見出し画像

秘密の菜の花畑

南相馬に来て衝撃を受けた光景が2つある。

ひとつは、震災によって人の気配が失われてしまった街。悲しくてショックだった。
もうひとつは、見たことのない広さの菜の花畑。驚きと喜びと感動とが一緒に飛び込んできた。

---

5年前の5月4日。誕生日の前日だった。
恋人に連れられ向かっていた先は南相馬市小高区。
国道に入るために、街中から陸橋を超えていくと一面広がる菜の花が目に飛び込んできた。
助手席に座りながらウトウトしていたのに、とたんに目が覚めてしまうほどに衝撃的な光景だった。

その広さは13ヘクタール。
調べてみたら、東京ドーム3つ弱分の広さだ。
私は過去にそれだけの広さの菜の花畑を、いや、記憶のうちに菜の花畑を見たことがなかった。
だからなのか、驚きと感動と喜びが混ざったような気持ちになった。

小高は当時、まだ避難指示解除前で居住が認められていなかった。
そのため菜の花畑には、ゴールデンウィークといえど、私たち以外誰もいなかった。

少しだけ胸がチクッと痛んだ。

でも、菜の花畑はひたすらに美しく、綺麗で、胸の痛みなど気付いたら消えてしまっていた。
誰がなんのためにとか、どうやったら美しく撮れるか、なんて考えもせず無我夢中で恋人と写真を撮った。

恋人は私にこの景色を見せたかったんだろう。
写真をたくさん撮ってくれた。三脚も持ってきてくれていた。
その気持ちが嬉しくて、一緒にいられることが嬉しくて
「幸せ」を見えるようにしたらこうなるんじゃないかという写真まで撮れた。

それから毎年、誕生日前に菜の花畑で写真を撮るようになった。
残念ながら、同じ場所でいつも、というわけにはいかなかったけれど。
私たちは遠距離恋愛をしていたのだった。

今年で5回目の記念撮影をすることができた。
当時、恋人だった彼は夫になり、私は南相馬へ引っ越した。


今年はまた、小高の菜の花畑で写真を撮ることができた。

小高は2年前の夏に避難指示解除を受けており、町中には人の気配を感じるし、いつもより車も多い。
ゴールデンウィークに合わせて帰省する人も多いようだ。
それでもまだ、菜の花畑には人がそんなにいない。
聞こえるのは、ウグイスのホーホケキョという鳴き声やミツバチの飛び回る音、車のエンジン音だけでとても静かだ。

みんな、知らないのだろうか。

夫と2人きりで写真を撮るのは最高だ。
秘密の花園、ならぬ秘密の菜の花畑をいつまでも秘密にしておきたい・・・という気持ちが生まれてしまった。
だが、菜の花を育てているご夫婦が道すがらに私たちを見つけてくれて「たくさん宣伝してくれな~」なんていうもんだから、そうはいかない。

夫が私に初めて菜の花畑を見せてくれたあの日のように今度は私が誰かに伝えたいと思う。

「とても素晴らしい菜の花畑があるんだけど、一緒に行ってみない?

(撮影:南相馬市小高区金谷)

最後まで読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます^^サポートでいただいたお金では、新しい経験や美味しいものに使い、良いものは周りの人ともシェアしたいと思います!