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これで家に帰れると思った日

「今日は台風の影響で、今は晴れているけど、
雷雨になったり、風が強く吹いたりするようだから、
皆、気をつけようね。」
「うん。ドアや窓の開け閉めには気をつけなくちゃ!」
「そうだね、急にバタンって閉まったりするからね。」
皆、うんうん頷きます。

今日も りこちゃんと こざる達は いつものように賑やかに
皆で一緒に朝ごはんを食べました。
そして、食後のコーヒーを飲んでいます。

テレビでは終戦記念日のニュースをやっています。

「りこちゃんは、疎開先のお寺で終戦を迎えたんだよね。」
りこちゃんは頷きます。

74年前、小さい女の子だった りこちゃんは、
東京大空襲を生き延びました。
りこちゃんの家は全焼しましたが、家族は皆、無事でした。
そして りこちゃんは家族から一人離れて、
学童疎開で地方へ行きました。

「りこちゃんの家は全焼してしまったから、何も持って行くものがなくて、
それでも りこちゃんは 友達と遠足にでも行くみたいに
嬉しそうに疎開へ行ったんだよね。」

もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない、
そう思って りこちゃんのお母さんは涙ぐんで見送りましたが、
りこちゃんは 振り返りもせず 笑顔で出発したそうです。
あまりにも小さ過ぎて、疎開というものがよくわかっていなかったからです。

「疎開先では、家族と離れて 辛い思いもしたけれど、
でも りこちゃんは 持ち前の明るさで頑張って乗り切ったんだよ。」
りこちゃんは、にっこり頷きます。

以前、こざる達は、りこちゃんに玉音放送を
覚えている?と聞きました。

すると りこちゃんは こう言いました。
「意味は よくわからなかったけれど、
ああ これで 家に帰れるって思ったよ。」

子供たちが 皆、お寺の本堂に集められて
玉音放送を聞いたようです。
りこちゃんのように意味がわからなかった子も、
もう少し大きくて わかった子も、
皆、家に帰れると思ったことでしょう。
子供たちだけでなく、誰もがそう思ったことでしょう。


「戦争は、絶対にだめだよ。」
以前、りこちゃんは、この時期になると よく言っていました。

「りこちゃん、そんなこと、皆、よくわかっているよ。」
こざる達は、そう言いました。
わざわざ言わなくたって、当たり前だと思ったからです。

すると りこちゃんは こう言いました。
「でもね、一人一人が ちゃんとそう思って、
自分の頭で ちゃんと考えて、強くそう思い続けていないと
いつのまにか戦争に巻き込まれていたりするんだよ。」
こざる達は、じっと聞いていました。

「あの時だって、皆、戦争はだめだって、嫌だって思っていたんだよ。」

こざる達は、遠い昔、小さい女の子だった りこちゃんのことを思います。
一人、家族から離れて数ヶ月、スマホどころか電話もありません。
たまに来る手紙のみです。
明日はどうなるかわかりません。
明後日も、その先も、その前に今日、どうなるかわかりません。
そんな日々を皆、過ごしていたのです。


こざるカフェは、今日も ゆっくり始まって
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
いろいろな思いが巡る今日一日でした。
よい毎日でありますように (^_^)


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