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デザイナー脳とエンジニア脳

デザインの領域が広がり、物事のあらゆる面がデザインの対象となってきました。世の中には〇〇デザインが誕生しそこに多くのデザイナーが登場してきました。しかし実際に起こっていることは細分化されデザインの種類が増えたのではなく、むしろひとつに融合しながら進行しているということです。あらゆる部分やレイヤーを立体的にデザインすることが求められてきているのです。

はっきり言って「部分」のデザインだけしている人っていないですよね。

都市伝説として、カーデザイナーは若いころは「ハンドルだけデザインさせれれる」という話を聞いたことがありますが、その人でさえクルマ全体のコンセプトを理解し、全体との調和を考えてデザインしているはずです。

デザインとは本来、部分だけの依頼であったとしてもシステム全体の中でデザインを考えるものなのです。

以前デザインにはフクザツ思考が必要だと考えたことがあります。フクザツなことを省略してシンプルなデザインをしてもネットワーク時代では十分では無いのです。

これからのデザインに必要なもの

システム全体(を考慮した)のデザインをおこなうためには、2つの思考法を上手く使い分けて進めていく必要があります。

これは2つのキャラクターと表現することもできます。ザックリ思考が得意なデザイナー脳とキッチリ思考が得意なエンジニア脳(ビジネスパーソン脳)です。

みなさんの隣にる実際のデザイナーやエンジニアはこんなに単純ではないと思いますが、いくつかの書籍のなかで対比として使われているキャラクターですので、この記事の中でも同様に扱っていきます。

「エンジニアのためのデザイン思考入門」ではエンジニアと美大生の組み合わせとして、「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」ではビジネスパーソンとデザイナーが対比される形で描かれ、その組み合わせによって物事が上手く実現していくようすを見ることができます。

さらにTakramの田川さんはデザインエンジニアを名乗り、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの思考を統合することの重要性を説いており、これも同様の視点だと思います。

デザイナーの特技はザックリ思考

開発後半での詳細デザインの段階では、キッチリとデザインデータを作成し提供することになりますので、その部分においてエンジニアとデザイナーの差はありません。

それに対してデザイナーの特性がハッキリと出るのがプロジェクトを始めた直後です。まだ明確な課題や目標が見つかっていない状態でも、手と身体と口を動かしながらザックリとプロジェクトを進めていくことができます。

デザイナー脳は想像で補いながら仮説を展開し具体化していく訓練をしていることで、予測と事実を混在させて話を進めるため、これまで一部のエンジニアからチャランポランな人として誤解を受けることがありました。

製品だけを開発しているときには、しっかりした計画を作り、計画通りに開発していっても問題は起きにくかったわけですが、開発する対象が複数の製品やサービスの組み合わせになり多様なユーザーが関わるIoTの開発では最初から全ての情報が集まっていることはないためデザイナーのザックリ思考が重要となってきました。

エンジニアの特技はキッチリ思考

デザイナーに対してエンジニア脳の特徴は、初めから終わりまでキッチリと物事を進めることです。

メーカーでのモノ作りは企画段階から基本的にキッチリとした内容で進められます。プロジェクトマネージメントやISOの品質規格でもキッチリと計画して監視しながら進めることが前提となっているため、メーカーではエンジニアが製品開発のリーダーになることがほとんどです。

エンジニアは不確定なことに対して敏感です。不確定な情報があればキッチリとそれを確定するための活動をおこなうことができます。この部分の対応行動の違いによってデザイナーと上手く行かなくなることもあります。

キッチリ進めることの限界が来ている

既存製品の機能や性能をアップした製品をキッチリ作るだけでビジネスが上手くいっていた時代にはエンジニアの進め方が有効でしたが、世の中の仕組みやテクノロジーが次々と変化し価値の本質が機能を増やすことではなくなってきた現在ではデザイナーの進め方「デザイン思考」が注目されるようになってきました。

デザイナーがおこなってきた思考法をビジネスやエンジニアリングの世界に応用することで、ブレークスルーをさせようとするもので、普遍的な価値の再定義や今後の変化に対応していくことが期待されています。

思考の範囲がエンジニアとデザイナーの違いだった

キッチリとは緻密であることですが、問題はその範囲が狭ければ同じ仕事量をしても緻密になるのは当然です。

デザイナーのザックリ思考は、実際にはエンジニアと同じ範囲をザックリと考えているというよりも、より広い範囲をグラデーションをもって考えているのです。

具体的には、人間中心設計プロセスやデザイン思考の中で、利用環境やユーザーの体験を製品と一緒に考え、さらに社会での意味や環境問題、歴史やブランドなど実に多くのことをザックリと考えながらデザインしています。

プロトタイピングはザックリ作ってキッチリ体験

デザイナーとエンジニアがお互いに理解しながら活動するために何が必要でしょうか。

ザックリ考えたいデザイナーと、キッチリと具体的なものにしていきたいエンジニアが一緒にやる作業としてプロトタイピングは最適です。

プロトタイプ作りは、確認したいものに応じて忠実度を下げ早く(安く)作る一方で、現実にモノとして存在するため具体的な数値や状態を持ちます。さらに使い方についても想像ではなく実際の状態を得ることができます。

つまりザックリと作りながらキッチリとした実体をベースとした改良をしていくことができるようになるのです。

みんながハッピーになれるプロトタイピングを目指して、今日も作り続けます。

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