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人気講師ノート11 ラマンの発生機構と赤外吸収スペクトルとの関係

さて,前回の人気講師ノートの続きです。ラマン分光法は,光の非弾性散乱(光のエネルギーが変わる散乱)を利用します。光の非弾性散乱には,ストークス線とアンチストークス線とがあったのは前回のNoteでも述べました。
弾性散乱として,レーリー線も紹介しました。

きちんと復習できましたか?
ラマンと赤外の関係は?
ストークス線はレーリー線に比べて,なぜ弱い光なのか?
ラマン分光法に使われる光は,ストークス線?アンチストークス線?

など。

発生原理

では,ストークス線やレーリー線がどういったものかを発生原理から学んでいきましょう。

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左側に書いてある,基底状態と励起状態について,ざっくりと説明すると,基底状態とは最低のエネルギー状態をいい,励起状態とは何らかのエネルギーを吸収してエネルギーが高い状態のことを言います。赤外やラマンは,分子の「振動」を扱いますので,振動の基底状態と励起状態で考えます。

つまり,基底状態にいることが,エネルギー的に安定であることがわかりますし,物質はエネルギーが安定なほうに多数存在します。

基底状態から励起状態へ変化することを「遷移」
励起状態から基底状態へ変化することを「緩和」
と言ったりもします。

レーリー線

一番左から,赤外吸収・レーリー線・ストークス線・アンチストークス線の遷移を示しています。まずは,レーリー線からです。何らかのエネルギー(νL)を受けて,基底状態から励起状態に遷移します。エネルギー保存の法則からも,授受したエネルギーと同じようなエネルギーを放出します(νL)。
この放出される光がレーリー線であり弾性散乱(エネルギー変化がない)といえます。

ストークス線・アンチストークス線

一方,ストークス線です。レーリー線と同様に最低の基底状態から,何らかの光を吸収して励起状態へ遷移します。ここまでは先ほどのレーリー線と変わりません。励起状態から基底状態へ緩和する際に,最低のエネルギーに落ち切らずに光を放出することがあります。この放出される電磁波が,下図一番右の「ストークス線」です。基底状態ν=0からν=1のエネルギー差をν1とすると,光源νLに対して,ν1分だけ減少した光が放出されます(非弾性散乱)。

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続いて,アンチストークス線です。アンチストークス線はスタートから違います。下図の一番右を参照。

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基底状態の「ν1」から光源νLのエネルギーを受けて,励起状態へ遷移します。緩和する際に,同じν1の基底状態へ緩和せずに,ν0の基底状態へ緩和します。結果として,放出される電磁波は光源νLにν1分だけ増えた電磁波(非弾性散乱)が放出されます。

光の強さ

レーリー線に比べてストークス線が弱い理由は,この遷移と緩和の仕方にあります。エネルギー保存則などどこかで聞いたことがありますよね。つまり,エネルギーが変化する緩和(非弾性散乱)の確率は低いということです。もらった分だけ放出するのが普通ってことです。
また,ストークス線とアンチストークス線とでも差があります。物質には感情はありませんから,通常は基底状態の最低エネルギー(ν0)にほとんどが存在しており,通常の状態でν1分だけエネルギー的に不安定なν1に存在するものを励起するのも確率的には低くなります。

光の強さは,
レーリー線>ストークス線>アンチストークス線
となります。

赤外とラマンの関係

続いて,下記には赤外吸収とストークス線を改めて示しました。

ラマンと赤外1

この図を見ただけで,赤外とラマンの関係がわかっちゃうのですが,赤外吸収における振動(ν1~ν4)は,ストークス線(ラマン)の散乱(νーν1~νーν4)において対応(①~④)しています。赤外の場合,「0(ゼロ)」を原点とする,一方ラマンの場合,「νL」を原点とすると,同じグラフがかけちゃうことがわかるはずです。細かく見ると,赤外のν1とラマンのνL-ν1は同じエネルギー準位におけるエネルギーを見ていることもわかるはずです。

結果として,一例ですが同じサンプルに対して,ラマンと赤外を測定すると同じ波数位置にピークが出ます。下記参考

ラマンと赤外

また,ピークの大きさを見比べてみると,赤外スペクトルが大きいピークの場合,ラマンスペクトルのピークは小さくなっていることがわかると思います。逆もしかりです。
つまり,振動の種類によっては,赤外でしか検出できないもの,ラマンでしか検出できないもの,赤外のほうが感度が高いもの,ラマンのほうが感度が高いものがあるということです。

ラマン分光法の強み

ラマン分光に利用されるストークス線はレーリー線に比べて弱いです。そのため,S/N比が高いスペクトルを得るために
・レイリー光の除去フィルター:レイリー線とストークス線は同時に発生
・光源の強度を上げる:レーザー光の利用
・散乱強度を上げる:共鳴ラマン分光法の開発

ラマン分光の利点は
1.非破壊なうえ,そのまま測定ができる
2.有機物・無機物,関係なく,固体・液体・気体の測定ができる。
3.光源が可視光線のため,水の影響を受けることなく測定できる。あるいは,水に埋没するサンプルをそのまま測定することもできます。
4.顕微ラマン:局所分析が可能

本Noteは以上です。

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