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お守りの電話番号

中学生の頃使っていたピンクのガラケーに、家族と友達以外に唯一登録されていた番号がある。学校に行きたくなくて行きたくなくて、塾の友達にぽろっと愚痴をこぼしてしまったときに教えてくれた番号。

「私ね、小学生の時に両親が離婚してるの。今はお父さんと暮らしてるんだけど、それでも最初はやっぱり辛い時もあって。そんなときにここに電話してたんだ。」

そう言って、他の友達に聞こえないように「チャイルドライン」を教えてくれた。18歳までの子供がかけられる電話。何を話してもいい、相手は私のことを知らないから、私は私の気持ちをぶちまけられる。

すぐにチャイルドラインを調べて、少し迷って、そっと電話番号を登録した。学校の友人関係で悩んでいることを知られたくなくて、ガラケーを誰かに見られてもチャイルドラインを登録してるとバレないように、登録名を「鈴木さん」にした。

今考えると当時悩んでいたことは大したことではない。けど、あの時の私にとっては、とてつもなく大きな問題で、でもどうしようもない出来事だった。学校と塾と家にしか自分の居場所がない状況で、そのうち一つの学校で悩み事があるのは本当に本当に辛かったし、疲れた。

「本当に辛くて、誰かにぶちまけなきゃやってられなくなったらチャイルドラインに電話しよう。」
そう思って登録した番号を見つめるだけで、不思議と辛い気持ちは少し収まった。

話を聞いてくれる人がいなかったわけじゃない。親も、塾の友達も親身になって話を聞いてくれた。けど、やっぱりどこか「いい子ちゃん」な話し方をしてしまう自分がいて、自分は嫌われたくないんだなと痛感してしまうことがよくあった。


そんなときに、チャイルドラインの電話番号を見つめた。大丈夫、私はここに電話をかけるだけで話を聞いてくれる人がいる。顔も名前も知らないこの人になら、私はなんでも話せる。チャイルドラインの電話番号は、私の精神安定剤のようなものだった。

結局、私は中学卒業までチャイルドラインに電話をかけることもなかった。高校入って少しして機種変したスマホには、チャイルドラインの電話番号を登録することもなかった。「もう私は大丈夫。」

大事な大事な、私のお守りは本当に私を守ってくれていた。電話番号を知っていただけだけ、かもしれないけどね。

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チャイルドラインは、18歳までの人が無料でかけられる電話です。
https://childline.or.jp

私がチャイルドラインの電話番号をお守りにしていたのは8年ほど前のことですが、今はチャットで会話をすることもできるようです。

私は一度も電話をかけなかったけど、その存在にはなんどもなんども救われました。家族も塾の友達も話を聞いてくれたしアドバイスもあったけど、それ以外の大人も話を聞いてくれるんだっていう安心感が大きかったのかもしれない。

中学生の私は結局、問題をうやむやにしてなんとなく仲直りしたけど、やっぱりそのあと卒業まで何度か同じ問題で辛くなってしまった。卒業して少し経って、自分に中学以外の居場所が確かにあるんだと実感できてから距離を置いて冷静になれた。自分が嫌だと思ったら、それ以外の方法を探すしかないなと今なら思える。学校も、今思えばあんなに毎日泣いていたのに無理していかなくてもよかった。勉強は塾でも家でもできるし、内申点もテストの成績さえとってしまえば大きな問題ではなかったかもしれない。でもあのときの私にはこれが一番の選択だった。

どうか、自分が自分はこれが一番後悔しない、と思える選択を。

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