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【Who's Next】(1971) The Who ロック衝動とテクノロジーが融合したザ・フーの傑作

私がザ・フーで1番好きなアルバムが、この【フーズ・ネクスト】です。【ライブ・アット・リーズ】と良い勝負ですが、ん〜、それでも本作ですね。昔、先輩に貸してもらった思い出深いアルバムでもあります。曲は良いし、演奏も充実。最高の作品ですね。

後のザ・フーのライブでもセットリストに入る曲が多く収録された本作。元々は【トミー】に続くロック・オペラとして【ライフハウス】という作品をピート・タウンゼントが構想していたものの、余りに難解で無謀な企画だった為に中倒れに終わり、その断片から集められたという作品です。

有名なジャケット。場所はイギリスにあるイージントン炭鉱の鉱石廃棄場。よく見れば4人が佇む背後のコンクリート杭には放尿した後が…。メンバーもファスナーを上げていますね(笑)。このアートカバー、ザ・フーというバンドのアティチュードを見事に表現してるなぁと感心してしまいます。

本作を聴いて先ず驚くのが、アルバム冒頭から流れてくるシンセサイザーです。ARPシンセサイザーという当時では新しい機材ですが、こうしたテクノロジーを駆使する辺りはある意味プログレッシブです。肉体派バンドのイメージですけどね。

歴史的名盤の製作エピソードを関係者が語る映像シリーズ《Classic Albums》によれば、この "Baba O'Riley"のARPシンセのフレーズはピート本人が実際に弾いたものを短く編集したのだそうです。シーケンサーによる自動演奏ではないんですね。
ザ・フーの作曲デモテープというのは、勿論ピートが作ってきますが、既にその時点でほぼアレンジは出来上がっているとの証言もありました。なるほど当然と言えば当然ですが、改めてバンドの指揮官はピート・タウンゼントなんだと実感ですね。

デビュー以来、ライブとレコードで熱量にギャップのあったザ・フーですが、本作でようやくその課題をクリアした感じがあります。バンドの有り余るエネルギーを、最新機材を交えてスタジオ録音に封じ込めた作品といったところでしょうか。


(アナログレコード探訪)

トラック・レコードの英国盤
マトリックス4/4

本作の英国オリジナル盤はトラック・レコード。この盤はザ・フーが所属した1974年までのプレスということになります。

レコードで聴き比べると【トミー】は簡素なサウンドなのでクリア。楽器も歌も近くに聴こえます。が、本作は使用楽器も多く、重低音を意識したハードなサウンドが残響音と共にモヤッと拡がる感じでした。
プロデューサーにはグリン・ジョーンズを起用。おそらくザ・フーにとって、初めて本格的な多重録音とステレオミキシングに挑んだ作品だったのだと思います。新時代を告げる新しい試みだったのでしょう。

米国デッカ盤、日本ポリドール盤を持っていましたが、個人的にザ・フーは英国盤に限るような気がしますね。


Side-A
① "Baba O'Riley" 

最新テクノロジーとロックサウンドを融合したザ・フーを代表する曲。スケール感があります。ブリッジ部分はピートが歌い、ロジャーが引き継いで歌う箇所にいつもグッときます。10代は不毛という歌詞も刺さりますね。
終盤のバイオリンは、英国プログレバンドのイースト・オブ・エデンのデイヴ・アーバス。キース・ムーンが連れて来たらしい。


③ "Love Ain't for Keeping"

重厚なアレンジが多い本作で、若干アーシーな雰囲気なのが B-②"Going Mobile" とこの曲。当時流行っていたスワンプロックの影響でしょうか。ピートが弾くアコースティックギターも枯れた風情で渋くてイイ感じ。

⑤ "The Song Is Over"

A面の締めは格調高いナンバー。一役買っているのがゲストのニッキー・ホプキンスのピアノです。何とも英国的な美しさに溢れるフレーズが素晴らしいの一言。
キース・ムーンの暴れ太鼓、ジョン・エントウィッスルの縦横無尽ベースも入ってくるとザ・フーらしいサウンドに。ピートが弾くシンセ、レズリーギターなどアレンジはかなり華やか。本作の出色とも言える音世界です。

Side-B
③ "Behind Blue Eyes"

アコギをバックにロジャーが切々と歌い上げる美バラード……というのは前半と終わりのみ。後ろが黙っているハズもなく、途中よりエッジの効いたロックアレンジにギアチェンジ。如何様にも展開できてしまうバンドアンサンブル。この時期は一番脂が乗り切っていたのでしょう。

④ "Won't Get Fooled Again"

そして本作の本丸。"Baba O'Riley" と対を成すザ・フーの代表曲です。8分半の大作。ロックのダイナミズムを目一杯に詰め込んだアドレナリン大噴火の名曲、名演。これは語るより聴くべしです。
映画《キッズ・アー・オールライト》にも使われた1978年5月のシェパートンのライブ。シンセのパートで鎮まった終盤、静寂を突き破るようなロジャーの雄叫びとステージをスライディングするピート・タウンゼント!ここは間違いなく名シーンです。総てのロック映像の中でも最高を捉えた瞬間ですね。

恥ずかしながら、私は本作を聴いていると、最後の "Won't Get Fooled Again" で物を壊したくなるような衝動に駆られるのです。いい大人なのに……まさに「無法の世界」!
抑圧された感情が引っ張り出されるのかもしれません。ロックの初期衝動、これこそが本作を名盤たらしめていることは間違いなさそうです。


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