見出し画像

Tumblrはどこへ行こうとしているのか?エロ画像収集ツールからファンダムコミュニティへ

1.Tumblrがアダルトコンテンツを排除へ

Tumblrが児童ポルノを含むアダルトコンテンツの投稿を禁止すると発表した。

グローバルプラットフォームである以上当然の処置とも言えるが、アダルトコンテンツを含むネットの裏の部分を支えてきたのがTumblrだった。

Instagramとの対比でTumblrを位置づけを考えると分かりやすい。

TumblrはWeb上で見かけたものを記録を残していくサイトであり、Instargramは現実世界で見たものを記録していくサイトである。2010年代なかばからリアルがネットに侵攻してくるようになった。それまで現実と仮想空間は別の新世界であったはずが、ネットは単に現実社会と陸続きの日常的な空間に変わってきている。その波にTumblrはうまく乗れなかったのかもしれない。

Instagramを現実空間、Tumblrを仮想空間としての対比は端的な指摘だと思う。一方で自分はInstargramがハレの空間であるならTumblrはケの空間だと考えている。

そこで、Tumblrとは何か?から始まりTumblrはどこへ行こうとしているのか?を考えてみたい。

2.創業者デビッド・カープが語るTumblrとは?

Tumblr創業者デビッド・カープはTumblrについてこのように語っている。

当初デビッド・カープはクリエイターのためのプラットフォームとしてTumblrの利用を想定してた。

「我々はクリエイターにとっていいツールを作っていく。何にフォーカスするかということ、クリエイティビティだ。表現をするプラットフォームは現在、YouTube、Instagram、Tumblrしかない」
クリエーター、自己表現の場、そこにTumblrの意義を置いているDavidなわけだが、もともとはブックマーク的なツールとしてTumblrの開発を始めたことには触れておこう。David自身が使いたいと考えていたのは、こっちのツールだったという。本人が述べていたが、思った以上にクリエイターが集まり、Reblogという仕組みによって拡散機会が高まったことが、Tumblrの性格を変えていったようだ。
 「Twitter、YouTube、Facebook。どれもユーザーのページは同じ見た目だ。そこは変えようがない。でもTumblrなら表現の自由を開花させられるはずだ。写真や動画といったいろいろなコンテンツを扱うことができ、そしてそれらを自由にレイアウトできるというプレゼンテーション面。この点にTumblrの無限の表現性がある。」

その後はご存知のように、米Yahoo!に買収されたが、結局収益の目途も立たず大赤字を出したままベライゾンへ売却。デビッド・カープは2017年末をもってCEOを辞任した。

広告嫌いのデビッド・カープがなぜTumblrに課金機能を実装しなかったのか?もしくはできなかったのか?今もなお不思議に思うところだが、もし課金・サブスク・投げ銭機能を実装し、Patreon.comのようなパトロンプラットフォームになっていればこれまでとは違ったプラットフォームになっていたに違いない。

3.Tumblrとは何か?

Tumblrはよく「マイクロブログサービス」とか「マルチメディアプラットフォーム」と言われるが、ユーザーによって全く異なる使われ方をしている。

例えば、あるユーザーは

人の目を気にせず「今日あったこと」を気軽に投稿できるTumblrは、ネットの原点に返ったというか、古き良きブログ時代に戻ったというか、「一周してオシャレ」的なニュアンスを感じます。
牧歌的だけれどオシャレ。SNSだけど自分語りをしてもOK。その絶妙なバランスを原動力に、Tumblrの躍進はまだまだ続きそうです。

と語れば、別のユーザーは

コンテンツから気に入ったものだけを自分のブログにリブログ。短文ネタで吹いたらリブログ、ゴネゴネと砂浴びをする猫gifに和んだらリブログ。リブログリブログリブログ。それをただただ繰り返す。

このように反論する。こうした見解の相違が起こるのはTumblrがあまりにも多機能過ぎることにより、逆に何に使ったらよいのか分からないプラットーフォームだからだ。

自分はTumblrは一言で言えば「コンテンツ・キュレーション・プラットフォーム」だと考えている。Tumblrの位置づけを整理してみると

機能面では
1.ブログ
2.SNS
3.CMS

使われ方は
1.Pinterestのように集めること
2.Twitterのようにつながること
3.Instagramのように発信すること

コミュニティでは
1.オープンのメインブログ
2.クローズのサブブログ

と分類することができる。

ユーザーによってこの組み合わせは多種多様であり、エロ画像収集ツールからファッションブランドの公式ブログまで幅広くTumblrは使われることになった。

次にInstagramとの対比からケの空間としてのTumblrについてみていきたい。

4.の空間としてのTumblr

アーティストやクリエイターのポートフォリオ、ファッションブランドのブログ、スタートアップ企業のオウンドメディアなど様々な使われ方がしているTumblrだが、やはり海外においてもTumblrは裏アカウントというイメージが一般的である。

Tumblrはそのサービス上の人をフォローし、フォローされる匿名のプラットフォームとして機能する。
言い換えると、誰もがTumblrを持っているのに誰もそれについて話さない秘密のコミュニティなのである。本来の自分を出し、興味や趣味が同じ人と交流する場所なのである。それゆえTumlrのURLを知っている友達は本当に仲が良い友達のみに限られている。
それに加えて、もし誰かが自分のTumblrを見つけたら、簡単にURLを変えることが可能。プロフィールに自分の名前の記載はないし、URLがないと名前を知っていても人を見つけることは非常に難しい。特に、こっそり自分のソーシャルメディアを見ようとしている親に対しては有効。多くの交流がこのプラットフォーム上で起きているとは言えないかもしれないが、誰もが簡単に世界中で共通の趣味、興味を持つ人と出会うことが出来る。
そこが魅力的で、多くの10代もただ友達を作るためといった目的のために登録している

海外のミレニアル世代、特にジェネレーションZではTumblr GirlたちがコミュニケーションツールとしてTumblrを上手く活用している。

TumblrがジェネレーションZにこのような使われ方をしているのには3つの理由がある。

1.親バレしない
Tumblrには、おじさん・おばさんが少ないので親バレする可能性が低い。

2.サブブログに鍵がかけられる
Tumblrにはメインブログの他にサブブログをいくつでも開設できる。サブブログは招待制で複数で投稿でき、パスワードでロックできる。そのためカップルや仲間内の投稿掲示板として利用できる。

そしてこれが最も重要だが
3.ポルノ画像が削除されない
女性のトップレスや男女の性器が写っている画像でもInstagramのようにアカウントを凍結されたり、削除されない。そのためカップルや仲間内のそうした画像も投稿できる。

以前に自分は、

国内でTumblrがキャズムを超えるためには、実はジェネレーションZに絶対に親バレしない裏アカウントとして利用してもらうことではないかと、密かに考えています。

と語ったが、ついにアダルトコンテンツの投稿が完全に禁止されたことによりケの空間としてのTumblrも消滅することになった。

5.ファンダムコミュニティとしてのTumblr

ケの空間が消滅したTumblrに存在価値はあるのか?
InstagramやPinterestと何が違うのか?

実はTumblrは新たなユーザー層がとって代わろうとしている。それはポップカルチャーのファンダムだ。

あなたは Fandom(ファンダム)という言葉を知っていますか?
これは熱心な愛好家を意味する Fan に接尾辞 dom を付け加えた新しい単語で、私たち Wikia(ウィキア)の世界観をあらわすコンセプトフレーズでもあります。
Fandom はアニメ、コミック、音楽、ゲーム、映画、テレビ番組、アイドル、スポーツなどの情熱的なファンがつくる新しい世界、また彼らによって形成される新しい文化を意味しています。
「ファンダムとは“人”ではなく、ファンの“行動”を表す言葉です。熱狂的な人たちが参加する、利益とは関わりないもろもろの活動がファンダムなのです。消費者は製品を気にしますが、ファンは製品が意味するものが気になる。欲しいものも必要なものもまったく違います」
ファンのモチヴェーションは、費用対効果で決して測ることができない。むしろ、ファンは、そこにそうした「経済合理性」を持ち込まれることをすら嫌うだろう。「タダでもやる人がいるんだから、インセンティブを与えればもっとやるだろう」という観点から行われるマーケティングは、ファン心理を決定的に見誤っている。お金をもらってファンアートを描くような人間は、ファンの風上におけない。そんなシンプルな動態さえ、経済学やマーケティング理論はきちんと扱えてこなかった。それではもはやこれからの商売は立ち行かない、ということが、本書のような本が必要となっている理由なのだろう。もちろん、これまでも「ファンダム」も、それをターゲットにした「ファンビジネス」も存在はしてきた。じゃあ、一体何が、決定的に変わってしまったのかというと、それが容易に、組織化され、可視化されるようになったということに尽きるだろう。

今やTumblrはこうしたファンダムの主戦場となっている。

Tumblrでは毎年独自の集計方法によりジャンルごとに流行語大賞を発表している。ちなみに2018年は

Tumblrが選ぶ「Best of 2018」
1 BTS(K-POP)
2 Voltron(ボルトロン NetflixのWebアニメ)
3 Marvel(マーベル・コミック)
4 Steven Universe(スティーブン・ユニバース、アニメ作品)
5 Boku no Hero Academia(僕のヒーローアカデミア 堀越耕平のTVアニメ)

こうしたファンダムの中で最もTumblrを上手く活用しているがK-POPのファンダムである。

6.K-POPとTumblr

米国で最も権威のある音楽チャートBillboard(ビルボード)には「ビルボードソーシャル50」というチャートがある。

この「ビルボードソーシャル50」というチャートはSNSからアーティストの人気度を測るチャートである。

ビルボードによって、ミュージシャンとファンは、全く新しい成功のメトリック(基準)を体験することができるようになりました。ビルボードはソーシャルネットワーク上でのファンの活動をベースにしたアーティストの人気度をランク付けする「Social 50」チャートを開始しました。
ソーシャルメディアサイト上の音楽ファンの活動を分析するトラッキングツール「Next Big Soung」を組み込んだSocial 50ウィークリーチャートは、Facebook、YouTube、MySpace、Twitter、iLikeなどSNSからアーティストの人気度を測定します。

この「ビルボードソーシャル50」のチャート、見てもらえれば分かるがK-POPアーティストの独壇場である。

特にBTSは100週で1位を記録。ジャスティン・ビーバーに次いで、2組目の快挙を達成した。

自分はアメリカの音楽市場でのK-POPの成功はファンダムによるTumblrを活用した「応援サイト」の効果が大きいと考えている。

K-POPのファンダムはFY〇〇という英訳した勝手「応援サイト」をTumblrに作成して海外、特にアメリカに向けて情報発信している。ちなみにFYとは”fyeah” “Fuck Yeah"で「最高!」というネットスラングである。

例えば日本でも有名なTWICEや少女時代では

ちなみに2018年のTumblr「K-POP Stars」のランキングは上位を全てBTSのメンバーが占めている。

さらに特筆すべきことは、このTumblrのファンダムランキングをあの『Forbes』が取り上げて記事にしているのである。

この『Forbes』の記事を紹介した日本語記事がこちら。

Tumblrを活用したK-POPのファンダムのPR戦略が「ビルボードソーシャル50」のチャートを動かし、アメリカのジェネレーションZの間では社会現象にもなっているのである。

7.最後に

Tumblrがアダルトコンテンツを排除したことによりこれまでのユーザーはTumblrを離れることになるでしょう。しかし新たなユーザーを迎えてTubmlrが今後どのようなプラットフォームになるのか?どのようなコミュニティを築くのか?をTumblrユーザーとしてこれからも注視していきたいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?