迷宮

    迷宮の扉が開くのは、百年に一度だと伝えられている。
 あくまでも伝承だから、真偽のほどはわからない。そもそも、迷宮それ自体がどこにあるのか、黴臭い地図は何も伝えない。
 迷宮の扉は、古い書物の一度も開かれたことがないページに似ている。なぜかそこだけが封印されており、いまだかつてだれにも読まれたことがないのだ。
 ただし、それはうらぶれた伝承によくあるような禁断の書のたぐいではない。古い書物のそのページを読んでも、べつに何も起こりはしない。
 迷宮も同じだ。仮に見つけて扉を開けても、世界は何も変わらない。うち見たところでは、以前と変わらない世界が続いている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?