうしていくかはまだ考えていませんが、今後も活動を続けていきますので、また報告をさせもらいます。

この投稿は2/26に誤操作のため下書きの段階で投稿してしまったものの<再投稿>になります。

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