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2019第28節 水戸ホーリーホック×京都サンガ


8月17日(土)

明治安田生命J2リーグ 第28節
@K'sスタ


水戸ホーリーホック 3-0 京都サンガ
得点者:黒川淳史(17分・水戸)、オウンゴール(45+1分・水戸)、小川航基(83分・水戸)



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1)前半の積極性と後半の悪手

◇スタメン

両チームのスターティングイレブンは以下のとおり。

京都は右SBにルーキーイヤーの上月(昨季2種登録でデビュー済)を大抜擢。CBには安藤よりもスピードがあり、カバーリング能力の高い下畠を起用。

最終ラインの右サイド2人がフレッシュな顔ぶれとなり、前線を含めた右サイド全体が今季初の組み合わせとなった。連携面と、元々ウインガーの上月の守備面は不安があるが、縦の突破力は魅力十分の右サイドだ。

SB志知、SH木村の水戸の左サイドを押し込んで封じる狙いがあると見える。


◇それぞれの役割

左サイド
6:22〜 本多→小屋松→金久保→黒木のパス交換。
2トップ、SHのプレスがかかりきる前に、本多から1つ遠いポジションを狙ったパス。そこからワンタッチで寄せて来る相手を翻弄。
この日は人もボールも動きつつ、常にトライアングルを崩していない。なので相手も簡単にはボールを奪うことが出来ない。
また小屋松と金久保のフリーランでスペースを作る動きが多く、あと1人入ってこればチャンスになるという場面が何度もあった。特に6:46、7:00、43:49あたり。


右サイド
栃木戦後半のように、ジュニーニョが外から中に入ってプレーする意欲を見せていた。そうして外が空くと上月がオーバーラップしてクロスをあげる。
水戸はサイドで1対1を作られないように必ずカバーリングの選手を置いてきたが、一美や重廣がそれを引きつけることでジュニーニョや上月が仕掛けやすくしていた。
11:20のシーンでは中に切れ込んでクロスまで持っていけた。


庄司と黒木のバランス
この試合では庄司へのマークが徹底されていた。
水戸は、開始5分までは4312で福満をトップ下に置き庄司をマンマークさせていた。442にしてからは2トップでケア。引いて守る時も黒川がマークを外さなかった。
そこで京都は3バック化して最終ラインで数的優位を作るだけでなく、黒木をいつもより中央でプレーさせ、庄司に変わってゲームメイクをさせていた。
黒木が中央から左右にミドルレンジやロングレンジのパスを供給していたのがその表れだろう。
一方マークの厳しい庄司は自らを囮(おとり)にパスが円滑に回るように動き、さらにカウンター時の守備要員としてのリスクマネジメントも行っていた。


CBの役割
水戸の守備は全員がサボらず、距離感やカバーリングが緻密に設計されている。それを崩すには人数をかけざるを得ない。
京都のCBには、普段のように持ち上がってボールを前に供給するだけでなく、時には相手の守備ブロック近くまで上がってパス交換に参加することが求められた。
右サイドなら下畠、左サイドなら本多が度々上がっていたのは、数的優位を作らないとあの守備を崩せないと踏んだからだろう。また一美へのマークが厳しいので、代わりに攻撃参加が求められた側面もある。


GK加藤の守備範囲
上述のように、CBの積極的な攻撃参加などで前に人数をかけることが多かった。後ろに残るのはCB、SB、DHの3枚ということは珍しくなく、最終ラインの裏に広大なスペースがあり、そこのカバーリングという大きな役割が与えられることに。普段通りに相手のプレスの逃げ場としてビルドアップに参加することも必要である。
これらを遂行した上で何度もファインセーブを見せていた。


◇前半の京都

特に右サイド、左サイドについて書いたことのほとんどは前半、もっというと15分までの出来事だ。

栃木戦と違って自らアクションを起こしていこうという意図は見えていた。
右サイドはやや停滞気味だったが、全体として人とボールがよく動き、どうやったら相手に隙ができるか、我慢しながら非常によくやれていたと思う。

17分に失点するまで、相手を崩しきることは出来ないまでもボール保持によって守備の時間を減らし、水戸のロングボールを使った攻撃にもしっかりと対応して守れていた。


先制点を与えてしまうと、引き気味で守る水戸の堅守を崩す手立てがなく完全に沈黙。
逆に前に意識が傾きすぎてセカンドボールを奪われることが増える。右サイドで頻繁に起こっており、そこから斜めにアンカー脇や最終ラインの裏にボールを送られカウンターを許す場面が幾度か出てきてしまった。


◇後半の悪手

前半終了間際にオウンゴールをプレゼントした京都は、前線の動きに変化をつけた。

前半の一美はCB2人を中央で引き付けていたが、後半になると積極的に下がってきてDF・MFのライン間でボールを受ける動きを増やした。
一美がいなくなったところには重廣が入り、裏に抜ける動きをすることでCBが前に出れないようにする。
46:24には見事にボールを引き出し決定機を迎えた(が、志知のカバーリングに阻まれる)。


そして57分に闘莉王を投入し一美と闘莉王の2トップに。

基本的には闘莉王がCBを引き付けつつポストプレー、一美が下がり目でボールを受ける役割となる。
前線にボールの収まりどころがないので、それを作って起点にしようという狙い。

闘莉王を最終ラインに入れて352or3421にしなかったのは、彼のコンディションが上がりきってないことが原因だろう。もしくは2トップの位置に入れて352にし闘莉王をフリーマンとして働かせることも可能なはずだが、同様の理由で不可能。

闘莉王がここで担うのは主に空中戦で仕事をすること。CBのマークを集中させ、ゴール前にスペースを作ることである。


あのコンディションでも相手は警戒せざるを得ない。
京都としては出さない手はないのである。逆に言えば、たとえコンディションが悪くても、闘莉王を出す以外の手がないのである。


早い時間帯のこの交代で京都は一気に停滞。
幾度となくスペースにランニングしてボールを引き出したり相手を撹乱させていた金久保がいなくなったことで、水戸の中盤は守りやすくなってしまう。

金久保のように中盤の前後でパスを受けたり、相手を剥がしたりできる選手がいなくなったことで、京都はシンプルに回すか強引に闘莉王と一美のパワーを使うしかなくなる。

つまり水戸は2点先行してる上にシンプルに守ればよくなった


下畠の負傷交代、上月の脚の限界により京都は最後まで打開できず。石櫃が入っていれば1本くらいはクロスからチャンスを作れただろうか?
どちらにせよ完敗のゲームには変わりない。


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2)重なるミス

京都の3失点とも自らのミスで招いたものだ。

ミスといってもチームとしての原理原則、攻撃・守備・その間の切り替え(トランジション)全てをスムーズに行うためのポジショニングでズレが出ていた。


◇1失点目

そもそも水戸のボール保持時の京都は451でコンパクト差を保ちつつ引き気味に構えていた。ロングボールを跳ね返しセカンドボールを回収するためだ。
裏を取られた場合でも、なんとかして遅らせれば中盤が戻ってきて4-5で再びブロックを作って守れる。

15:00あたりから、 水戸は地上戦で斜め方向のパスを連続させて京都の守備をかいくぐろうとするが適わず。
ならばと細川から黒川にロングフィード。

・守り方としてボールホルダーの細川にプレッシャーをかけれなかったことと
・裏を取られたあとにDFがゴール前で同じ動きをしてしまったこと
が失点に繋がったと見える


黒木は福満に並走、本多は中の状態を確認しニアでクロスを跳ね返すポジショニングに。問題は下畠と上月が小川を警戒するあまり2人とも同じ動きになってしまったことだ。
その結果後ろから飛び込んでくる黒川が完全にノーマークになってしまった。

京都が不得手とされる『後退守備(カウンターやロングボールなどを受けて下がりながらする守備)』を狙われてしまった形とも言える。


◇2失点目

失点の引き金は45:07左サイドスローインからのリスタート。
前半のうちに是が非でも追いつきたい京都は本多、庄司ともに高い位置を取っており、中盤に人がいない状態、つまりリスクマネジメントが行われていない状況に陥っていた。

そうなると福満がセカンドボールを回収したことも必然。下畠が小川と1対1で、守備のサポートが少なかったのも必然。

チームとしてポジショニングのバランスが崩れていたことが失点に繋がったのだから、目指してるサッカーからするとよろしくない。原理原則が体現できてこその柔軟性だ。


それだけならまだしも、なんとか小川の前に体を入れてマイボールにした下畠が処理を誤ったのだからどうしようもない。

バックパスのセオリーはゴールマウスから外して戻すことである。
それが出来てない上にGKの頭上を越すとなると、それは技術的な個人のミス以外何物でもない。

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加藤のポジショニングについても言及しておきたい。
GKは味方が攻撃しているとき
・裏のスペースのカバー
・バックパスを受ける準備

・味方へのコーチング
のために前に出ていることが多い。

下畠がマイボールした時も"グラウンダーのバックパス"を受けれるように準備していたはずだ。
バックパスをかっさらわれたり、自分が受けた時に相手にプレスを受けないためにも、少しでも前で相手より先にボールを持つ方が良い。

しかし浮き玉のパスが来てしまった。
その瞬間加藤はゴールに戻り始めている。DAZNでは体こそ映っていないものの影がしっかりと映っている。

そういう点から、加藤へ批判が向くのは違うと思っている。


あくまでも
・チームとしてのリスクマネジメントでのミス
・下畠が小川とのデュエルを制したときのサポートのなさ
・下畠個人の技術的なミス

が重なったものだ。


◇3失点目

前兆があったのは49:39〜のシーン。
自陣左サイドから本多が前線にロングボール。
この時、小屋松・黒木・金久保が左サイドに密集してビルドアップできるようにポジショニングしていた。
一美が下がってきて、空いたスペースに重廣がランニングしており、1発でそこを狙おうとしたのである。

しかし跳ね返されたあとセカンドボールを回収されると、空白地帯の中央から簡単にカウンターを食らった。
ミドルシュートは加藤が防いだものの、安易にロングボールを使ってしまった悪いシーンだった。

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失点シーンの1分半前。
81:31に本多が同様の狙いでロングボールを蹴る。
重廣と仙頭が飛び出し、一美と闘莉王がやや下がり目。
それを拾われ、間延びしている中盤のところからパスを通される。

黒川のポストプレー
→浅野のドリブルから横パス
→黒川のドリブルから横パス
→小川のターン&シュート


ここもショートパスで繋いでいけたところを1発で裏狙いしてしまった。
残り10分で2点ビハインド、全体が間延びしているので通ればチャンスとはいえ、完全に裏を取れてる状態でもなくボールの質が高いわけでもない。

少なくともベターな選択とはいえない。

カウンターを狙おうとするまでは良かったが、判断ミスから被カウンターで失点。


前述の49:39〜のシーンの二の舞となり、今度はゴールに直結した。


ミドルレンジのグラウンダーパスを使って間延びしているところを擬似カウンターで切り裂いていくならまだしも、場面が良くない中で簡単にボールを手放してしまったのだから、ここも原理原則にのっとっていなかったと言えよう。


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3)水戸ナチオの秘密

※水戸ナチオとは、カテナチオ(イタリア代表の堅守)を文字って水戸の守備の堅さを表した造語である


水戸のオーソドックスな442の守備を破ったチームは少ない。
複数失点はわずか3度。しかもどれも負けていない。
金沢戦、京都戦を除いて1-0からひっくり返された試合はない。(京都戦は途中から10人での戦い)

6月29日以降、7試合分の失点シーンをハイライトで確認すると、主な失点シーンは
・セットプレー
・終盤のパワープレー
・水戸の選手が足を滑らせてのミス

そう、リトリートの4-4ブロックを崩したチームはない
唯一京都が10人で守る水戸から2点奪ったくらいだが、参考記録にしかならない。


◇ディアゴナーレ

その秘密はゾーンディフェンスの基本である"ディアゴナーレの徹底"にある。
分かりやすく説明された記事があるのでそちらを参照していただきたい。


水戸の442のゾーンディフェンスが堅固なのはディアゴナーレができるからだけではない。
・一定の距離感を保ち続ける緻密さ
・誰が出ても徹底できている浸透度の高さ
・90分全員がサボらない走力

が揃っているからこそ”徹底してできる”のだ。

ここまでのクラブは中々ないだろう。
J2どころかJリーグ全体を見渡しても極めて高いレベルにあると思われる。


中田監督が『水戸さんの守備が素晴らしかったゲームでした。』と言ったのは本音だろう。

せめあぐねているというよりも水戸が守りやすいようにボールを持たされた印象だ。
水戸からすると能動的なアグレッシブなゾーンディフェンスができた、ということだ。

水戸はセットプレーやパワープレーに弱点があり失点がかさんでいたが、京都がそこにストロングポイントがなかったことは水戸にとって幸いだったかもしれない。


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4)最後に

完敗である。

いくら自滅からの失点とはいえ、点を取れなければ勝てない。
逆に点が取れなくても失点しなければ負けない。

どちらをとるのかという試合だ。


狙いとして『早い時間帯に先制点を取ってゲームをコントロールする』ことはベストで、できるにこしたことはない。しかし相手を見誤ったか。京都のスタイルが簡単に通用する相手ではない。しかも恐らくJ2で最も相性が悪い。

さらにここ数試合の内容が悪く、原点に立ち返って守備的にボールを保持して戦うことも出来たはずだ。


だからこそ、この試合は0-0の時間をいかに長く続けられるかが重要であった。目指すべきはロースコアだった。

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何もチャレンジして失敗と成功を積み重ねるだけが成長ではない。
原点に立ち返って自分たちを省みた時に、それまでの過程での反省点や修正点を見つけることが出来ればそれもまた成長なのだ。


なんのために原理原則があるのか、なんのために緻密なポジショニングをしてパスをつなぐのか。もう一度見つめ直すべきだと思う。

今ここが、立て直す最後のチャンスだ。

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