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【The Slider】(1972) T. Rex 華麗なマーク・ボランのポップワールド

シルクハットを被ったモノクロのマーク・ボランに朱色で「T.REX」ー
何とソソるアートワークなんでしょう。リンゴ・スターが撮影したジャケット写真。グラムロックの妖艶さを見事に伝えています。

昔、輸入盤レコードのお店でこれが壁に掛かっているのをしばし見入っていました。
盤に入っている音楽を想像して、きっと格好良いんだろうなぁと期待を掻き立てられたものです。
私の洋楽体験でも、5指に入るくらい良く聴いたかもしれません。今聴いてもワクワクするようなボランのポップワールドです。

本作【スライダー】はT.レックスとしては3作目。ティラノザウルス・レックスからT.レックスに改名して、"Ride a White Swan" (70年)を皮切りにヒット曲を連発していたマーク・ボランが、グラムロッカーとしてノリにノリまくっていた時期の作品です。

考えてみると、マーク・ボランって売れる前と後で随分と作風が変わっています。
ボンゴ奏者とお経みたいなカルトフォークを演っていた所から、突如エレキギターに持ち替えてブレイク。一体何があったのでしょう? きっとあるタイミングでミュージシャンとして開眼したんでしょうね。

当時のインタビューを読むと、ボランはビッグマウスな発言や摩訶不思議な言動が多く、自分自身でもスターを演じていた部分があったと思います。見栄えを気にしてダイエットもしたらしい。音楽性は勿論ですが、ポップスターになる為の覚悟があったのでしょう。

曲作りに関しては、ボランはシンプルなメロディの繰り返しです。私はこの人はひと筆書きの天才だと思ってます。
これといって展開のないメロディに、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティが大胆にコーラス、ストリングスを塗り込んでいくことでエキセントリックな世界観を築いています。やはりトニー・ヴィスコンティあってのボランだったと、特に本作を聴いてると感じますね。

【電気の武者】は生々しさがあって、まだアンダーグラウンドな匂いがあったけど、【スライダー】は着色料をガンガン注いだ人工美というのが個人的な印象です。


(アナログレコード探訪)

T.レックスは自身のレーベル、Marc ON WAXを1972年に設立。本作はその1枚目です。
英国ではEMI、米国ではリプリーズ、日本では東芝が配給しています。

米国リプリーズ・レコードの初期盤 (1974年までのプレス)

私の持っている米国盤は驚くほど平坦な音でした。【電気の武者】は良い音なのに本作の米国盤はどれ聴いてもダメです。以前持ってた東芝盤の方が、まだ良かった記憶がありますね。

見開きジャケットに歌詞


【スライダー】別ジャケット版
Marc ON WAXから再発の英国盤(1983年)

掘り出し物だったのがこの英国再発盤です。音源を管理していたMarc ON WAXからのリリースということで、80年代の再発ながら抜群の重量感。バスドラのキックが地響きのようで、惚れ惚れするような重厚な感触がありました。しかも、シングル両面曲を収録したボーナスディスクも付いた徳用2枚組。これで中古で1000円程度!

T.レックスの英国初期盤は高額過ぎて手が出ませんから、結構オススメです。唯一ジャケットが残念ですが…。


〜曲紹介〜

Side-A
① "Metal Guru" 2:25
イントロからボランのポップワールド全開の全英No.1ヒット。玩具箱をひっくり返したような、という表現がピッタリ嵌るロックナンバーです。曲は単調だけど楽しい〜。

② "Mystic Lady" 3:09
T.レックスはアコースティックナンバーにも魅力あります。しみじみ歌うボランもイイものです。奇異なコーラスと不穏なストリングス、ここではボランのうめき声も被さって独特のエキセントリックな世界です。

③ "Rock On" 3:26

④ "The Slider" 3:22
愛用のギブソン・レスポールが轟く重低音のギターリフ。ん〜、何とも官能的です。決して上手くはない演奏だけど、このモッタリしたノリが堪らないのです。

⑤ "Baby Boomerang" 2:17

⑥ "Spaceball Ricochet" 3:37

⑦ "Buick Mackane" 3:31
この曲などはヴィスコンティの面目躍如ですね。ボランの歌はワンフレーズの反復だけど、弦楽奏とハードロックが合体したような不協和音で聴かせてしまいます。後にガンズ・アンド・ローゼズもカバーしましたね。


Side-B
① "Telegram Sam" 3:42
全英No.1ヒットの代表曲。私はこの曲、ブリキの玩具のような感触がして大好きです。ストリングスのアレンジがここでも効果的に曲を盛り上げてます。
因みにかつて、日本にテレグラム・サムという名前の競走馬がいたと雑誌宝島で読んだことあります。笑っちゃいますね。

② "Rabbit Fighter" 3:55

③ "Baby Strange" 3:03
この曲も好きでした。ボランの掛け声で始まるチープな演奏ですが、グラムロックらしい艶かしさがあります。

④ "Ballrooms of Mars" 4:09

⑤ "Chariot Choogle" 2:45
終盤を飾るヘヴィなロックナンバー。
ギターリフと「イェーイ、イェーイ」の合いの手、奇妙なコーラスにストリングス。最後にはフリーキーなギターソロ。ボランとヴィスコンティの美意識を詰め込んだスウィンギングロンドンのロックです。

⑥ "Main Man" 4:14

T.レックス人気はこのあと急速に萎んでいきました。短かったグラムロックの一番美味しい所を切り取った本作だから、今も美しく映えているのでしょう。今だってジャケットを見るだけで私はシビレてしまいます。

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