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J2第33節 vsSC相模原 〜勝ったのでヨシ?〜


1点目と取り方も失点の仕方も監督の試合後のインタビューも、モヤモヤっとしたものが残る勝ち点3となった。


1.試合情報

2021年10月10日 (日)14:03 KickOff
明治安田生命2リーグ第33節
サンガスタジアムbyKYOCERA
京都サンガ 2-1 SC相模原
得点者:ピーターウタカ(36分、68分・京都)、ユーリ(75分・相模原)

【スタメン】


【選手交代】
◇京都
70分:荻原拓也→本多勇喜、宮吉拓実→福岡慎平
85分:三沢直人→イスマイラ
90分:松田天馬→白井康介

◇相模原
40分:竹重安希彦→三浦基瑛
46分:兵藤慎剛→成岡輝瑠、藤本淳吾→ユーリ
61分:松橋優安→安藤翼
67分:藤原優大→鎌田次郎



【戦評】

前半は京都が一方的に攻めるワンサイドゲームとなった。シュート数にして15対1。ゴールこそ相模原GK竹重の負傷タイミングでの1点に留まったが、45分間攻撃の手を緩めず順位差をしっかりと示した。

後半は相模原積極的にビルドアップやプレスを行う姿勢を見せたため難しい試合になったが、右サイドを崩して宮吉→ウタカのホットラインで追加点を挙げる。その後の試合運びは盤石と言えずセットプレーから失点。何とか逃げ切ったものの課題の残る勝利となった。


2.前半 京都の分厚い攻撃

前半は京都がボールを握って攻める展開がほとんどであった。この京都の攻撃を語る上で大切な相模原の守備タスクを押さえておこう。

●相模原 プレッシング

・CF平松が下がって川崎をマーク、京都の3人(2CB+DM)のビルドアップをマンツーマンで捕まえる
・IHに対してはDMが、SBにはWBが前に出て奪いに行く

●相模原 守備ブロック

・引いて守るときは5-2-3の形が基本
・中盤の3枚にマークを付けボールを外に誘導
・WBやSHが奪いに行く
・ゴール前では5-4-1で守る


まとめるとそれぞれの主なタスクは以下のようになる。

CF:川崎をマーク
SH(シャドー):ハーフスペースへのパスコースを消す、機を見たCBへのプレス、下がってSBへの対応(5-4-1ブロック)
DM(ボランチ):IHをマーク(ほぼマンツーマンでついていく)
WB:SBの対応、5バックとして外側のレーン対応
3バック:中央の選手の対応、DMの脇やWB裏のケア


◇京都の戦略的ロングボール

相模原の最終ラインにスペースがあったことから、京都はロングボールを軸とした攻撃を繰り出す。とはいえ最終ラインはマークされているので、まずはGK若原にボールを逃がしながらビルドアップを行い、相模原陣内にスペースを作る。攻めやすい状態を作ってから4バックや若原からのロングボールを供給していく。

狙うスペースは主にWB裏と最終ライン裏(HV‐CB間)である。左サイドは松田、武田が担い、右サイドではウタカ、宮吉、三沢が流動的にポジションを変えながらスペースを狙った。

相模原の3バックに跳ね返されるシーンも少なくなかったが、持ち前のトランジション(切り替え)・プレスバックの速さでマイボールにし、そこから縦に速い攻撃へと移行していた。

相模原のボランチがIHをマンマークしていること逆手に取り、武田と三沢は積極的なフリーランでボランチを中央から追い出す。それによってできたスペースをウタカや宮吉が享受して、ライン間でよい連携を見せるなどした。


◇オーバーロードとアイソレーション

サッカーにおいて、あるエリアに複数の選手が密集していることを「オーバーロード」(の状態)という。人数をかけて細かいパスを繋いで攻撃していく際に用いられることが多い。

その逆が「アイソレーション」である。イメージとして日本語で言うところの散在や点在が近いだろう。こちらでは広いスペースで1対1の状況になることが多く、ドリブル突破が主な攻撃手段に選ばれる。


京都は相模原の5-4-1ブロックを崩す際、武田・三沢がボールサイドに寄ってオーバーロード状態を作って崩そうとしていた。
1番の目論見はそのままゴールに最短距離で進みウタカや宮吉にフィニッシュさせることだが、アイソレーション状態にある逆サイドに展開して荻原・飯田の両SBの突破力や強烈なシュートを活かすことも可能としている。


「オーバーロード」と「アイソレーション」を上手く使った攻撃が、20:20〜 京都が左サイドから攻撃を仕掛けたシーンだ。


左サイドに選手を集め、荻原・武田・松田のコンビネーションでサイドを突破してクロスを上げる。ファーサイドでフリーになっていた飯田がダイレクトでシュート。
惜しくも澤上にブロックされた。

同様に左サイドから攻撃を仕掛け宮吉や飯田が右サイドでクロスやこぼれ球に合わせるシーンがいくつか見られた。


◇怒涛の4連続シュートの始点

17分に見せた波状攻撃もIHの2人がボールサイドで絡んだことから始まる。

三沢・武田のポジションを取り直す早さ、相手の嫌がる立ち位置の取り方といったサポート能力の高さがうかがえる。そこにウタカの完璧な浮き球スルーパスである。

またゴール前では三沢・武田が居なくなったことでスペースが生まれていた。宮吉が藤原のマークを外し、スペースに飛び込んで武田のクロスに合わせた。


3.後半 相模原の立て直しと京都プレッシングの空転

京都は前半の勢いそのままに、後半も同様にやり続けようとしていた。46分、相模原のプレスをかわすと3トップの連携でチャンスを作った。京都が押し込む展開になると思われたが、相模原は攻守に修正を加えてきた。

●相模原 守備の立て直し

京都の低い位置でのビルドアップには前半同様に5-2-1-2のプレスをかけてきたが、後半は基本的に5-2-3でセットして京都の攻撃を迎え撃つ。

後半の大きなポイントは3つ。

①ボールサイドのSHが積極的に下りることでWBの上下動を減らし裏のスペースを空きにくくする
②2ボランチが中央のスペースを埋める
③京都のCB間の横パスに対してSHがプレスをかけ前からはめやすくする

マンツーマン志向だった守備をゾーンディフェンス主体に変えることでスペースを奪ってきた。そのため京都はロングボール主体の攻撃がはまらなくなり、ショートパスによるビルドアップを余儀なくされた。

ショートパスによるビルドアップに対しても対策されていたため、相模原のプレスに引っかかりカウンターを受ける場面が増えた。

ビルドアップが成功してもなかなかシュートまでいけず、アクションを起こしてこない相手に攻めあぐねてはボールロストする流れが続いた。


●相模原 ビルドアップの整備

守備の立て直しに成功した相模原は再現性のあるビルドアップからロングボールを用いた攻撃を繰り出す。

最終ラインを図のように4バックに変化。SBにあたる藤原と澤上が幅をとり、2ボランチがサポートに入る4-2-4の形でビルドアップを行う。京都同様こちらもGK三浦を使うことでボールを落ち着かせていた。

シンプルにサイドから(①)、中盤を経由してサイドから(②)、逆サイドへ展開してから(③)など様々な変化をつけて前線にボールを送る。CBやGK三浦が展開することもあった。

狙いはもちろん京都のSB裏、CBの両脇のスペースである。


京都の最終ラインがよく対応し決して良い攻撃とは言えなかった。ただ京都のプレスは明らかにはまっておらず、懸命に追いかけては自陣に戻らされ体力を消耗する羽目になった。


●相模原 ビルドアップの変化

55分あたりから、相模原はさらに形を変える。

高精度のキックを持つボランチの川上を最終ラインに落とし、両WBを高い位置に押し上げて4-1-5の陣形に。京都の4バックに対しロングボールでの5レーンアタックを仕掛けてきた。

三浦や川上からサイドに展開。SBに選択を迫り、空いたスペースをSHやユーリが使うというものだ。

京都は最終ラインがいつも以上に体を張って食い止め、中盤が頑張ってプレスバックしてサポートするという、フィジカルと走力にモノを言わせた対応だった。


相模原の巧妙なロングボール戦術によってオープンな展開となり、京都は1点をリードしてるものの主導権を握れずにいた。


4.危うい試合運び

流れこそよくなかったものの追加点を奪うあたりはさすがの京都である。

67分、飯田が右サイドでスローインを獲得。ここでも飯田、宮吉に加えて三沢・武田のIHコンビが登場。4人で右サイドを崩し、宮吉のクロスにウタカが合わせた。


飲水タイムを挟み、70分に本多と福岡を投入。リードしたときのいつもの交代策である。


オープンな展開が増えたため京都はボールを奪うとすぐに相模原陣内に押し返すことはできていた。そこでボールを保持し再三サイドから突破を試みている。

また2点リードしたことで相模原がより前から来るようになり、スペースができてビルドアップがやりやすくなったという側面はあっただろう。


一方で飲水タイムを挟んでも相模原の攻撃に対しては守備陣が体を張り中盤がプレスバックでサポートするという形は変わらず。

良くも悪くも京都のスタイルに徹していたということになる。


そうした中で、相模原のリスタートから最終的にバイスのクリアがCKとなり、そのCKからユーリに豪快なヘディングを叩き込まれた。


終盤にはイスマイラを投入。キープ力を活かして相模原を押し込み3点目を狙いながら試合を締めにかかる。

なんとか逃げ切ったが、中盤の運動量は明らかに落ち、イスマイラ頼みのアバウトなボールが増えていたのは気がかりであった。


5.監督の怒り

試合後のインタビューで曺貴裁監督は怒りをあらわにしていた。2-0とリードした直後、2戦連続となるCKからの失点が相当頭にきたのだろう。

時間帯、失点の仕方、どちらをとっても最悪なもので、長崎戦を踏まえると




「初めて取られたコーナーキックであんな簡単に失点したこと、先週もコーナーから取られたにも関わらず、同じように失点したことに対して危機感のない選手では、ここから先の厳しい戦いを乗り越えていけない」(曺貴裁監督)京都サンガ公式HP より引用)

というのは当然のことである。


しかしミスマッチの作られ方には疑問が残る。

ユーリ対三沢のマッチアップだったわけだが、フィジカル差は歴然だし、出場時間や疲労度を考えると圧倒的にユーリが有利だったのは間違いない。
キッカーはJ2屈指の精度を誇る川上である。まさにピンポイントのクロスだった。

京都はCKの守備でバイスをストーン(ゴール前の重要なエリアを守る、マークにはつかない)として使っている。そのため時点でユーリに競り合えるのは麻田あるいは本多あたりだ。

マークの付け方が悪かったのは采配を執る側の大きな反省点だろう。


また後半、相手に押し込まれる時間があったことについて




「心の緩みと言われても仕方ないと考えています。」(曺貴裁監督)(京都サンガ公式HP より引用)

とコメントしているが、相模原が変化をつけてきた中で対応しきれていないことがあり、暑さによる疲労もあって気持ちだけではどうにもならないと感じた。

指揮官だけの責任でなくピッチで戦う選手にも言えることだが、2-0というセーフティーリードでの振る舞いは課題である。

ボールを落ち着ける時間はもちろん、ときには相手にボールを持たせてカウンターを狙い試合を決め切ってしまう狡猾さも大事になってくる。


もっともそれより気になったのは、後半開始~飲水タイムまでの戦い方なのだが…



6.最後に

後半戦、僕が個人的に目をつけていた相模原はやはり面白いチームだった。普段であればもう少しボールを握って戦うのだが、京都相手によりリアリスティックな戦い方を選択してくるあたり、さすが名将・高木琢也である。


後半の分析が相模原寄りになっているのは、僕が相模原のとりこになっていることが少なからず影響している。

とはいえ熱烈なにわかサンガサポーター(自称)である。下位チームとの対決が続く最初の試合を白星で飾れた意味は大きい。

「後半戦好調の相模原をもってしても京都は止められないのか…」というプレッシャーを相手に与えることができていればと願うばかりだ。


というわけで今週末は群馬遠征に行ってきます。


最後までお読みいただきありがとうございました。



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