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美を求めると宗教みたいになる

痩身エステ体験に行った。

「脚痩せしたい」という気持ちは中学時代からあって、やれマッサージだスクワットだなんだかんだと試してみたけれど、劇的に細くなるわけでもない。「少し変わったかな?」くらいだ。このままやり続けても細くならず、時間の無駄になりそうだったので、痩身エステ体験に行くことにした。通うわけではない。「安い価格で原因とか対策とか教えてもらえるんじゃないか」というケチな考えで体験に行くのだ。

体験に行ったのは「エ〇セーヌ」だ。

実は大学時代にも一度行ったことがあるのだが、「5年も経ってるんだから、体験者の個人情報なんて残ってないだろ」とこの情報化社会を舐めて予約。「以前利用されてますよね?」と怒られないかと少しビビっていたが、何も言われずに予約できた。よかった。

当日行くと、「このくらい痩せました!」というレポートがまとめてある冊子を読め、と言われる。年齢別に分かれており、それぞれのコースや利用したサプリなんかが書かれている。全体的な印象としては「すごく痩せる」というよりは、「ぶよぶよしていたのが、健康的な体になる」という感じだった。

次はカウンセリング。どの部分が気になるのか、どうしてここに来ようと思ったのか、いつまでにどのくらい痩せたいか、理想の体型はあるかなどを聞かれる。「このあたりをーいつまででもいいのでー痩せたらいいけど痩せなくても別に」と抽象的に返してお姉さんを困らせる。本当に申し訳ない。

着替えて採寸をすると、「重心がずれてますね。まっすぐ立ってないですよ」と言われる。骨盤が後ろに下がっているため、骨盤付近の血流が悪くなって脚痩せしにくいのだそうだ。骨盤が下がってしまう原因は、お尻と背中の筋肉が落ちているかららしい。目から鱗。だから脚痩せをいくらやっても効果なかったのか!

施術に入る前に、説明を受ける。コースの種類、価格、回数と痩せる目安について。大体10回ごとに契約ができて、当日限定でモニター契約を利用すると普通より半額になるという。
それに加えて、どうすれば痩せられるのかという話になった。エル〇ーヌで行っている施術についての説明だ。おとなしく聞いていると、お姉さんは急に真面目な顔をして「ご協力していただきたいことがあるんです。」と言う。なんだろう。

「痩せる遺伝子を活性化する映像を見ていただきたいんです」

痩せる遺伝子

(笑いをこらえるわたし)

大学時代も同じ説明を受けているはずだが、改めてこの話を聞くと笑えてくる。大真面目に「痩せる遺伝子」とか言わないでくれ。もっと化学名で言ってくれよ、俺たちいい大人だぜ?
概要を言うと、「太る遺伝子は、生命を持続させるためにある。飢餓状態にならないために脂肪を蓄えておく役割。痩せる遺伝子は、飢餓状態になりそうなときに、脂肪を使うためにある」という話だった。
「今の日本で飢餓状態になることってありますか?ないですよね。カンボジアの子どもたちはあるかもしれませんけど」と言われて「急な社会問題!!」と心が追い付かなかった。
映像と音楽は脳に働きかける力が強いので、東京で飢餓状態とは縁遠い状態で生きていても、見ている・聞いているだけで痩せる遺伝子が活性化して痩せやすくなるんだそうだ。マジかよ。「ご協力いただけますか!?」とノリノリのお姉さん。笑いをこらえつつ「はい」と返事するわたし。

ついに施術。

映像は「ダイエットツアー」という名前で、スクリーンセーバーがバグって南国に行ったら最終的に宇宙になって世界の真理がドーンみたいなやつだ。内容はない。効果があるかどうかはわからない。一種の催眠療法みたいなのもあるのかな。(大きな声じゃ言えないけど、youtubeで探したら、違法動画みたいな感じのがあったので気になる方はぜひ)

その映像を見ながら、サウナドームに入って、EMSをお尻、背中、太ももあたりに貼られて、電気をガンガン送られる。ビリビリ!としながら、映像を見て、汗をダラダラ流す。なんだこれは。何もしてないのに忙しい。

そのあとはビニールでぐるぐる巻きにされて「疲れていると思うので寝てください」と寝かされる。数分するとビニールをはがされ、お姉さんが脂肪をぶっ潰すマッサージをしてくれる。めちゃくちゃ痛い。けど、効果あるのはわかる。血がどんどん流れている。痛みに耐えていると、施術が終わった。

シャワーを浴びて、着替えて、採寸されて、写真を撮られて、結果を教えてもらった。脚やお腹周り、トータルで10cm減ったらしい。お尻もキュッ!と上がっている。お尻が上がると、脚が長く見えるし、血行が良くなってキレイに見える。すごい。魅力的だ。
何もしていなかったのに、お姉さんが「がんばりましたね!」と言ってくれる。嬉しい。痩せた上に褒められる。すごい。

最後にもう一度、金額の説明を受ける。が、「高すぎるので無理です」「分割でも難しいです」と強い心で返答した。お姉さんは「そうですか……」としょんぼりしていたが、強い心で会計。体験料金は500円。お尻をキュッ!とさせた上にたくさん褒めてくれたのに、なんだか申し訳なかった。

帰ってから「こんな感じだったよ」と家族や恋人に話していたんだが、だんだん「宗教みたいだったな」という気持ちになってきた。

映像の件はもちろんだが、エル〇ーヌは、自らを「ダイエット道場」と銘打っていて、壁の至る所に模造紙を貼っている。手書きで「痩せるコツ」「マシンの特徴」「体の仕組み」などが書かれていて、手作り感満載。小学校の教室みたいになっている。いや、小学校の教室のほうがまだ整然としている。この手作り感が、宗教っぽいのだ。

スタッフも親しみやすく、お客さんと談笑している。わたしを担当してくれたお姉さんもやたら褒めてくれるし、自己肯定感が高まる。逆にお姉さんが褒めてくれない骨盤のゆがみや足の太さに関しては「どうにかしたい!」という気持ちになってくる。この心理とか、すごく宗教っぽい。

けど、考えてみれば美(健康)と宗教はつながりやすいと思う。
新興宗教が最初に水を売りつけるのは「普段あんまり水を飲まない人が、水を買って飲むことで普通に体調が良くなるから信じやすい」という。朝早く起きて何かをする、夜寝る前にお祈りをする、みたいなのも自分のルーティンができて目覚めや入眠が改善されるからなんじゃないだろうか。

宗教の入り口は健康や美だし、美や健康も突き詰めると宗教っぽくなる。これはエステに限らず、化粧品やダイエットにも言える。そんなことを考えた痩身エステ体験だった。

応援があると人は強くなる。例外なくわたしもそのはずです。