見出し画像

BS時代劇『大富豪同心3』第4話レビュー:楽しくなければ頑張れない

あらすじ:江戸が長雨の影響で不景気が長引く中、尾張藩家老・坂田(新藤栄作)は将軍に景気対策の目玉として「日光社参」を勧めつつ、濱島(古川雄輝)たち世直し衆に接近する。一方、おカネ(若村麻由美)のシゴキに悩む美鈴(新川優愛)は濱島の過去を知り同情。そんな中、世直し衆の大越(青山草太)は、三国屋の用心棒・水谷(村田雄浩)が仇討の相手と勘違い。死を覚悟する水谷を止めるため、卯之吉(中村隼人)たちが駆けつける…。

公式サイトより)

バラ撒けどバラ撒けど猶わが生活楽にならざり

不景気も美鈴の苦労もどこ吹く風、今日も卯之吉(中村隼人)は呑気である。夜遊びに出掛けて小判をバラ撒く卯之吉の周りは、なんだが景気がいい。とはいえ少しは市中に金が回るといっても、焼け石に水。

将軍・家政(尾上松也)は対策を打つべく甘利(松本幸四郎)に意見を乞うが、甘利はゆるゆると無理のない為政を……と言うばかり。苛立つ家政に、坂田(新藤栄作)は日光社参を提案する。日光社参となれば諸大名が奉納の品々や装束を用意したり、道の修繕を行ったりで商人にとっては大商いになる。そうなれば貯め込んだ金が世間に吐き出され、経済が活性化するであろう、というのが坂田の見立て。甘利は体調が優れないゆえに何の策も打ち出さないのではないかと言う坂田に、家政は甘利を貶めようとしているのではないかと疑いを持つ。
しかし数日後、三国屋には内々に日光社参を告示された商人たちが詰めかけ、商いの元手にするための金を借りていくのであった。家政は坂田の思惑をどう受け取り、なぜその案を採用したのであろうか。

坂田は変装し、協力者を名乗って世直し衆を訪ねる。自分が家政に日光社参を勧めたにも関わらず、進言したのは甘利だと嘘をつく坂田。世直し衆の面々は日光社参で儲かるのは商人だけと反発する。商人たちは自分たちの懐を肥やすために甘利を利用している、悪徳商人たちにさらなる天誅を与えるべきだと、坂田は世直し衆を煽る。その加勢に寄越されたのは、あの清少将(辻本祐樹)。清少将は殺しをよしとせぬ世直し衆を気にも留めず、直後の世直しで早々に人を斬ってみせる。

目的達成のために大切なことから目を背ける

用心棒・大越(青山草太)は、三右衛門(渡辺いっけい)が営む口入屋を訪ねるが不景気で仕事はない。三右衛門は悪党が持ち込んだ仕事を引き受けて巻き込まれないよう忠告するが、大越の顔は暗い。それもそのはず、時既に遅しで、大越の裏の顔は世直し衆として盗みを働く身なのだ。
兄の仇討ちのために10年も江戸に留まっている大越。時が経ち、仇を討ちたいというより仇を討って早く故郷に戻りたいという気持ちが勝っているようだ。しかし待つことに疲れた妻には離縁を言い渡され、共に故郷に帰る希望は消える。大越を仇討ちに向かわせるのは、もはや主への忠誠心でしかない。

洲崎には、剣術の稽古のために濱島(古川雄輝)の元を訪れる美鈴(新川優愛)の姿が。濱島はちょうど貧しい者のために炊き出しをしているところであった。
人を救うために炊き出しをしているのと卯之吉が小判をバラ撒いて人を助けることに何ら違いはない、と語る濱島にはどこか無力感が漂う。卯之吉は裕福な三国屋に生まれ、何の苦労もなく金を撒くことができるけれど、自分は違う。
濱島のモチベーションは、大火に巻き込まれて命を落とした母のような者をもう出さない町にすること。世直し衆もそのための一環なのだが、本来気の進まない盗みを行い、信念に反して死者まで出しながら目的に向かって進んでいく濱島は全然活き活きとはしていない。それは剣術を生きがいであり支えだという美鈴の表情の輝きとは対照的だ。

なかなか世直し衆の尻尾を掴めずに焦る沢田(小沢仁志)。村田(池内博之)は三国屋に金を借りた商家が連続して襲われていることに思い当たる。となれば次のターゲットは三国屋に違いない。三国屋の番頭・喜七(武田幸三)は水谷(村田雄浩)と源之丞(石黒英雄)を従え、わざと世直し衆に襲わせる。
結局世直し衆は捕らえられずに終わるが、大越と刀を交えた水谷は、口入屋で見かけた侍が世直し衆の一人だと気付く。一方大越は水谷の顔の傷を見て、彼が仇討ちの相手だと確信。大越は世直し衆の正体が露呈しないよう、早く水谷を斬らねばならないと決意する。

「楽しいから」の強さ

故郷に帰れず、困窮する大越に同情する水谷。自分が斬られればよいのではないか、自分のような浪人が側にいても由利之丞(浅香航大)のためにならないのではないかと思い悩み、自ら大越の仇討ちに遭おうとする。
夜の闇に紛れて仇討ちに遭いに出た水谷を追い、由利之丞は役に立つか立たぬかも微妙な卯之吉を引っ張っていく。予想通り大事な場面で気絶してしまう卯之吉を口上でフォローし、結局は自分の力で水谷を救う由利之丞は滑稽だ。けれどどう見ても腕の立たない卯之吉を、由利之丞はそれでも必要としている。自分一人ではどうしようもなくても、卯之吉を助けるためなら力を発揮できるのだ。

さらに滑稽なことに、水谷が本当の仇討ちの相手ではなかったことがわかる。人違いであったゆえに人を斬らずに済んだ大越に、水谷は士官などぜずとも楽しく生きていけると説く。楽しさについてなど考えたこともなく、ただ主への忠誠を全うしようとしていた大越に、水谷の言葉は新鮮に受け止められる。
しかしコントのような軽妙なノリは、清少将が放った一撃で断ち切られてしまう。これから新たな道を歩もうとした直後に致命傷を負った大越。バチンと暗転する展開のコントラストに、私たちは息を飲む。一寸先は闇なのだ。
清少将は大越を殺したと、濱島たち世直し衆幹部に報告する。水谷に素性を明かした大越をそのままにしておいては、世直し衆に累が及ぶから消したという清少将。殺しはしないという建前が既になくなってしまった現状に、濱島は何を思うのか。

また美鈴に助けられ、自分を情けなく思う卯之吉。しかし銀八(石井正則)は、皆楽しいから卯之吉を助けているのだという。それは美鈴も一緒だと。卯之吉はあまりピンと来ていない様子だが、魚を焦がしてしまった美鈴に手を貸す卯之吉はとても楽しそう。
世直し衆の理想は崇高でもそこに辿り着くまでの道のりは悪であり、そのことに耐え切れない者が出れば組織はたやすく瓦解するだろう。厄介な状況すら楽しめる卯之吉たちの明るさが悪に勝ち、江戸の町を照らすと信じたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?