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【Nantucket Sleighride】(1971) Mountain 米国叙情派ハードロックバンドの2nd

クリームのプロデューサーだったフェリックス・パパラルディが、巨漢のギタリストのレズリー・ウェストと結成した米国ハードロックバンドのマウンテン。

米国ハードと言っても所謂抜けのいいアメリカンサウンドとはひと味違って、彼等の場合は抒情味ある湿り気を含んだハードロックが特徴的でした。活動期間は短かったものの、ロックの歴史に残る知性と野性を感じさせるバンドです。

本作はマウンテン2作目。前作【Climbing! 邦題:勝利への登攀】から "Mississippi Queen" のヒットも飛び出して一番脂が乗っていた時期の作品です。
メンバーはフェリックス・パパラルディ(B)、レズリー・ウェスト(Gt)、スティーヴ・ナイト(Key)、コーキー・レイング(Dr) の4人。

マウンテン最大の魅力は、プロデューサーのフェリックスによる高い音楽理論とレズリー・ウェストのハードロッキンな個性のぶつかり合いです。
クラシックの技法などを持ち込む知性派のフェリックスに対して、ストレートなR&R気質でルックスからして肉体派のレズリー。双方のキャラクターが激突して生まれる化学反応がバンドの醍醐味となっています。

とは言っても、バンドの指揮官はフェリックス・パパラルディ。2作目となる本作ですが、かなりフェリックス色の強い内容ですね。彼の理想とする理知的で計算されたハードロックとしては成功なのでしょうが、個人的には元来持ち味だったシャープでダイナミックな野性味は後退してしまった気がします。心なしかレズリーもちょっと窮屈そう…。

ただし本作は何と言っても表題曲 "Nantucket Sleighride"(ナンタケット・スレイライド)。これは名曲です。フェリックスが目指したシンフォニックなハードロックの真骨頂と言えますね。
実際に19世紀にクジラと衝突して沈没したという捕鯨船を題材に選び、仲間を助けるために犠牲となったオーウェン・コフィンという少年船員に捧げた内容です。壮大なテーマとプログレ風の構成がピッタリとくる組曲となっています。


(アナログレコード探訪)

ウインドフォール・レーベルの米国初回盤
音質は当時の普通レベルでした。

マウンテンが所属したウインドフォールは、フェリックスがバンドを売り出す為にコロムビア傘下に立ち上げたレーベルです。活動、製作に関する制約から逃れる為の対策だったと思われます。
実はメンバー全員、フェリックスが手掛けた息のかかったミュージシャンだったそうで、バンドはフェリックスの独裁だったのでしょう。レーベルはマウンテンが2度目の解散をした1974年に消滅しています。

見開きジャケット

歌詞全般、カバーアートを担当したのがフェリックスの妻ゲイル・コリンズです。独特の世界観を持った美しいタッチの絵はマウンテン作品の特徴ですね。
夫婦二人三脚のコラボでしたが、1983年にゲイルは旦那のフェリックスを射殺するという痛ましい結末を迎えています。浮気だったとか…。

全盛期の作品らしく、歌詞を掲載した小冊子、
バンド写真など豪華なオマケも封入されています。


〜曲紹介〜

Side-A
① "Don't Look Around" 3:42
レズリー・ウェストがボーカルをとる豪快なハードR&R。巨体から繰り出す野性味溢れる歌とギターは圧倒的です💦
映像は独のTV番組ビートクラブ。レズリーのパワフルぶりもさることながら、コーキー・レイングのシャープで手数の多いドラミングもなかなかの見応えです。

② "Taunta (Sammy's Tune)" 1:00

③ "Nantucket Sleighride (to Owen Coffin)" 5:49
前曲インタールードに続き威風堂々と登場。クラシックとハードロックを融合したフェリックス・パパラルディの傑作、マウンテンの代表曲です。
甘い歌声はフェリックス。静かなヴァースから始まり、複雑にテーマが入り組みながら展開。激しいテーマ部ではテンポもUPして一層ドラマティックに。ギターとオルガンが甘いトーンで盛り立てます。まさに静と動を対比させたハードロックシンフォニーです!


④ "You Can't Get Away" 3:23
本作ではレズリーとフェリックスがリードボーカルを取る曲がほぼ交互に登場しますが、こちらはレズリー。鬱憤が溜まっていたかのようなファンキーなビートで猛進。コーキーのドラミングも激しい。

⑤ "Tired Angels (to J.M.H.)" 4:39
前年に亡くなったジミ・ヘンドリックスへの追悼曲。


Side-B
① "The Animal Trainer and the Toad" 3:24

② "My Lady" 4:31

③ "Travellin' in the Dark (To E.M.P.)" 4:21
イントロからブリティッシュロック??と見紛う哀愁たっぷりの旋律。歌はフェリックスで途中からレズリーがコーラスで参加。
フェリックスが目指した抒情味あるハードロックの典型ではないでしょうか。


④ "The Great Train Robbery" 5:43
ラストはレズリーのスライド・ギターが唸るR&R。ちょっとスワンプの香りも。やはり彼の資質はこうしたストレートなR&Rだったのでしょう。水を得た魚のような歌と演奏です。後半はフェリックスの歌う部分も。


まるで水と油の関係だったフェリックス・パパラルディとレズリー・ウェスト。本作では既に2人の個性が乖離し始めているのが分かります。
新しいハードロックを開拓しようと意気込むフェリックスを前に、レズリーも勝手に自己主張し始めた感じです。
やはり、両雄並び立たずですね。

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