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第67回 「岸田國士戯曲賞」候補者をすべて紹介する記事

今年もやってきた、演劇界のお祭り岸田國士戯曲賞。
ことしも候補者を皆さんに紹介します。候補者を見て誰?この人?となった人はぜひ読んでほしい。
尚去年はこちら

石原燃 初候補
『彼女たちの断片』
(TEE東京演劇アンサンブル)
会場:伝承ホール
 劇団燈座の主宰としての活動後、現在フリーの劇作家として活動。小説デビュー作『赤い砂を蹴る』で芥川賞候補に選出。その際は祖父と母(というかほとんど祖父)ばかりに注目を浴びたが、今回の候補はそうは言わせんぞ。TEE東京演劇アンサンブルのために書き下ろされたが、その後アジュマ/ajuma booksより出版された戯曲集『夢を見る 性をめぐる三つの物語』に収録された。
女子大生の堕胎を巡る女性たちの物語、堕胎薬が認められていないこの国に呼びかけられる物語は選考委員にどう響くか。


上田久美子 初候補 
『バイオーム』(梅田芸術劇場)
会場:東京建物 Brillia HALL
 宝塚歌劇団の座付き作家として活躍し、『翼ある人々―ブラームスとクララ・シューマン―』(2014)『桜嵐記』(2021)で鶴屋南北戯曲賞に2度候補にもなり、『星逢一夜』(2015)で読売演劇大賞の優秀演出家賞に選ばれた実力派が、宝塚退団後の初作品で遂に岸田初登場。
 醜悪な大人たちに囲まれた家で少年が植物たちの声を聴く物語。スペクタクルリーディングと称され、公演後VRやARとして進化していく意欲作は審査員にどう評価されるか


加藤拓也(た組) 初候補
『ドードーが落下する』
会場:KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
 元々若き実力派として知られていたが、近年は『俺のスカート、どこ行った?』などのテレビドラマ脚本家として活躍し、『きれいのくに』で市川森一脚本賞も受賞している。でも、2022年は本業の演劇で大活躍『もはやしずか』『ザ・ウェルキン』で読売演劇大賞で優秀演出家賞に選出、『もはやしずか』は鶴屋南北戯曲賞候補にも選ばれた。ザ・2022年大活躍。
 ある夜、死ぬかもしれない男から電話が来た。その夜につながるこれまでの話を描いた作品。20代の劇作家を代表する若き才能が審査に新風をもたらすか。


金山寿甲(東葛スポーツ) 2年ぶり2回目
『パチンコ(上)』 
会場:シアター1010稽古場
 社会に対する怒りを熱と毒を乗せたラップで爆発させる演劇界の東スポ。前回『A-②活動の継続・再開のための公演』(2020)候補時はその面白さで受賞手前まで行くも、審査員からもっと毒をぶつけてくれという意見により落選。
 今回の主人公は実家がパチンコ屋の在日三世で劇団東葛スポーツの主宰。え!自伝物?と思わせるがそんな単純に行くのか。今回こそ、審査員のご期待に沿える毒を出せるか。

兼島拓也(チョコ泥棒) 初候補
『ライカムで待っとく』
(KAAT神奈川芸術劇場プロデュース) 
会場:KAAT神奈川芸術劇場
 今年、鶴屋南北戯曲賞と唯一Wノミネートを達成した作品(加藤は別作品で候補)。東京演劇界ではあまり知られていないが、沖縄の若者を主役に様々なジャンルを手掛ける沖縄演劇の注目株が遂にブレイク。
 1964年に実際に起きた米兵殺害事件を取材する、現代の記者の物語。というお堅い所から、記者が自身の書いた記事の世界に飲み込まれてしまうというファンタジー展開になる。風変わりな社会派は審査員にどう読まれるか。
 
鎌田順也(ほりぶん、ナカゴー)初候補
『かたとき』(ほりぶん)
会場:紀伊國屋ホール
 2010年代頭の王子小劇場を代表するナンセンス劇団ナカゴーの主宰。『黛さん、現る』(2012)で佐藤佐吉賞作品賞を受賞するなど高い人気と評価を得たが岸田からは無視される。そんな鎌田が女優と共に立ち上げたほりぶん。こちらも紀伊国屋ホールでやれるくらいの人気劇団になってようやく、初候補。岸田って本当に遅れてるね。
 不審者が現れる街で行われる夏祭り。そこで起きる不条理な出来事を描いたナンセンコメディ。審査員よ、岸田はコメディを理解できないという悪評を絶つ絶好のチャンスだ。


中島梓織(いいへんじ) 初候補
『薬をもらいにいく薬』
会場:こまばアゴラ劇場
 2017年にいいへんじを旗揚げし、シアターグリーン学生芸術祭優秀賞を受賞して以来ノンストップで活躍を続ける若手のホープが岸田賞に初登場。冒頭を、ショーケース芸劇eyes番外編vol.3「もしもし、こちら弱いい派 かそけき声を聴くために 」として上演。好評を得た後に満を持して上演した本編で初候補。
 日本に帰ってきた恋人のために花を買いたいが、外出時の精神的不安を抑えるための薬がない。それはその薬を貰うために病院へ行くこともできないということ。生きづらさを抱えた女性を描いた作品は審査員にどう響くか。


原田ゆう(温泉ドラゴン)初候補
『文、分、異聞』
(文学座)
会場:文学座アトリエ
 APE、Nibroll、イデビアン・クルーと名だたるダンスカンパニーに参加したダンサーだが、劇作家としての活動も行い、日本劇作家協会新人戯曲賞、「日本の劇」戯曲賞最優秀賞で受賞。かながわ戯曲賞、北海道戯曲賞で候補。と、一般公募戯曲賞で無類の強さを誇る。現在所属の温泉ドラゴンも戯曲をシライケイタが評価したため所属決定したくらい。
 昭和38年、文学座アトリエにて行われた話し合い。それは上演予定の三島由紀夫による書き下ろし新作“喜びの琴”を上演中止するかどうか。上演会場で起きた大事件に挑んだ意欲作。熱意は審査員に伝わるか。

松村翔子(モメラス)4年ぶり3回目
『渇求』
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ(公演自体は中止)
 『こしらえる』(2018)、『反復と循環に付随するぼんやりの冒険』(2019)で2度の候補を持つ、青年団出身の実力派。松村作品は2021年にニューヨーク、今年はロンドンのロイヤルコート劇場でリーディング公演が行われる。活躍はワールドワイドに。今回の公演は体調不良で中止となったが、喜劇悲劇掲載からのいぬのせなか座叢書での出版で3度目の候補をつかんだ。
 自閉症の子供を持つ母親が地獄へと転がってしまう、現代社会の暗黒を描いた渾身の一作。3度目となれもう常連だ、才能の脂が乗り切っている絶好のタイミングで遂に審査員は賞を挙げるのか。

という、9作品。
 このうち、白水社の無料公開では『渇求』のみ、第一幕のみであり前編は単行本か喜劇悲劇を読むしかない。(単行本が手に入らない場合は、喜劇悲劇7月号を図書館で取り寄せれば読める可能性が高いだろう)
 戯曲は基本的に出版されることはないが、候補時点で2作品が出版されているのは珍しい。どちらも、小規模出版社である。
 戯曲は商品にならない。しかし、それでも志ある出版社があるのは嬉しい。皆売り上げに貢献しよう。

さて、候補現時点で予想したのは

本命 松村翔子
対抗 中島梓織
大穴 鎌田順也

3度目の候補の松村が遂に取りそう。前回受賞まであと一歩だった金山を対抗にしたかったのだが、現代社会の隣にある苦しみを描いた中島がより岸田的かなと思って。
大穴は、ナンセンス演劇大勝利を祈って。実力は申し分なし、ケラさんが評価してくれれば。

さてどうなるかな


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