光

写真にどこまでの冒険が許されるのだろうか?

これはカメラを設計する上で「永遠の命題」である。
人生の中には、結婚式や新婚旅行など失敗できない写真がある。二度と無い瞬間がある。
だからと言って、失敗防止だけを目指すことはできない。

ユーザーに提供する作画範囲を広くすれば、その中には「失敗」と判断される写真が含まれる。逆にオート技術を使って失敗しないようにすれば「表現」の幅が狭まる。

表現の幅が狭まるということは、世の中に似たような写真ばかりになり、
誰でも同じ写真が撮れるのであれば、自分の表現と思うことができなくなる。

それに連動するように、その写真の価値も低くなる。

今後AIなどの技術が進めば、技術的には失敗しないカメラ、全てを撮影しておき後から切り出すようなカメラも作れるようになる。
しかしそれを手放しで喜んでいてはいけないのだ。


<私の写真>という自己帰属感

①自分がシャッターを切った写真
②自分が細かく設定を決めた写真
③自分が写っている写真
④自分の好きな者(物)が写っている購入したり、もらった上記以外の写真

カメラ任せ(オート)でシャッターを切っただけの写真と、作画意図を実現するため細かく設定を決めて撮影した写真では、<私の>という部分が大分違うものである。

ここで明治大学の渡邊恵太さんの著書である「融けるデザイン」で重要なキーワードとなっている「自己帰属感」に当てはめて(拡大解釈して)<私の写真>について考えてみたい。

<私>と何らかの関わりを持ち写真が撮影され、それがネットやリアルな世界を時間や空間を超えて<私>を離れて一人歩きするとき、その帰属感はどのような文脈によって生み出されるのだろうか。

「すき」をもらった時に、嬉しいとはどういう帰属感なのだろうか。
<私の一部>としての写真を得るためには、

自由があることと、その中で自己決定(コントロール)ができて、それが結果に影響を与えているという認識が重要

となる。

UIとしての自己帰属感が「レイテンシー」と大きな相関があるように、単なる所有の概念を超えた<私の>というメンタリティーを生み出す「エフェクティブ(効果性)」の認識に注力することがカメラUIをデザインする上での重要項目の一つとなる。

アートフィルターは誰の写真?

長くオリンパスのカメラを使ってきたので、「好きなイメージを選択するだけでアートのような写真が撮れる」モードを代表してアートフィルターと呼ばせてもらう。

被写体を選び、シャッタータイミングとフレーミングを決めたら後はシャッターを押すだけでアートな写真が撮れてしまう。結果としては独特の空気感を持ったオシャレな写真になる。そうなるように作ってあるからだ。

出来上がった写真への自分の貢献度は「何%」だろうか?
自分がシャッターを切らなければ写真は撮れていなのだから100%と考える人もいる。
一方で、「良いカメラを使っているから」という気持ちで自分はシャッターを切っただけだと考え30%か40%(いぞれも表現を実現したのはカメラ)という感覚の人もいる。

確かに何の工夫もせずに撮影したらこんなものだろうが、さらにファインダーを見ながら、少しカメラを傾けてみたり、露出補正で明るさをイイ塩梅にしてみたりしてから、シャッターを切ると50%や60%に上がることになる。

そして、その写真が褒められると「やっぱり嬉しい」

撮影前か、撮影後か

インスタグラムは撮影後に、自由にエフェクトを掛けられる。後からやる方が、撮影前や撮影中にやるよりも長時間の試行錯誤ができる。
このエフェクティブがインスタグラムを人気の「自己表現プラットフォーム」にしたといって差し支えない。

最終表現としての完成度ではなく、編集前と後とで「差」が確認できることでエフェクティブを直接感じられるからだ。

その逆にアートフィルターは、撮影前に設定し、マッチする被写体を探し出したり、逆に被写体にマッチしたフィルターを試したりして、撮影現場だからできるダイナミックな探索ができるが、じっくり楽しむのが難しい場合も多い。

誤解を恐れずに言えば、インスタグラムは時間を掛けて成果を出す農耕的行為で、アートフィルターは狩猟的行為と言ってしまうことができるかもしれない。
問題はそのタイミングや、難易度ではなく、ユーザーは単純に自分が表現に明確な効果を与えた実感できるUIを求めていると言える。

週末はCP+

ようやく寒さもゆるみ花の季節が訪れたが、花粉の季節でもある。
撮影に行きたいところだが、もう少し我慢して週末はCP+に行ってきます。

多くのメーカーが「作画を楽しむためのカメラ」を出してくれているので、メーカーごとのカメラUIアーキテクチャーに対する視点をしっかり感じてきたいと思う。

<注目カメラ>

●オリンパス E-PL9
新しいアートフィルター「ネオノスタルジー」派と、昨日のファーウェアアップデートで多くのカメラで使用できるようになった「ブリーチバイパス」派がSNS上で盛り上がってくれると面白い。

●パナソニック DC-GF10/GF90
カメラがアシストして「もりもり」な写真が撮れてしまう。
ビューティー系家電も手掛けるパナソニックだからできる「新しい美容家電」で毎日が元気になる。

●フジフィルム X-H1
ソニーやパナソニックには無い「無骨で硬派」な佇まい。
レンズ、ボディー、画処理も全てアナログ的なアプローチで「本物感」が高い。

●キヤノン EOS Kiss M
今までのEOS M5との違いが気になる。
Kissの本質をUIアーキテクチャの観点から見極めてみたい。

●ソニー α7 III
新時代のスタンダート、これを売り切ってその潤沢な資金でオリンピックに向けたスペシャルマシンを作り上げる。

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