見出し画像

食べたいのはシンプルなバゲット

雨が降り出しそうな日曜日の朝です。

「梅雨だから、こういう天気なんだよ。」

晴れていないと、ちょっとがっかりしてしまいますが、
これから猛暑がやってきて、
連日、かんかん照りが続けば
きっと こういう天気が恋しくなります。

こざる達は、いつものように 賑やかにお喋りしながら、
朝ごはんの仕度をしています。

「りこちゃん、喜ぶね。」
「うん、ぼく達も、もっと早く気がつけば良かったよ。」

こざる達が話しているのは、バゲットのことです。
バゲット、あの棒のようなフランスパンです。

「昨日のパン特集の番組、どれも皆、美味しそうだったもんね。」
「うん、今は本当にたくさん種類があるし、
美味しいパン屋さんも、あちこちにあるよね。」

りこちゃんと こざる達は、昨日、テレビでパン特集の番組を見ました。
普通の食パン、総菜パン、菓子パン、フランスパン、
たくさんの美味しそうなパンが紹介されていました。

「それで、皆で、どのパンが一番食べたいかなぁって話したんだよね。」
皆、それぞれ、あれがいい、あっちの菓子パンが美味しそうだった、
いやいや、あの豪華なサンドイッチを食べたいなどなど、
あれもこれも食べたい、どれも美味しそうと言いました。

「そしたら、りこちゃんが、バゲットが美味しそうって言ったんだよね。」
こざる達は、ちょっとビックリしました。
もちろんバゲットは、とっても美味しそうでした。
こざる達も食べたいと思いました。
けれども、これだけ沢山の種類のパンの中で、
バゲットは、最もシンプルなパンでした。

「それで、ぼく達、りこちゃんには しばらくバゲットを食べさせてあげていないって
気がついたんだよね。」

そうです。
バゲットは、硬くて食べにくいだろうと、しばらく出していませんでした。

「それから、ぼく達、以前、りこちゃんが若い頃、
初めてバゲットを食べた時のことを話してくれたなぁって思い出したんだ。」

りこちゃんが若い頃は、パン屋さんも少なく、
パンの種類も少なかったのです。
フランスパンと呼ばれていたバゲットは、町の普通のパン屋さんには
もちろん ありませんでした。

「ある日、りこちゃんの友人が都心のパン屋さんでフランスパンを買ってきてくれて、
とっても いい匂いがして、最高に美味しかったって、
こんなに美味しいパンがあるんだって思ったって嬉しそうに話してくれたんだよね。」
こざる達は、皆、うんうん、頷きます。

「じゃあ、りこちゃんにバゲット食べさせなきゃって、
外側の硬い部分を省いて、中の柔らかいところを食べれば大丈夫だねってねー。」
「そして、出来立てなら、ふわっふわで柔らかいからって、
今朝、すぐ近くの美味しいパン屋さんに、開店と同時に入れば買えるからってことになったんだよ。」

りこちゃんが美味しいと思うことが一番大切なのに、
つい安全や栄養のことばかり考えてしまっていたことに、こざる達は気がつきました。
そして、りこちゃんが食べたいものを 出来る限り安全な状態にして
食べさせてあげなくちゃねと話し合ったのでした。


そこに、バゲットを抱えたこざるちゃんが帰って来ました。
「ただいまー。バゲット、買えたよー!」
「わぁ、よかったー。」
「いい匂いがするー。」

ラジオからは、懐かしい歌が聴こえてきます。

「ゆうべの夢は金色 幼い頃に遊んだ庭」

松任谷由実の『時をかける少女』です。

「りこちゃん、呼んでくるねー。」
こざるちゃんが、りこちゃんの部屋へ向かいます。

「時をかける少女 愛は輝く舟
過去も未来も 星座も越えるから 抱きとめて」

「りこちゃーん、朝ごはん、出来たよ。
バゲット、あるよ! 皆で 一緒に食べよう!」

こざるカフェは、今日も ゆっくり始まって
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
今日は、沖縄慰霊の日でした。
よい毎日でありますように (^_^)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?