働かざる者たち4話:姉さん、事件です(つくね事変)

新田がつくねを食べなかった。
呼び出されたのではなく、自らの意思で席を立った。

橋田、新田、鴨志田が集まるいつもの居酒屋で繰り広げられる、毎度おなじみの「つくねコント」。
つくねに手を伸ばすたび、新田が取材で呼び出されて食べられずじまい…というのがお約束なのだが、4話は様子が違った。
珍しく橋田に苛立ち、居酒屋を後にする新田。その理由はこうだ。

新党結成を噂される若村議員にウラを取り、スクープを上げたい政治部。だが若村議員にパイプを持つ記者がおらず、取材は行き詰まっていた。
それを聞きつけた技術局長・多野(升毅)は、橋田に地方の通信社への出張を命じる。そこで堀(浜野謙太)という記者にコンタクトを取れ、と。
住民と酒ばかり飲んでいる記者・堀は、かつて若村議員と近しかった人物。当時政治部で上司だった多野(升毅)のパワハラによるプレッシャーから記事を捏造し、地方へ飛ばされた過去を持つ。
多野もまた、堀が起こした事件の責任を取る形で政治部での出世街道を外れることになったのだった。
もし堀が若村議員を取材することができたら、堀は本社に戻れ、多野も政治部に返り咲くことができる…それが多野の皮算用だった。

しかし、堀は若村議員の元には向かわなかった。その代わり、地域で記事を書き、住民に喜ばれることを選んだ。
堀は気付いたのだ。自分が書いた記事を大事にスクラップしてくれる住民の、人生の1ページを彩ることこそが自分が働く意味なのだと。

同期3人の居酒屋に話を戻そう。堀に共感し、地域に密着した仕事の素晴らしさを語る橋田。
それを聞く新田は珍しく浮かない表情だ。
「でも…若村議員に裏取り取れる唯一の人だったのに、それをやらなかったのは記者としてどうかと思うけどね」
話すうちにヒートアップして早口になる新田。
「僕たちがプライベートを犠牲にして、身を粉にしながら働いているのを知ってるよね、橋田くんは」
「なのに昼間から酒飲んでダラダラしてる堀さんを見て何にも思わなかったの」

新田は3話で読者のために記事を書く、と言った。
読者が求めていることを記事にする。ならばたとえ扱う内容の大小は違っても、堀と新田が感じているやりがいは同じではないか。

新田はこれまでつくねを口に運ぶ途中で取材に呼び出されても、嫌な顔なんかしていなかった。
好きでやっていることだからね、と笑った彼はその時、果たしてプライベートを犠牲にしているだなんて思っていただろうか。

プライベート(private:私的な)の反対語はパブリック(public:公的な)だ。
読者という世間(public)のために自分の時間(private)を削って記事を書く。それをむしろ新田は喜びだと思い、私と公、両者のバランスも成り立っていたはずだ。

「橋田くんも新聞社の社員なんだから、もっと会社のためになることを考えないと僕はダメだと思うよ」

これまでブレなかった新田が揺れるのは、読者のためではなく、会社のためという軸を入れてしまったから。
跳ねるような小走りで取材に向かう新田はそこにはおらず、つくねも食べず逃げるようにその場を去るのだった。

でも、これまでの明るく前向きな優等生の新田じゃなくて、人間らしい悩みが見えてむしろホッとしたような気もする。
橋田と新田はこれからもっとわかり合える関係になれるんじゃないの?という期待を抱きつつ、5話へ。

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