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ハイブリッド・ミートソース


ときどき、急にミートソースが食べたくなる。


これは持論だけれど、家を出てから食べなくなるパスタ第一位はミートソースだ。異論はあるだろうけど、少なくともわたしはそうだ。

いっぺんにたくさん作れて、何人かと食べるのには最適で、工程はちょっと面倒だけれど、一度作ってしまえば冷凍もできる。ドリアなんかにするのも良い。
そういう意味でなにかと家庭向きな感じがする。


祖母はとても料理上手で、泊まりに行くたびに色々ともてなしてくれた。
ある休みに訪れたとき、お昼はミートソースパスタだった。

台所でみじん切りをしていたのはにんじん、玉ねぎ、それから椎茸だった。
椎茸は入れちゃダメだよ! と好き嫌いの多いわたしは叫んだ。けれど、後で避けることを約束されたから完成を大人しく待つことにした。

出来上がったパスタは本当においしく、すいすいと完食した。
おいしかったと祖母に言ったら、にこにこと笑いながら、
実はあなたのお皿に椎茸を入れたままだったのよと告げられた。

瞬間、だまされたと思ったけれど何も言わなかった。
祖母の嬉しそうな顔がよかったし、実際気づかないくらい巧妙に炒められていたのだから。

一緒に遊びにきていた母は、パスタを食べながら おばあちゃんのはちゃんと作ってるからおいしいわねぇ〜とのんびり言っていた。
彼女はたまねぎが大嫌いのはずなのに、これまたすいすい食べている。



細かい祖母に対して、母は結構大ざっぱだ。
彼女の料理における座右の銘は「一期一会」であり、曰く、毎回同じ味付け、同じ材料とは限らない、という意味らしい。

たしかに調理スタイルは祖母とはだいぶ違う。
ミートソースを作っているときもトマト缶、ウスターソース、砂糖、醤油、よく分からない粉を目分量で加えて、また後から足してを繰り返している。
旨みとして必要な野菜はほとんど加えない。
でも、不思議なことに最後にはちゃんとおいしくなるのだ。

おいしくて、また作って欲しいと言うと、母は決まって「一期一会だからね」と言ってニヤリと笑うのだ。


わたしはと言うと、あの二人から遺伝子やら何やらを脈々注がれた結果、律儀と大胆のちょうど中間あたりの適当さを会得した。

料理自体は好きで、レシピ通りに作ることもあるし、あれは合いそう、これはどうだろうという足し方もする。

細かく刻んで、炒めて、煮つめて、こそげながらかき混ぜる。
地味に手間もかかるし、なんなら買ったソースのほうが完璧だ。

でもなぜだろう。どうしようもなく食べたくなるのだ。昔、わたしが作ってもらってきたように、わたしも作りたい。

で、今日作ったミートソースは、どちらかというとデミグラス寄りのよくわからないものに仕上がった。
欲張って色々と入れることが正解とも限らない、そういう教訓をもらった気になる。

どんな味がするのだろう。

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