見出し画像

秋の花火

あの日見た視界いっぱいの花火を、私は一生忘れられないと思う。

大学に入学する前から、学園祭実行委員会に入ることを決めていた。大学でできるサークルは、半分くらいは社会人になってもできる。テニスも、バドミントンも、料理も、サークルじゃなくたってできる。でも学園祭だけは違う。学園祭だけは、学生のうちにしかできないのだ。

後から知ったのだけれど、うちの学園祭実行委員会は「ブラックサークル」なんて呼ばれているらしい。確かに、無給で学園祭のために捧げる時間はかなり多い。毎週のミーティング、協賛のための週末イベントの参加、直前期は大学に泊まり込みで装飾物を作ったり、参加団体の対応に追われたりする。執行代で幹部を務めるくらい実行委員会が好きだった私でさえ、なんでこんなことやってるんだって思ったことは、正直一度や二度じゃなかった。「ブラックサークル」なんて、うまいネーミングだなぁと思ってしまった。

とかなんだかんだ言いつつ、私はあのコミュニティが大好きだった。

一つの目標に向かって、仲間で突き進んでいく感覚。お互い切磋琢磨して、でも助け合う気持ち。たぶん、この仲間は他のサークルでは絶対に得られなかった。友達なんて言葉も、仲間なんて言葉でも言い表せない。戦友、とでも言いたい人たち。

執行代で幹部として、当日は本部にいた。全体指揮を担当して、スタッフ全員と名前を覚え、全員がスムーズに仕事できるように、前日から撤収までみんなを見守った。

私の大学の学園祭では、最終日の夜に花火を打ち上げる。大きな、花火。本部からも少しだけ見られることを知っていたから、その時間を楽しみにしていた。花火が打ち上がるのは、19時20分。

19時。慌ただしかった本部が少しだけ静かになる。みんなが定位置についていることを確認して、トラブルがないかトランシーバーで確認する。

19時10分。本部に幹部しかいなくなる。トラブルがないことを確認して、手の空いているスタッフはみんな花火を観に行かせる。この瞬間のために3日間頑張ってきたようなものだから。

19時15分。花火が終わったら一気に撤収で慌ただしくなる。今のうちに準備できるものは準備しておく。先輩が差し入れをくれた。

19時19分。「みんなで行っておいで!」先輩にぽんと背中を押される。同時に、戦友に手を引かれて、走り出した。

最終日にして、初めて本部から出られた瞬間。担当している仕事柄どうしても外に出る時間はなくて、自分がそれまで担当していた装飾の飾り付けも、企画の完成の瞬間も見届けられなかった。でも、外にでたあの瞬間、それらが無事完成していたことを知った。胸があつくなって仕方がなかった。こみ上げるなにかに耐えながら、空を見上げた。

目の前に広がる大きな花火と、涙ぐんでる人たちと、目を合わせて笑う。

「本当の実行委員の仕事はこれからだね。さぁ、撤収始まるよ!」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?