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デザイン思考 × システム思考 = デザインシステム

この記事は、デザイン思考への問題提起と、それを克服するために「デザインシステム」を取り入れていくという内容である。
「そんなの当たり前」という会社がある一方で、組織やプロセスのフレームワークをアップデートしなければならないと感じている会社も少なくないのではないだろうか。

会社ではすっかり「デザイン思考」が定着し、ユーザーを想って仕事をすることで、美しいヤリガイに満足してる。誰かのために仕事をするのって本当にステキ!

こんな感じの会社が結構あるのではないか。

そしてこの”小さな”デザイン思考が、会社の中で思考停止を生んでしまっているのではないかと思うことがある。ユーザーのことをちょっと考えるだけで満足してしまっているのである。

美しくて素敵なことだから明確に否定できないのだけれども、何か部分的で、薄っぺらで、ファッション的なのである。

以前は会社組織がかかる病気といえば、大企業病やお役所仕事と言われていたが、今度は「デザイン思考病」なのかもしれない。大企業も役所もデザインも「良いもの」であるはずなのに、それをこじらせると病気になってしまう。

そもそも「デザイン思考」とはなんだろうか?

言葉の意味から考えれば「デザイナーのようにデザインプロセスを使って思考する方法」ということだ。
もう一つ理解のために反対語について考えてみる。デザイナー以外ということなので、つまりビジネスマンやエンジニアがやっていた思考法が反対語ということになる。

デザイナーのやり方と、ビジネスマン/エンジニアのやり方の違いを誤解を恐れずに極端に言えば、エンジニアたちは定量的なデータを扱って(部分的な)モノを考えていたのに対して、デザイナーは定性的な状況や感情をストーリーとして扱っていたということだ。

具体的には、「コンセプト」で全体を表現し、「ペルソナ」や「シナリオ」を使って人間と装置、時間と空間を扱い、体験の意味や感情を評価視点に置く方法を長く続けてきた。(それゆえにメーカーの中でデザイナーの地位が低い時代もあった)

このように視点やツールが違っていることに目を付け、ビジネスマンやエンジニアがイノベーションを起こしたり変化する時代の中で問題を根本から解決する方法としてデザイン思考に注目したという訳だ。

何故そのデザイン思考が、会社をダメにしてしまうのか?

簡単に言うと「ふわっ」としてしまっているのだ。もちろんその「ふわっ」としてても物事が扱えて先に進めることができ、プロトタイピングができる。という特徴がデザイン思考の良い点でもあるのだが、徹底的にやれないのだ。

そのユルさのまま、提案、会議、方針、予算を回すために従来の数カ月、数年の開発日程で進めるものだから、いつまでたっても先に進まない。

本来は、多少いい加減なものでも凄いスピードと低コストで何度も回していくうちに良いものになっていくということを前提として、沢山のスケッチを描いたり、プロトタイプを作っていき、ユーザーを巻き込んで現場ベースで評価をしていくものだったのに、大きな企業にデザイン思考が入ってきたことで何だか変なことになってしまっている。

失われた20年とはつまりそういう理由で遅れてしまったのではないかと思う。
デザイン思考の妙な満足感によって、新しいこと、正しいことをやっていると安心しているうちに、気が付けば何だか色々なものから周回遅れになっているという状況である。

スピードが遅いのとは逆に「早いだけのデザイン思考病」というのもあると思っていて、とにかくスピードを上げて小さな改善を繰り返し、KPIの結果が出ることだけに満足してしまい、全体との因果関係やシステムの本来の目的から意識が遠くなるという病状もまた問題である。


では本来のデザイン思考はどんなものだったのだろうか

私はデザイン思考を、1950年代にMITでテーマとなっていた「システム思考」をベースしたものであると考えている。

システム思考とは、それまでの不完全な部分を見つけ出し改良すれば問題が解決するという「分析的思考」に対して、視点のパラダイムを大きく変えて、システム全体に目を向け、部分に切り分けて単純化するのではなく部分同士の関係性を扱い、複雑な関係性や役割設定を最適化することをベースした思考方法である。

つまりデザイン思考とは、システム思考の複雑な物事を扱う技術の中から、ユーザー(顧客)とシステム(装置やサービス)の関係性を行為(プロセスや体験)として扱う方法へと特化したものだと考えることができる。

システム内の要素に「ユーザー(人間)」や「利用状況(現場)」が含まれるため、事前に定量的な情報が無かったり工学では扱えず、「観察」「プロトタイプ」「評価」というプロセスを回していく方法が特に重要視されるようになった。

この考え方にもとづけば、デザイン思考とはユーザーにちょっと喜んでもらうアイデア出しのためのものではなく、ユーザーやその利用の状況を全体として把握し、その改善に取り組んでいく活動なのだと言うことができる。


デザイン思考×システム思考=デザインシステム

上で書いたように本来はデザイン思考の中にシステム思考の考え方は含まれているはずであるが、ここは現状を受け入れ、ふわっとしたデザイン思考にもう一度システム思考を合体することを提案したい。

さらに、それを実現するツールとして「デザインシステム」を活用できないかと考えている。

デザインシステムは、企画書、仕様書をデザインガイドラインに統合し、会社を一つに結びつけなければ完成できない。(そこが従来のスタイルガイドやデザインテンプレートとの違いである)
デザイン部門だけでなく会社全体でデザインシステムを作っていくことで、自然と本来の大きなデザイン思考が実践できるようになると期待している。

大きなメーカーでは、当然色々な書類をすでに持っているだろうが、「デザインシステムはまだ持っていないですよね」ということが、既存のフレームワークを見直すマジックワードにしていきたい。


ということで、明日から出勤です。最初にやるのはプロトタイプ作り。1月中旬に現場に持ち込むためにガンガン作っていきます。

ユーザーや現場のことを知るためにデザイナーにできることは、完璧じゃなくてもとにかく物を作って、謙虚に聞いたり見たりすることしかない。

その上で、そこから得られた知見を、みんなで共有し、しっかりとシステム図(フロー図)にまとめて、文脈を見つけていくことだと思う。

今年の年末には「デザインシステムが運用・改善フェーズに入った」といえるようにしていきたい。

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