その9 僕は多分、この日を一生忘れない
後期試験1日目夜、おそらくなんとかなっただろうという感触だった。
2日目は面接だけなんで比較的余裕はある。うちの大学は医師を志した理由とかそんなことは聞かれず、医療倫理について問う面接だった。
ちなみに僕の時は
・腎臓片っぽ売ってお金儲けるのどうよ
・超高齢化社会どうよ
・忘れた
とかだった気がする。現役は一律に点数が与えられ、やばいやつだけ落とすシステムだと聞いた。
本当にやることがなくなった。のんびり過ごしていた。
さやに会いたい。
僕は連絡した。
明日、2日目終わったら会えないかな。
いいよ。
渋谷でいい?もしかしたら遅くなっちゃうかもだけど。
わかった、終わったら連絡ちょーだい。
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2日目の面接を爆速で終え、さやに会いに行った。
渋谷。14時くらいだっただろうか。
ごめん、おまたせ。よーやく終わった〜
終わってよかった。お疲れ様。
ありがとう、さやちゃんは最近何してるの?
んーのんびりしてるかな笑
そっかwようやく受験終わったもんね。
うん、そうなの。
どっか入ろうか。マックでいい?
いいよ。
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でも理3受けてたんだね、知らなかった。
俺も受ける気なかったんだけどさ、色々あってね。浪人しようと思った。
冗談言わないでよ笑
本当にたわいのない話をしていた。入試がどうだったとか、後期試験の勉強がストレスすぎて隣町まで自転車漕いでたとか。合格発表がいつだとか。
偶々、理3アメフト部の話になった。
あそこ、マネージャーの人数がプレイヤーより多いらしいよ。
えーそうなの?そんな部活かずぽそ君には入って欲しくないなぁ
この会話だけは鮮明に覚えている。なんでさやはこんなに心配してくれるんだろう。優しさか、はたまたそれとも…
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3月18日。
僕は合格した。
さやにすぐ言おうとした。しかし、言っても意味ないんじゃないかとも思った。
さやと結婚するために医学部に入ったものの、結局東大じゃなくなった。しかもさやは理2で周りには僕なんかよりハイスペックな理3達がゴロゴロいる。僕がここでさやを縛って付き合うより、東大で大学生活を満喫した方が幸せになるのではないか。
ただ、おそらくさやも心配はしてくれている。とりあえず結果を報告するくらいはいいのではないか。
そんな葛藤を続けていた。
3月19日。結局僕はメールで合格を報告した。
さやちゃん、後期千葉医受かったよ。
おめでとう!昨日連絡ないから多分受かったんだろうなって思ってた。
見抜かれ過ぎて笑った。
僕はふと思った。
この1年間、さやは嫌な顔一つせず僕の誘いの殆どを受けてくれた。正直、さやは僕にもう気があるんじゃないかと考えていた。しかし、そんなものは自分の願望に過ぎないとも思えてしまう自分がいた。
純粋に知りたかった。僕のことをどう思っているのか。
なんともないならもう終わりでもいいんじゃないか。さやを不幸にさせてしまう気がする。
メールした。
さやちゃん。
何?
俺のこと、どう思ってるの?
わからないの?
(続く)