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Vol.2 NCAAの『アマチュア規制』の歴史

こんにちは。ぽんた(@suhara_ponta)です。
現在以下のような連載を行なっています。

前回の記事では独占禁止法についての解説とスポーツとの関係について書きました。今回はその話を大学スポーツに絡めていきます。

連載↓
Vol.1 スポーツと独占禁止法の関係について
Vol.2 NCAAの『アマチュア規制』の歴史
Vol.3 O'Bannon v. NCAA事件の経緯と教訓
Vol.4 日本の体育会学生はアマチュアであるべきか?

アメリカの大学スポーツの協会であるNCAAには「NCAAの選手はアマチュアであるべきで、プレーの対価として報酬を受け取ってはならない」という原則と、それを支えるいくつかのルールがあります。そのルールがアメリカの独占禁止法である反トラスト法に違反するのではないかという訴訟が起きました。僕が一番興味を持っているのは、「大学スポーツの選手は報酬を受け取るべきか」という点です。その前にNCAAのアマチュアリズムを正確に理解しましょう。

まずNCAAについて概説します。NCAAはNational Collegiate Athletic Associationの略で、全米大学体育協会と和訳されます。十九世紀にアメリカの大学で発生したアメリカンフットボールの人気過熱とラフプレーを抑制するために、大学間の協調が必要となったことが起源です[1]。協会自体は主に、大学のスポーツクラブ間の連絡調整、管理など、さまざまな運営支援などを行います。全米の大学約2300校中1123校が加盟していて[2]、100のカンファレンスというリーグが運営され、24の競技が行われています[3]。

NCAAが主催する競技のうち特にアメリカンフットボールとバスケットボールは米国において絶大な人気を誇り、2競技を筆頭にNCAA全体(NCAA+カンファレンス+大学)では合計80億ドルと推計される収益力を有しています[4]。

次にアマチュアリズムについて、NCAAの公式ホームページによると[5]、『NCAAの学生競技においてアマチュアリズムは根本的な原則』とNCAAは規定しています。アマチュアリズムを保つことは学生が良質な教育を受けるための学術環境を守るために極めて重要で、NCAAの学生選手は “students first, athletes second”であるべきことを定めています。

歴史を振り返ると、NCAAが創設されてから最初の改革は参加者(選手)がアマチュアであるという条件を設けたことでした。有力な選手を集めるための大学間の競争が過熱していて、NCAAは金銭的な補償を受けていない者にのみ選手資格を与えるという制限を課すことでこの問題を収めようとしました。初期はNCAAの拘束力は低く、多くの大学がこのルールを無視していましたが、1948年の”Sanity Code”(学生選手に運動能力に基づく報酬を与えることを禁止するルール群)の導入で、拘束力を強めました。1956年には、学生選手に運動能力に基づく奨学金を与えることを認めましたが、”grant in aid”(授業料、住居費及び教科書代)を上限としていました。2014年、NCAAは各大学が奨学金の上限を”cost of attendance”(grant in aidに加えて、書籍、交通費その他大学に在籍する費用など)まで引き上げることを認め、80校の大学では”cost of attendance”が上限となっています(2015年1月当時)。[6]

上述したようにNCAAの収益力は非常に高く、NCAAに関わる大人たちは莫大な利益をあげています。例えばアメリカのほとんどの州の公務員の中で一番の高給取りは、公立大学のバスケットボールコーチです。デューク大学のバスケットボールコーチの年俸は900万ドル(9億円以上)です[7]。それだけ市場規模が大きいのです。

一方で、当の選手たちは上限のある奨学金しかもらっていません。


アマチュアリズムの名の元、学生選手が大人たちに搾取されていると言っても過言ではありません。

NBAのスーパースター、レブロン・ジェームズ選手もNCAAのシステムに疑問を投げかけています。


「僕はNCAAのファンではないんだ。マーチ・マッドネス(NCAAバスケットボールトーナメント)を見るのは好きだし、素晴らしい試合だと思う。でも、学生アスリートがその恩恵を得られていないことについては、好きではない。」[8]

次回Vol.3ではこの問題が注目を集めるきっかけになった”O’Bannon v. NCAA”事件について見て行きます。

[1] 宮田由紀夫『暴走するアメリカ大学スポーツの経済学』
[2] 花内 誠『スポーツ産学連携=日本版NCAA ~スポーツマーケティングの立場から見た大学スポーツの重要性』
[3] NCAA公式ホームページ http://www.ncaa.org/about/resources/media-center/ncaa-101/what-ncaa
[4] 鈴木友也 アメリカ大学スポーツの終わりの始まりか?(上)http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/110200013/110900002/?P=2
[5] NCAA Amateurism (http://www.ncaa.org/amateurism)
[6] O'Bannon v. Nat'l Collegiate Athletic Ass'n, 802 F.3d 1049 (9th Cir. 2015). [7] http://sports.usatoday.com/ncaa/salaries/mens-basketball/coach/
[8] http://www.espn.com/nba/story/_/id/22596036/lebron-james-calls-ncaa-corrupt-says-nba-give-alternative

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