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異国での、汽車旅。【いきなり夜行便】

前回投稿からの続きを、書いていきましょうかね…。

さて、私が海外で初めて本格的な「汽車旅」をしたのは、2014年5月、韓国でした。
2012年から頻繁に訪韓するようになり、交通好きもあってソウル近郊では色々な「のりもの」に乗り、列車にも何度も乗っていました。しかしそれは「移動」のためのものであり、旅情を楽しむためのものではありませんでした。そろそろ、汽車旅を、してみたいなぁ…と。

気が付けば、予約していました、釜山イン・アウトの航空券を…。

出発当日、仕事を早上がりして空港に向かい、夕方発の飛行機に乗り込み、いざ釜山へ。
海外LCCの利用はこのときが初めて少し緊張しましたが、なんら問題はなくスムーズな渡航。当時はLCCでありながらも機内食を無料提供していたエアプサンですが、最近有料サービスとなったようで、少し残念。行きはホットサンド、帰りはブリトーでしたが、ともに意外と美味しかったのです。

さて飛行機は離陸待機と釜山金海空港の混雑で遅れ、空港を出たのは21時過ぎ。これから乗る予定の列車は、釜田駅を22時42分発車。これはいけません急がなければ…。
と言いながらも、これからの行程を鑑みると、やはり食事はしておかねば…。

釜山と言えば、やはりコレ。テジクッパ。

豚肉も、ニラも、キムチも、しっかりいただきました。

乗り換えの合間に立ち寄った西面テジクッパ通り、今度はゆっくり歩いてみたいものです。

食べたお店は「浦項テジクッパ」でした。
https://www.konest.com/contents/gourmet_mise_detail.html?id=5759

食べ終わると早々に地下鉄に乗り、1つ先の釜田駅へ。
ここでKORAIL(韓国鉄道公社)東海線(当時は東海南部線)に乗り換えます。途中スーパーマーケットに立ち寄り「列車のお伴」を買い、いよいよKORAILの釜田駅に。

あぁ、今回も寄れなかったなぁ、釜田市場…。
実はここから列車に乗るのは二度目。一年前に、これから乗る列車と同じものには乗っているのですが、三泊四日の最終夜ということでほぼ全区間で眠ってしまっており、ほとんど記憶がなく…。ということで今回は、改めてしっかり列車の旅を楽しもうと、到着初日に組み込んだのでした。

そんなこんなで二度目のKORAIL釜田駅、韓国を縦断する第二幹線ルートのターミナル駅としては、いささか寂しい感じの佇まい。閑散としたコンコースも、相変わらず。

※構内は2013年訪問時撮影

この時点で列車出発まで15分を切っていて、旅のはじまりの感慨に浸る余裕もなく窓口に並び、日本国内から予約したバウチャーから乗車券に交換します。駅の様子はローカル線の駅然としていて、さて外国人バウチャーからの発券が無事に出来るか、一抹の不安が…。

乗車券は、全く問題なく発券されました。思っていたよりスムーズに進み、ちょっとだけ時間の余裕ができ、これから進む道程を望んでみたり…。

この光の先に、これから、向かいます。

ホームには列車が据えられています。幾つか車両が停まっていますが、灯りが付いているのはこの列車のみ。ソウル清凉里行ムグンファ号1624列車。

今夜を伴にする列車。ホームには紐で縛った荷物を持つアジョッシ(おじさん)。日本でも、こういう光景がありましたね、夜行列車がしっかり走っていた時代は。鉄道旅行をはじめた頃の二十数年前を思い起こし、懐かしさがこみあげてきます。
しかしもう発車間際、早く乗らなければ発車してしまう…。

韓国の列車は、出発放送はあるものの発車ベルなどはなく静かに出発してゆきます。このムグンファ号1624列車も、私が車内に入ると程なく、ゆっくり、ゆっくり、進み始めました。これから約7時間の、夜行列車の旅です。

車内はわりと多くの乗客で、程よい賑わい。夜行列車ですが全車座席車で近郊利用もあり、一杯ひっかけた帰りの人、大荷物を整理する人、明朝に備えて早々に眠りにつく人、様々な「ひと」の息吹が交錯します。

ムグンファ号は日本でいう急行列車に相当するランクですが、最高速度150キロ・リクライニングシート装備で日本の特急型相当の車両を用いており日本人的にはオトク感のある列車。テーブルがないのは残念ですが、座席そのものは日本の特急型の中途半端なものより良いかも知れません。そんな車内には、お疲れ気味の会社帰り、目いっぱいまで膨らんだ百貨店の紙袋そして旅行鞄。

列車は程なく大都市釜山の市街地を抜け、車窓は暗闇に。時折見える街灯、赤く明滅する踏切、そして室内灯に照らされるジャケットフック。
列車は淡々と、夜の闇を一瞬ずつ切り裂きながら、都へと向かいます。

そしてふと思い出したかのように減速がはじまり、少しざわめきたつ車内。薄明るいプラットホームに滑り込めば、そこは太和江駅。蔚山は、捕鯨と工業の街・百万都市蔚山市の、鉄道の玄関。窓の向こうには、工場の灯り。一瞬の賑々しさをホームに下ろし、その賑わいを少し乗せると、客車列車の車窓はまた、闇の中へ。

こう書けば「これは趣のある『汽車旅』だ…」と思われるかも知れませんが、実は…

このムグンファ号は客車列車。エンジンもモーターも付いていないので本当なら「とても静か」な車内なのですが、客車列車は機関車が牽引するもの。その機関車が…

この大きくて武骨な車両。アメリカ製で見た目の通り非常にパワフルで時速120~150キロまで出せる強者なディーゼル機関車なのですが、その設計の基本がアメリカの荒野を往く列車だからか、とにかくウルサイのです…。機関車から客車1両を隔てた2両目の車内に居ても、トンネルに入ると「この車両の床下にエンジン付いてるんじゃないの?」と思ってしまうような騒音が車内に響き、それまでの風情をぶち壊してくれます(苦笑)。あぁ、うるさい…。

とか何とか言いながらも、やはり日付を超える頃にはうつらうつらと記憶が薄れ、ふと目覚めると駅に停まっています。

夜中2時53分、この時間にホームに降り立つ彼は、これからどこへ、どうやって向かうのだろう…。そんなことを考えながら眺める、ムグンファ号1624列車の車窓。

さて時間も時間なので、きちんと寝ようと思うも…。

パワーフードで力が付き過ぎたのか、なんとも微妙に眠れずに、ぼんやりと眺める車窓。これは、どこの駅なんだろう…

うつらうつらとしながらも、ふと記憶が途切れ、気が付くとそこは龍門駅。ここはもう京畿道、ホームの向かい側には見慣れた電車が。あぁ、もうソウル首都圏なんだ…

もうここまでくれば、終点まで間近。少しずつざわめきたつ車内、そして少しずつ明るく、高層建築が増えていく車窓を眺めながらのラストラン。列車はいよいよ、ソウルに東玄関、清凉里駅へ。

薄暗い清凉里駅のホームに停まり、皆が続々と降りてゆくのを寝ぼけ眼でぼんやりと眺め…てたらアカン、降りないと…。
ということで、釜山から7時間の夜行客車急行の旅が、ここに終わりました。

釜山からの長旅を共にした騒音の元凶…いや、戦友よ、ありがとう。

あぁ、寝不足ではあるけれど何だか力はまだまだある朝、夜行列車で迎えた朝のわりには爽やか…などと思いながら階段を上がりコンコースに出かかったところで、ふと思い出しました、アレを…。

スマホのバッテリー充電器、回収してないやん車内のコンセントに射しっぱなしやん!えらいこっちゃアレがないとこれからの行程、スマホのバッテリー切れとの戦いになる…

慌ててホームに戻ると、列車は空しくも出発後…ではありましたが、編成の端をホームに残したまま車内整備中でした。扉が開いていたので、エイヤっと車内に…。

いや~、韓国のこういうところに助けられました「ケンチャナ精神」。
ケンチャナとは「大丈夫だよ」とか「かまわないよ」という意味の韓国語、多少のことがあってもケンチャナケンチャナー、まあ大丈夫、かまわないよ、と。この時も清掃員は私を一瞥しただけで特に何も言わず、充電器は無事に回収できたのでした…。

そんなハプニングの後に駅舎展望デッキから見る、この光景よ…。

とても韓国らしいアパート群と、大好きな電車「新トングリ」、そして先ほどまで乗ってきたムグンファ号用の客車が休む光景。韓国ひとり旅7度目にして初めて「やらかした」後に見るからこそ、また心に沁みるものがあり…。

これが私の、海外での初めての「汽車旅」の顛末でした。
このあとはソウル・近郊を色々とぶらつき、色々な近現代史の名残を見てきたのですが、それはまた、別の機会に…。

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