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BS時代劇『大富豪同心3』第5話レビュー:化け物の正体

あらすじ:銀八(石井正則)の故郷・下総は、長雨による増水で利根川が決壊の危機に晒されていた。そんな中、下総でバケモノが暴れ堤が壊れたとの知らせが届く。老中・甘利(松本幸四郎)の命を受け、南町奉行所の沢田(小沢仁志)は壊れた堤を視察に、卯之吉(中村隼人)は、バケモノの正体を暴くため下総に向かう。現地には、下総の危機を聞き付けた濱島(古川雄輝)も来ていた。果たして、卯之吉たちは銀八の故郷を守ることができるのか(公式サイトより)

交差する思惑の中で

弱い、力のない者たちを助けたい。皆が幸せに暮らせるそんな世の中にしたい。そのために働く濱島(古川雄輝)の思いと、濱島が従う坂田(新藤栄作)の狙いはまったく別の方向に向いている。
違和感を持ちながらも世直し衆の頭として坂田の手足となり働く濱島だが、坂田は既に濱島に見切りをつけており……。孤独を深まる濱島。

第5話は、由利之丞(浅香航大)の同心コスプレや銀八(石井正則)の男はつらいよ的淡い恋物語などコミカルな要素を盛り込みつつ、なかなかにシリアスな回だった。
坂田がそこまで執拗に甘利(松本幸四郎)の失脚を狙う理由も明らかに。

卯之吉(中村隼人)の元に、銀八の故郷・下総で化け物が現れたという報告が入る。長雨で利根川が決壊しそうな危機にある上、化け物騒動まで出ては大変と案じる銀八。
甘利の命を受け、利根川の視察に向かった沢田(小沢仁志)の供をすることになった卯之吉はなんだか嬉しそう。卯之吉は化け物に興味津々なのだった。銀八に加えて小遣い稼ぎ狙いの由利之丞、卯之吉を守るためについてきた美鈴(新川優愛)と、一行はなかなか賑やかである。

手ぬるいのは、どっちだ

この不景気下での日光社参を取りやめさせようと、甘利は直接坂田にコンタクトを取るが、すげなく断られる。
実は甘利と坂田は共に徳川親藩の三男坊で、どちらが甘利家の養子になるのかを争った因縁があった。勝った甘利は老中に、負けた坂田は尾張家附家老に。坂田は当時の遺恨を今も一方的に引きずり、甘利を追い落とそうとしているのだ。
日光社参に加え、下総で人為的に大水を引き起こせば幕府は疲弊し、甘利の権威も地に落ちるであろう。下総は水没することになるが、坂田は今の幕府を立て直すために多少の犠牲はやむを得ない、と世直し衆の笹月(山田純大)を煽る。甘利の言葉で使命感に火がつく笹月。

一方、濱島は独自に下総の大水を防ぐ策を練っており、卯之吉を通じて沢田に進言する。策の内容は、川の水を上流の新田に逃がして池を作るというもの。上流の新田は水没してしまうが、多くを救うためには仕方がないというのが濱島の意見。自分の一存では決められないと言う沢田に、濱島は速やかな決断を迫る。
卯之吉は弱い者を切り捨てることになるのではないかと指摘するが、濱島は卯之吉が「何の苦労も知らずに生きてきた若旦那」だと苛立ちを隠せない。
しかし皮肉なことに、その濱島は坂田から「夢を語るのはいいが手ぬるい」と評され、見限られていたのだった。濱島のせいで仲間たちが死んでいくのだと、そのやり方に不満を抱える燕二郎(鈴木信二)らは濱島の知らぬ間に火薬で堤を破壊し下総に大水を引き起こすために動いていた。大水を防ぐために奔走していた濱島は、その事実を知り衝撃を受ける。
暴行を受け倒れた濱島だったが、仲間が堤を壊そうとしていると伝えるため、満身創痍で卯之吉たちが滞在する屋敷へ。

守りたい者を守れない不甲斐なさ

濱島の手当を終えた卯之吉は、化け物の正体を暴くために川へ出向く。そこで見つけたのは不自然にできた大きな穴。周囲の紙の様子から、火薬による爆破とピンと来た卯之吉だったが、そこに世直し衆たちが現れる。卯之吉たちは捕らえられ、爆発で大水を発生させる目論見を聞くのだった。
濱島はすべて自分に責任があると、最悪の事態を避けるため上流で爆発を起こす。

結果的に濱島による爆破で下流の村の多くが救われた。しかし、そのために濱島が犠牲にしたのは本来彼が守りたかった弱い者だったのではなかっただろうか。あの日大火事で幼い子を残して逝った母の無念を、母を失った濱島の悲しみを、濱島は自身の手で踏みにじってしまった。こんなはずではなかったと自分を責める濱島の心は、どんなに傷付いたことだろうか。

卯之吉もまた、大事な人を守ることができない不甲斐なさを感じていた。
世直し衆との対峙ではいつも通りの気絶芸で事なきを得るが、その間に美鈴は濱島とともに爆発に巻き込まれ、行方知れずに。
卯之吉を守るために同行してきた美鈴に「私を守るためだとしても無茶だけはしないでください、お願いします」と口では言ったものの、自分の力では美鈴どころか自分の身さえ守れない。

自分の栄華のために善意の者を扇動し、犠牲を省みない坂田の黒い心は膨れ上がり、あっという間に引火して燃え上がる。人々を騒がせる化け物の正体は、坂田の欲望だったのかもしれない。
弱い者を救いたいと思う気持ちは、卯之吉も濱島も同じはず。誰も犠牲にしない理想の江戸の形を、果たして2人は描けるだろうか。

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