卵売りのピエロ

    

    ピエロは卵を売っている。毎日、その朝とれたばかりの新鮮な卵を売っている。恥ずかしいから、ピエロは素顔で卵を売る。だから、だれも卵売りがピエロであるとは気づかない。
 やがて、何の前ぶれもなく、卵が売られなくなる日がやってくる。鶏が卵を産まなくなったとも、鶏がみなさらわれてしまったともささやかれる。あるいは、遠い国で恐ろしい洪水が起きたのだとも。
 卵を売る代わりに、卵売りのピエロは地面に座る。いつまでも座りつづけて卵になる。哀しげな顔がうっすらと浮かぶ、大きな卵になる。

(『だれのものでもない赤い点鬼簿』より)

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