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播磨の浜の、春。

梅の花、鶯の笹鳴き、迫り来る花粉…。
春を告げるものはたくさんありますが、播磨の浜手には、春を告げる魚がやって来ます。一般には小女子と呼ばれる小魚、播磨では「いかなご」と呼ばれ、その稚魚の漁が始まると「あぁ、春も本番なんだなぁ…」と感じます。

いかなごの稚魚、播磨では「新子(シンコ)」と呼ばれ、さっと釜揚げにしたり飴炊きにしたりして食べます。脂もよくのっていて味が濃く美味しいのですが、鮮度維持が難しく保存技術が発達する前は稚魚・成魚とも行灯用の油の原料としたり畑の肥しにするような雑魚だったそうです。江戸時代から成魚(フルセ)の佃煮は明石名物の珍味として名が通っていたようですが、いかなごを本格的に食用にしたのは第二次大戦での食糧難の頃からという話も。

そんな新子ですが、今は完全に播州の春の名物になっています。新子漁が解禁されると、街のそこかしこから、甘い醤油と小魚を煮る香りが漂います。釘煮と呼ばれる新子の飴炊きは、家庭により生姜を効かせたり山椒風味にしたり、水飴かザラメかで照りやコクが変わるなど、釘煮闘争と釘煮本位制の季節通貨が播磨の浜手を席巻します。ご近所同士で釘煮を分け合い味比べしたり、「炊きすぎたから食べて」と送り付けたりと、様々な釘煮本位制でのやりとりが行われます(笑)。

(画像はWikipediaから借用しました)

私は両親ともに播磨の出身ではないため家で釘煮を炊くことはなく、いかなご新子と言えば「釜揚げ」の印象なんですよね。
身が柔らかく、濃厚な味は春の味。二杯酢かポン酢で、さっぱりといただきます。

春の味に、乾杯。
もう、新子のシーズンも終わりですね。新子が終われば、桜咲く春。


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