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プロトタイピングの新しい役割は、システムの統合体験である

プロトタイプをどのタイミングで、どの程度の忠実度で、どのくらいの費用と時間を掛けて作れば良いのかということは常に悩ましい課題でありノウハウになるところでもあります。

悩みなんか無く社内のプロトタイピングシステムが20年前と変わっていないというメーカーは本気で将来心配した方が良いと思います。

〇〇試作といものに自動的に予算が付いており、会議と連動して「モノ作り」をしている会社です。もちろんモノ作りだけを考えれば何十年も洗練させてきた必要なステップなのかもしれませんが、世の中にはそれ以外のプロトタイピングがどんどん誕生しており、それを取り入れる余地が無くなっているのではないかと思うからです。


部分的なプロトタイピングだけを繰り返す危険性

これまで多くのメーカーでは「ブランドの継承」という名の下に、改善型の定期的なモデルチェンジを繰り返してきました。そのため要素技術や動作検証のような部分的なプロトタイピングをおこない、機能追加や性能アップだけの新製品を開発してきました。

このパターンにはまってしまうと、変化が起きにくくなったり、新しいことをやるときに既存のルールと整合が取れなくなってしまい製品の魅力が下がっていってしまいます。

歴史と伝統というブランドでよって、イノベーションを阻害し、変化する環境から取り残されてしまう現象です。


プロトタイピングに期待される破壊的創造

逆に破壊的創造によってイノベーションを起こしていくためには、部分ではなく「全体のプロトタイピング」をおこなえば良いことになります。(もちろん新製品のために全部品の設計を見直しましたということとは違うものです)

モノゴトは周辺との関係性によって成り立っています。そのため新しい価値や新しい機能を追加するだけでも、それによって製品全体のバランスが変化するため全体のプロトタイピングをおこなわなければなりません。

さらに、追加と既存部分の調整だけではいつの間にか製品が複雑になってきますので、全体をゼロベースで再構築し、シンプルな一つのアーキテクチャにするためのプロトタイピングが必要になってきます。


システムのためのプロトタイピング

ここまでは製品開発のためのプロトタイピングについて書いてきましたが、スマホ連携、コネクテッドカー、スマートホームなどあらゆるものがネットワークに繋がり連携する時代ではシステムのためのプロトタイピングも同時に必要になってきます。

ここで言うシステムとは、製品の中のデバイスやハード/ソフトというような製品を構成する小さなシステムではなく、複数の製品が連動し、自社製品だけでなく他社の製品やサービスとも連携するものです。

またこの視点では、人間もシステムの一部として役割や関係性を扱うことになり、コミュニティやチームのデザインも他の装置と一緒にこのレイヤーでおこなうことになります。


システムのためのプロトタイピング手法

個別製品の操作に対してユーザビリティやUXという視点が重要なように、人間もシステムの一部として考える場合でも様々な立場や役割にいるユーザーの体験は重要です。

一人のユーザーから見ると、システムの中には他の人と製品やサービスが混在しており、それらと関係を持ちながら自分の役割を達成することになります。

それらを個々の人の視点で見ると同時に、チームやコミュニティ、社会の視点にたってどのような価値があるのかを考える統合体験をプロトタイピングしていかなければなりません。

現在これらのプロトタイピング手法としては、ほぼ製品化と同じ時間と費用の掛かる「実証実験」というものがありますが、もっと早い段階でさまざまなアイデアを体験してみることができるプロトタイピング手法が必要だと考えています。

そのイメージは、カードゲームのように登場する人物や装置、環境、情報を全てオブジェクト化して、役割と関係性を俯瞰した視点から設計する方法から、ロールプレイと様々な装置の振る舞いを再現できるメタメディアを組み合わせて各ユーザー視点から設計する方法まで、短時間に体験をベースにしたプロトタイピングができるものです。


複数の会社が参加するオープンイノベーション

システムを実際の工場や病院などで考えてみると、1つの会社の製品だけでできていることはほとんどなく、複数の会社の製品が高度に連携して大きなシステムを構成しています。

さらにこれば交通、電力など社会インフラになればさらに多くの会社が関わるものになります。

現在、1社で大きなイノベーションを起こすことは難しくなっており、オープンに会社同士が連携することでイノベーションを起こしていこうという動きが出てきています。

製品同士の連携システムをデザインできるツールができれば、それは会社同士のコミュニケーションツールになるということです。

製品のプロトタイピングツールが社内の部門間のコミュニケーションを活発化することができたのと同じように、システムのプロトタイピングツールが会社間のコミュニケーションを活性化しオープンイノベーションを実現していくことになるはずです。


オブジェクト指向のデザインシステムを拡張する

Atomic Designのように製品を構成する要素をオブジェクト指向で構造的に扱うデザインシステムの考え方を、製品を組み合わせたCosmic Designの領域に拡張していくことで大きいシステムを扱うことが可能です。

そのため製品デザインのためのプロトタイピングツールの階層構造をそのまま拡張していくことで対応することが可能です。Adobeをはじめいくつかのプロトタイピングツールを作っている会社には要望を伝えてありますので近い将来、システムデザインと製品デザインがシームレスにつながったツールを使ってデザインするようになるかもしれません。



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