青い花瓶のある室内
その花瓶がいつからそこに置かれているのか、もう知る者はいない。
集合住宅の七階の久しくドアが開いていない室内に、青い花瓶が置かれている。うっすらと埃をかぶっている花瓶は値打ちのあるものには見えない。見たところは名もなきただの花瓶だ。
その花瓶に特別な価値があるとすれば、置かれていた場所だ。七階の窓際の室内からはかなり遠くまで景色を見晴らすことができる。
あの日、青い花瓶は見た。いともたやすく世が終わるのを見た。花瓶の肌が赤く染まり、ゆっくりと時間をかけて青に戻っていった。
いまは静かだ。もう花瓶が赤く染まることはない。すべては燃えつきてしまった。
まだ世界が続いていたころと同じたたずまいで、花瓶はそこにある。だれも訪れる者のない室内に置かれている。
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