踏切

   その踏切は開かずの踏切ではない。
 開かずの踏切ならさして珍しくはない。警報機が頻繁に鳴り、列車が通る。昏倒しそうになるほど長いあいだ待たなければ、遮断機が上がることはない。
 しかし、その踏切は開かずの踏切ではない。なにしろ、いままでに一度も開いたことがないのだから。
 そこでは常に警報機が作動している。かなり間延びした、弔鐘のような警報が鳴りつづけている。遮断機の手前には、白い目をした人々が並んでいる。自転車から下り、行儀よく横に並んで、遮断機が上がるのを待っている。
 夢色の列車は通り過ぎていく。風とともにその場所を通過していく。踏切の向こう側は見えない。常にあいまいにかすんでいる。遮断機が上がらなければ、そこを見ることはできない。
 いまにも倒れそうな自転車を持って、白い人々は待っている。いずれ一度だけ、踏切が開くときを待っている。
 その銀輪が見える。かすかな光を受け、それは鈍く光っている。


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