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桜の通り抜けと お稲荷さん

「りこちゃーん、おやつだよー。」
こざるちゃんが おやつを持って、りこちゃんの部屋にやって来ました。

「おやつの時間ね、こざるちゃん。」
りこちゃんは、今日のおやつは何だろうと、
こざるちゃんが持って来たお盆の上を じっと見ています。

「今日は、お稲荷さんだよ。」
「まぁ、嬉しいね。」

 こざるちゃんは、テレビに録画した番組をセットします。
「今日は、お花見している気分で お稲荷さんを食べようよ。」
「うん、いいね。」

 こざる達は、りこちゃんに見せようと、
何かいい番組があると 録画するようにしています。

 こざるちゃんがセットしたのは、各地の桜の名所を
映像と音楽だけで編集した番組です。
有名人が出ているけでもなく、またナレーションもないので、
お花見をしているような雰囲気になります。

 こざるちゃんは、りこちゃんの前に
お稲荷さんが二つのった小皿を置きます。
「お茶は、少しずつ、ゆっくり飲んでね。」
「うん。こざるちゃん、ありがとう。」
りこちゃんは、嬉しそうに お稲荷さんを見ています。

「いただきまーす。」
二人で桜を眺めながら、お稲荷さんを食べます。

「わぁ、りこちゃん、綺麗だねー。」
「ほんと、ほんと、綺麗だねー。」

 日本には、たくさんの桜の名所があります。
でも特に名所と言われるところでなくても、
普通に近所に、たくさんの桜があります。
この季節になると、あちこちに ふわふわしたピンク色の一角が出現して、
あそこにも、ここにも、桜があったんだと気がつきます。

「あれ?」
こざるちゃんは、何か気がついたようです。

「りこちゃん、お花見している人たち、
みんなニコニコ、嬉しそうに桜を見上げてるよね。」
「そうね。」満開の桜のトンネルの下を
人々が嬉しそうに歩いている様子が映っています。
大阪の造幣局の桜の通り抜けです。

「みんな、桜を見上げて、お話してるよね。」
「うん、そうねー。」
二人もニコニコ見ています。

「あのね、きっと今だったら、ああやって
のんびり お話ししながら歩いている人よりも、
スマホや カメラで写真撮っている人の方が たくさんいると思うんだ。」
りこちゃんも、じっと画面を見ます。
確かに スマホで写真を撮っている人はいません。

 少しして、画面の下に『1975年』と文字が出ました。
1975年は スマホや携帯なんて存在どころか、
想像だにしていない時代です。
それにカメラも とても高価なものでした。
コンパクトカメラは あったでしょうか?
あったとしても カメラ自体がとても高価なものでしたし、
デジタルではなく、フィルムのカメラです。
フィルムも高価ですし、現像代も とても高かったのです。
写真は贅沢でした。

「あ、あの人、首からカメラ、ぶら下げているよ。」
「ほんとだね。」

 一人のおじさんが、首から一眼レフのカメラを
大事そうにぶら下げています。
また別の人が、家族でしょうか、桜の下で、記念撮影をしています。
みんな、ニコニコ、嬉しそうです。

「昔は、ああだったんだね。」
こざるちゃんは、しみじみと言います。
ちょうど 今、見ている朝ドラの続編の『ひよっこ2』が
1970年で、朝ドラ『まんぷく』も その頃ですから、
同じ年代です。
たくさん写真を撮ることもなく、スマホで何かを送ることもないので、
皆は おしゃべりしながら 楽しそうに 
桜のトンネルを ゆっくり歩いています。

 テレビからは、綺麗な桜の映像とともに、
バイオリンの美しい音色が聴こえてきます。
ヴィヴァルディの『四季』の中の『春』です。

「桜って、お花見って、いいねー。」
こざるちゃんは、心からそう思いました。
「そうね、いいね。」
りこちゃんも、にっこりしています。

今日も こざるカフェでは、ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
桜を見ると、とても嬉しくなります。桜があって、本当によかったです。
よい毎日でありますように (^_^)


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