古館さんはもちろん知らない、普通のビジネスマンのための「チャート」でキメる標準パワポ作成テクニック

Chap.0 なぜ古舘パワポ事件は過剰な反応を呼んだのか?

古舘伊知郎氏の「パワーポイントを知らない」という発言に対して、ネットは敏感に反応した。経緯に触れておくと、2014年4月9日のテレビ朝日「報道ステーション」がSTAP細胞を巡る会見のニュースを流し、小保方氏のラボミーティングで使われたパワーポイントの写真が間違って論文に載ってしまったという説明に、司会者の古舘氏はパワーポイントという言葉がわからなかったと述べた後、番組前に調べたらしいパワーポイントの機能を紹介した。

この発言に対するtwitterをはじめとするネットの反応は「常識的なソフトとその機能を知らない」という意見が大半を占めた。マイクロソフト社は宣伝の好機ととらえ、パワーポイントは簡単に使えると公式アカウントでtweetした。

しかし、アナウンサーと言う仕事はプレゼンテーションの「喋り」(説明)の部分に特化しているため、同じプレゼンでも「スライド作成」を担当する必要はない。古館氏がパワーポイントを知らないというのも、もっともな発言にも思える。

ネットの反応が過剰になった要因は「ビジネスマンなら誰もが当たり前に知っているパワポを……」という一点に集約される。

パワーポイントはパワポと言う省略形でよく会話に登場する。正式名称はMicrosoft Powerpointであり、その後にバージョンを示す年式が付加されるのだが、ここでは基本的にパワポで通したい。片仮名の省略形というのはそれだけ日常的な存在を指すわけで、サラリーマンにはパワポは日常なじみ深いツールになっていることを示す。しかし、この日常ツールをうまく使いこなせているかと言うと、話は別だ。

あなたが作ったパワポのスライドを見せてくださいと言えば、古館氏に無責任な苛立ちをぶつけにくくなる人も数多く出てくるだろう。いつも資料をパワポでは作っているが、ソフトの機能を系統立てて学習したわけではないし、なんとなくルーティンでやっているに過ぎない。ビジネスで当たり前に使われているのに使いこなせていないパワポ。ここでは、ビジネスコミュニケーションツールとしてのパワポを効果的に使いこなすエッセンスを紹介する。

なお、パワポの各コマンドについての詳細などは、いわゆるアプリのマニュアル本にでもあたってほしい。膨大なコマンドをすべて使いこなせる必要はないし、本書の内容については、それほど専門的な操作を必要とはしない。多くの読者はソラでこなせるだろう。

Chap.1 パワポのすごさを確認しておこう

筆者はタイアップ(記事広告)の仕事をよくやらせてもらっている。企業が製品やサービス、ブランドなどの紹介を、ベタな広告ではなく、取材記事調で雑誌やポータルサイトなどに掲載するためのライティングだ。クライアントの話を聞き、事前に(当日の場合もあるが)渡される資料やサイトの情報などを参照してタイアップ記事を作成する。

取材の場では、話はICレコーダーで録音しながらメモを取る。そして、渡された資料の重要と思われる部分にチェックを入れる。この資料はもちろんパワポのプリントアウトだ。稀にセミナーなどでキーノートというアップル信者のプレゼンも見かけるが、ここ数年企業から渡される資料の場合はパワポ以外は経験がない。

パワポの普及ぶりには感心する。日本語版で発売されたのが1996年のPowerPoint97だから、登場からまだ20年も経ってない。にもかかわらず、会議の資料だろうが、セミナーのレジュメだろうが、「パワポ」のプリントアウトが配られないことはない。パワポはよくPCに同梱されているMS OfficeのPersonal Editionには含まれないため、個別に購入されているとすると、ソフト単体でもかなりの数の販売実績を持っていると推測される。というか、いまや単体のビジネスアプリとしてはダントツの販売数なのではないだろうか。

日本にもパワポが使用される以前から企画書というものは存在したが、グラフや表を貼りこんではいたが、あまりビジュアライズされたものではなく、現在のイメージでいえばMSWordで作るずらずらした分厚いばかりのドキュメントだった。これが2000年代なかばには、実質10年足らずで企画書と言えばパワポが常識と言う世の中になってしまった。

まあ、「読まれない企画書」から「見せる企画書」への転換、ビジネスコミュニケーション能力の向上ということなのだろうが、元となるパワポのファイルがあれば、スライド単位で入れ替えていけば比較的小さな労力で新しい企画書・プレゼン資料が作り出せるという点が評価されたのだと思う。他にもPCを接続投影可能なOHP装置を導入する企業が増えたなどの要因も考えられるが、もうひとつ重要なのが、インターネットの普及によって日本より約10年先行していた英語圏のパワポドキュメントが、容易に入手できるようになったことが挙げられるだろう。グローバルスタンダードなプレゼンテーション資料に追い付こうと、日本のビジネスマンたちが頑張ったというわけだ。

前述のタイアップ仕事ばかりでなく、セミナーを取材したり、コンペのオリエンを受けたりでパワポドキュメントを目にする機会は多い。資料としてPDF化したものをネットから落してくることも日常だ。少なくとも年に数百ファイルは見ている。

普及要因としての、見てもらえる提案書を一からではなく作れる便利さは、しかし、必ずしもプレゼンテーションのわかりやすさに結びついてはいない。企業単位やセクション単位でのスライドの方言のようなものも生まれやすい。共有のひな型から作る場合でも、個人の能力や感性に依存する部分も大きく、不意に細かい文字で埋められたシートがはさまっていたりする。

いくらプレゼン全体ではストーリーができていても、これではバランスが悪い。「激的ビフォアアフター」のリフォーム前みたいなパワポ文書が巷には溢れているのだ。

このため、プレゼン自体のストーリーとは別に、モジュール構成みたいなことを考えないとよいパワポドキュメントはできあがらないだろう。

ここでは、プレゼン技術のうち話し方などには触れないが、とにかくプレゼン資料を良くするためには、プレゼンの文法的なものを意識する必要がある。

本書では、派手なプレゼンシートの作り方を説明するつもりはない。普通のビジネスマンが日常のビジネスのなかで、社内外を説得するために作成するプレゼンテーションシートを少ない手間で改良するためのポイントを伝えていく。

だが、その前に、パワポスライドを作成するにあたって、これはやらない方がいいといういくつかのポイントをお話しておこう。

Chap.2 パワポ、3つの「べからず」

1.基調講演のスライドは別物

大規模な展示会やセミナーの基調講演では、プレゼンテーションシートをプレゼンテーターが作っているとは限らない。展示会やセミナーの仕切りには当然大手広告代理店が噛んでいて、基調講演ともなれば彼らの演出がある。それは登場のドラムロールや照明の効果だけでなく、プレゼンテーションシートにも及ぶ。

プレゼンの内容までは手が出ないにしても、できあがったスライドを制作会社に渡し、視覚的な整理や演出を加えることは珍しくない。プレゼンター側も手慣れてくると、このスライドにはこういうビジュアルを入れて、観客にどう見えるようにしてほしいといった指示を出してくる。

こうしたものを理想に据えてプレゼン資料を作成するのは、東京ディズニーランドを目標に町内会のお祭を計画するようなものだ。社内や対得意先のプレゼンでディズニーランド的な派手さを演出しても、望むような効果は得られない。あれは別物だと認識して、地に足のついたプレゼンを目指そう。

2.インフォグラフィックスの罠

もうひとつ、気をつけなくてはいけないのが、インフォグラフィックスだ。

ユーザーインターフェイス(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)が重要視される現在、ちょっとサイトを除けば、センスに優れたインフォグラフィックスがごろごろ出てくる。

だが、これらも普通のパワポプレゼンには使えない代物だ。

スパムチャートという言葉があるが、チャートのためのチャート、華美を追求し、見る者を驚かせることを目的にしたチャートは問題が多い。それに多くのインフォグラフィックスの秀作は、2つ以上のチャートを組み合わせて1つの図として見せることに知恵を絞っている。これをパワポでやろうとするとスライドは窮屈になり、内容を認識してもらいづらくなる。気の効いたインフォグラフィックスの採用も、基本的には敬遠すべきだろう。

3.アニメーションの多用は慎もう

そして、三番目に気をつける必要があるのがアニメ機能の多用だ。プレゼン実行の際、アニメ機能はクライアントや上司の目を引き付け、プレゼン内容で変化などを印象付けるのに有効だが、二次元のペーパー資料も配る場合には、そちらの見え方も気にする必要がある。オブジェクトを順次表示にするだけならかまわないが、通常の印刷指定だとアニメーションが重なってしまうケースなども発生する。マクロを利用して分割するなどの方法はあるが、手間がかかる。

プレゼン時に関心を持ってくれても、あらためて紙のプレゼン資料を見なおしたときに訴えるものが弱くなっていては問題だし、意味が読み取りづらくなってはなお困る。紙への出力を重要と考えるなら、アニメーション機能の使用は抑えるべきだろう。

とにかく高望みをせず、日常的な作業でいかに説得力のあるパワポを作るかに専念してほしい。

※というわけで、興味を持たれる方がある程度いるようなら、これから実践編を書いてアップしようかなと思います。その際は有料にするかも知れません。

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