乾杯にまつわる2つの物語―『ビール』創作裏話

7月から8月末までの期間で開催されたキリンビールとnoteのコラボ企画 #あの夏に乾杯 に、『ビール』と『余白』の2つの作品で参加しました。

読んでいただくと分かりますが、この2つの物語は登場人物が共通しています。
どちらも単独の作品として読めるようになっていますが、できれば最初に書いた『ビール』から先に読んでいただきたいです。
今回は、この2作品の成り立ちについて紹介します。

率直な人を書きたかった『ビール』

今年2月に東京赤坂のクラフトビール専門店(ヤッホー・ブルーイングさんの「YONA YONA BEER WORKS赤坂店」)に行ったとき、この作品の構想が生まれました。

ビールも食事も最高に美味しくて、店員さんの感じも良くて、とても楽しい時間を過ごしました。
快適なひとときの中で、駆け引きのない誠実で率直な人を書きたくなり、そして現れたのが若い男性社員とその先輩女性です。

生き方も価値観も多様化する社会の中で、バリバリ働く女性と気弱な男性という形にはしたくなくて、自分らしさのある女性と志のある男性をイメージしました。
年齢や性別、立場の枠を越えて、上を目指す気持ちと尊敬や愛情は共存できるものだと考えています。

早速着手して途中まで書きかけたものの、2人をビール専門店に行かせるまでの流れで行き詰まって、そのまま数ヶ月寝かせることになりました。
ちなみにタイトルは当初から『ビール』です。

#あの夏に乾杯 の企画が発表されたとき、すぐにこの『ビール』を完成させて応募しようと決めました。

あわよくばヤッホー・ブルーイングさんの目に留まったりして、なんて野心もあったのですが、企画への応募作品にすることから、舞台は特定の店ではなくビアガーデンになりました。
主人公の出身地はヤッホー・ブルーイングさんにちなんで長野県佐久市あたりを連想しています。信州リンゴと地元クラフトビールで軽く匂わせました。
あのあたりは浅間山がすごくキレイに見えるんですよ。恵まれた景色の中でおおらかに育った主人公の人間性にも繋がる気がします。
一方、職場は都会ですが都心部ではなく、郊外では農業も行われていそうな街のイメージです。

告白のシーンは我ながら小っ恥ずかしいですが、頑張れって応援する気持ちで書きました。

この後2人がどうなるのかは、想像の余地を残しました。
聞いていないので私もわかりません。(笑)

『余白』は表に出せない切なさ

『ビール』の主人公の、ある意味キューピット役になる同期の女性社員の視点で書いたのがこの作品です。

彼女の登場のおかげで『ビール』のステージが整いました。
2人で飲みに行かせようとしていたからハードルが高くて行き詰まっていたんですね。

一方で、彼女の気持ちを知りながらそのままにしておくのが申し訳なくなっていました。
読者からもメガネくんに気があるように誤解されてしまうだろうし(あえてそう書いたので)、かといって裏話的に「実はこういう設定で」なんて書くのも、なんか本当の彼女の気持ちを伝えるには不十分に感じてしまい、急遽作品として書き上げました。

幸い締め切りが土曜日だったので、Wifiのないカフェでネット環境を絶ってギリギリ滑り込むことができました。先行作品『ビール』のおかげで設定がある程度まとまっていたのも幸いしました。

未経験のボルダリングは実際のジムに見学に行って、にわか知識ですがなんとか入れ込みました。

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ちょっと鈍感な男性社員は同期の女の子の気持ちには気付きません。わずかでも察してしまったら、心のどこかにひっかかってしまって、まっすぐに告白に向かえなかったと思うし、彼女も思わせぶりな行動を取らない潔い人でした。

人は、自分の見聞きしたものと自分の経験に基づいた想像の範疇でしか物事を見ることができないという面も意識しています。
知らないことは知らないままだし、言葉にしたり態度に出さない限り心は表に出ません。

体を動かす人は前に進める人なので、彼女はこれからより良い未来に向かえると思います。

登場人物に名前をつけないことについて

今回の作品に限らず、私は登場人物に名前をつけないことが多いです。
表に出していないだけで実は名付けていることもありますが、大半は本当に名前を設定していません。
キャラクターが固定化されてしまう気がしてしまうことが大きな理由です。名前の持つ音の響きで繰り返し呼ばれ続けることが人間性に影響を与えるという説も割と信じている派です。

それぞれのイメージを膨らませて登場人物の人物像を想像しながら読んでいただけたら幸いです。

もちろん、名前がストーリーに意味を持たせる場合や、登場人物が多くてキャラクターを区別する場合は必要になってきます。
実は今回けっこう苦しかった(笑)。

登場人物の生年月日や血液型も基本的に設定しません。タグ付けによる先入観やレッテル貼りで、固定のイメージがつかないようにしたいのが主な理由です。

関連しそうな作品紹介

最後に、似たような構成で書いた作品を紹介します。

どちらも世間一般的にはパッとしない登場人物ですが、どこかの町で暮らしている実在の人たちという気持ちで書いています。

良かったらぜひご一読ください。

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