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動画でわかる2 X線分光分析の実際

先日より始めました「動画でわかるシリーズ」の第2回目です。感染症対策として始めたYouTube動画ですが,学生さんからの評判も良いので,色々な授業動画を作成して知識の共有をはかろうかと思います。

授業で学んだことは研究室で必要になったときには忘却の彼方に消えていることがほとんどかと思います。研究室で必要になった際に,思い出すのに利用していただければよいかと思い機器分析に関しての授業動画を更新しています(毎週水曜日更新)。

ただ,授業動画ですので,全部見るのは大変です。そこで,どこが重要な項目なのかをブログで紹介して,気になった部分については,時間に余裕がある時に視聴してもらおうという考えのもと始めています。コメント欄に,タイムスタンプがありますので、そちらから飛んでください。

前回のブログ記事「電磁波の性質と高校化学で学び始める電軌道論」では,電磁波について紹介させていただきました。今回は,電磁波のうち大学や研究室で利用がしやすい高エネルギー側の電磁波である「X線」に関する分析法です。

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授業動画で紹介しましたが,X線は物質の「内殻の電子」に作用します。この内殻の電子に作用することで,物質の定性分析・定量分析・状態分析および構造解析を行うことができます。

利用教科書 2選

X線の分類

入射X線が物質にあたると,「透過」「光電放出」「蛍光」「散乱(吸収)」が起きます。それぞれの現象について分析方法が確立されており,日々研究に利用されています。

X線の分類

透過

透過は,レントゲン写真の事です。
1895年にレントゲンがX線を発見しました。当初,この中が透ける現象を信じられずに研究室に引きこもったそうです。確かに、これまでの常識を逸脱していますし,「頭ちょっと冷やしてくるわ~」となりそうですよね。その後,奥様の手を使ってレントゲン写真を撮影して発表しました。

光電放出

光電放出を利用した分析法は,X線光電子分光法(XPS)です。原子や分子中の元素の状態分析を調べるのに使います。

蛍光

蛍光X線分析(XRF)です。そこそこの量が必要ですが,蛍光X線分析により定性分析・定量分析に使えます。

散乱

散乱を用いた分析法は多岐にわたります。散乱には,コンプトン散乱(吸収)とトムソン散乱があります。コンプトン散乱(吸収)を利用した分析法が,X線吸収法です。トムソン散乱を利用したものとして,X線回折法(XRD)・X線反射率法・小角広角X線散乱があります。

YouTube授業動画の抜粋

X線分光法 超基本

X線分光法の超基本として,X線の発生機構について論じています。また,X線を発生させる際の加速電圧を変更した際のX線スペクトルの変化についても論じています。

X線の発生機構を理解することで,固有X線と連続X線の違いがわかります。そして,X線の発生機構で重要なのは加速電圧を変更した際のX線のスペクトル変化(12:16頃)です。この変化を理解することで,分析装置のX線を発生させる際の電圧をどのようにすればよいかも想像ができます。

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X線吸収分析法

X線分光分析の分析法その1として,X線吸収分析法について論じています。X線吸収分析はあまり耳慣れない分析法かもしれませんが,XANESやXAFSにおける測定元素の状態分析や周囲の環境分析はかなり強力です。

XANESとXAFSは,それぞれX線吸収端近傍構造とX線吸収微細構造と言われ,X線スペクトルの吸収端近傍のスペクトルを分析することによってさまざまな状態分析を行うことができます。

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あまり,X線吸収分析に触れる機会がないかもしれませんので,本動画ではX線吸収分析の測定例を用いて解析方法(11:11頃)について論じています。

蛍光X線分析

X線分光分析の二つ目として蛍光X線分析です。蛍光X線とは,入射X線により内殻の電子がはじき出され,その空孔に外殻の電子が落ちるときのエネルギー差のことです。この発生過程からもお分かりのとおり,原子核および電子軌道全体の電子状態によって蛍光X線の波長が決まります。蛍光X線の波長から定性分析ができ,蛍光X線の強度から定量分析ができます。

蛍光X線自体も非常に大事なのですが,定量分析に関してマトリックス効果といわれる「正誤差」と「負誤差」が重要になってきます。

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つまりは,正確な定量を実施したいですが,量が多く検出される「正誤差」と量が少なく検出される「負誤差」があり,この正誤差と負誤差をマトリックス効果といいます。それぞれの誤差が生じる理由を理解しておくことでマトリックス効果(10:46頃)を低減することができます。

X線回折

X線分光分析のみっつめとしてはX線回折です。X線回折は測定分子の立体構造を知ることができる強力な分析手段です。X線回折には,単結晶X線構造解析と粉末X線構造解析があります。単結晶X線構造解析からは,原子間の距離や角度あるいは,分子全体の立体構造まで詳細に調べることができます。

ただし,単結晶を作成するには「コツ」がありますので,ほとんどが粉末での測定になるかと思います。

いずれにしろ,X線回折において重要となる「ブラッグの式」と「ミラー指数」「晶系」に関する授業動画もコツコツと作製しています。


X線回折についても,具体例も含めて授業動画を作製しています。混合物・イオン交換された化合物・繰り返し構造をもつ物質がどのようなXRDパターンを示し,ブラッグの式を用いた解析法についても論じています。

本文は以上です。

皆様の研究において多角的な分析の助けになれば幸いです。

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