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Vol.3 O'Bannon v. NCAA事件の経緯と教訓

こんにちは。ぽんたです。(@suhara_ponta

おとといから連載しているシリーズが好評で嬉しいです。

Vol.1 スポーツと独占禁止法の関係について
Vol.2 NCAAの『アマチュア規制』の歴史
Vol.3 O'Bannon v. NCAA事件の経緯と教訓
Vol.4 日本の体育会学生はアマチュアであるべきか?

Vol.1では独占禁止法についての解説とスポーツとの関係について、Vol.2ではNCAAのアマチュアリズムと学生の搾取について軽く触れました。今回は、NCAAのアマチュアリズムの歴史を大きく変えるかもしれない、O’Bannon事件判決について取り上げます。法律で少し難しい話が出てきますが、図解でなるべく分かりやすく解説できるよう頑張ります。

事件の概要 

2008年、UCLAで活躍したバスケットボール選手であるEd O’Bannon氏は、カレッジバスケットボールのビデオゲームに彼が登場していること知りました。ゲーム上ではO’Bannon氏によく似たアバターがUCLAに在籍し、31番という彼が背負っていた背番号を付けていました。O’Bannon氏は彼の肖像権が使われていることに同意したこともなければ、補償を受けたこともありませんでした。 O’Bannon氏は、学生選手が自らのNILs( names, images, and likenesses)の使用の対価を受け取ることを禁ずるNCAAのルールは、反トラスト法の1つであるシャーマン法1条の不当な取引制限に当たるという主張で、NCAAを訴えました。


(https://www.cnbc.com/2014/05/28/obannon-v-ncaa-antitrust-suit-players-likely-to-win-case.html)

判決 

結論から言うと、地裁はNCAAの学生選手がNILs使用の対価を受け取ることを禁じるルールはシャーマン法1条に違反すると判示しました。控訴審では地裁の一部が認められ、一部が却下されました。

独占禁止法の裁判では、まず市場を確認します大学が高校生の有力な選手をリクルートする競争をする市場です。各大学は奨学金のみならずコーチや運動施設、高い競技レベルの試合をする機会などで競争し合います。

アメリカンフットボールとバスケットボールにおいては世界最高峰のプロリーグであるNFLとNBAに年齢制限があり、高校卒業から直接プロとしてNFLまたはNBAでプレーすることはできません。よってNCAA(FBSフットボールとDivisionⅠバスケットボールと呼ばれる一部リーグ)は他のスポーツリーグには提供できない商品とサービスを提供するため、独自の市場があります。

次にこのアマチュア規制が競争に与える悪影響(反競争効果)を見ます。もしこのルールがなければ、各大学は新入生に多額の奨学金を提示することで選手を獲得する競争を行い、学生選手はより低い金額で大学の教育サービスを受けることができるようになります。またこのルールは、大学が選手のNILsの価値をゼロであると合意している価格協定であると言えるので、大学間のカルテルと同じような効果を持つのです。

次に、同じアマチュア規制によって逆に競争が促進されるか(競争促進効果)を審議します。被告であるNCAAが主張した4つの競争促進効果のうち、

①アマチュアリズムの伝統が現在のNCAAの商品としての人気を保っている。
②学生選手が一般生徒では到底受け取れない多額の報酬を受け取ることによって生じる一般生徒との断絶の防止している。
という2つの競争促進効果を認めました。

最後に、その競争促進効果はもっと良い他の方法で達成されないか(より制限的でない代替手段)を検討します。地裁では、大学が学生選手にそのNILsの使用の対価として卒業後に年間5000ドルを上限とする報酬を支払うという代替手段を認めました。控訴審では地裁の判断の根拠は不十分であると却下し、地裁の判旨を棄却しました。

考察

NCAAとシャーマン法の過去の判例を見てみると、NCAAのアマチュア規定が合法と判断される理由として、「学生選手はスポーツ選手である前に学生であり、課外活動としてスポーツに参加している」という仮定が共通して前提となっています。しかし現在のNCAAにおいてその前提は鵜呑みにしていいものではないと考えます。NCAA上位校の一流選手は一般的に、学生である以上にアスリートです。大学からリクルートされ、学業水準に関係なく奨学金を受け取り、プレーすることを期待されています。特にフットボールとバスケットボールの選手に関しては、NCAAが実質的なマイナーリーグとなっていて、プロを目指す選手は学業を求めてではなくプレーする環境を求めてNCAAに参加しています。

2014年には全米労働関係委員会(National Labor Relations Board "NLRB")が、奨学金を受け取っているフットボール選手は、賃金契約のもとで雇用者の管理下にあり、労働者であると宣言しました。この決定は反トラスト法の裁判所が依拠している、学生選手はビジネスマンではなく学生であるという前提と逆行するものです。

O’Bannon v. NCAA事件は、無条件でアマチュアリズムを善としたそれ以前の判例とは異なり、5000ドルの報酬を与えることで消費者需要にどのような影響があるかなど、具体的に検討を行った初めての判例です。裁判所がアマチュアリズムの競争促進効果を認めた理由は、難しい定性的な要因の比較を避けて現状維持に傾いたのではないかと考えられます。アマチュアリズムが人気の理由ではないと立証するのは難しいですが、NCAAが自身の成功の理由を他のスポーツリーグとの相違点であるからアマチュアリズムだと述べるのは容易です。

現在、Jenkins v. NCAAというシャーマン法1条を争点としたO’Bannonと類似した訴訟が係争中です。原告はアマチュアリズムの維持にはかつてあった競争促進効果がなく、よって奨学金の上限は不当な取引制限に当たると主張しています。NCAAに関わる大人が巨額の利益を手にする中で、学生選手が搾取されているという世論を味方につけた学生選手が、奨学金の上限を取り払うまで反トラスト法訴訟への挑戦は続くのではないでしょうか。今後の裁判の行方に注目です。

以上がO’Bannon事件の解説になります。NCAAと反トラスト法の間に何が起きているのかお分りいただけたでしょうか?日本版NCAAという名の通り日本が見習おうとしている米国NCAAは、選手に金銭報酬を払わないというルールが破綻しようとしています。

次回はラスト、日本の体育会学生が報酬を受け取るべきかについて、私見を述べまくります!!

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