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#2 他力本願のススメ/『すべてがPRになる』

―前回のおさらいと今回の目的―

 こんにちは、かたぷるです。初回はPRの考え方の基本として“主語を周りに移す”ことをお伝えしました。その続きとなる今回は、この基本と密接に関連する「メディア」という概念を、自分なりに解きほぐしていきたいと思います。皆さんにとってメディアがどんな意味を持つのか。そして、どのように活かすことができるのか。身近な例も挙げながら考えていきましょう。

―自分の限界を知るということ―

おのれの限界に気づいたつもりかい?かすり傷さえも無いまま終わりそう
B'z『ultra soul』

 スポーツや勝負の場面で流れるこの一曲。アスリートなど高みを目指す方々にとっては奮い立つものがあるようです。自分の限界を勝手に決めるなと、発破をかけてくるようなフレーズ。ですが、今回ぼくはこの国民的な一曲にあえて反論します。より高いところを目指す時、おのれの限界に気づくことで突破口が開けるのだと思います。自分自身だけでは解決できない課題に直面した時、ようやくメディアの必要性が見えてきます。

―そもそもメディアって何だろう―

 ここでいうメディアとは、テレビや新聞などのいわゆるマスメディアに限りません。メディアの語源は、「中間にあるもの、間に取り入って媒介するもの」を意味するmedium(メディウム)の複数形です。たしかにメディアの性質の一部を捉えてはいますが、十分ではありません。より本質に迫るために、メディア論の大家による定義を引いてみます。

すべてのメディアは人間の機能および感覚を拡張したものである
M.マクルーハン『メディア論』

 随分と小難しい言い方なので、ここでも思い切って言い換えてみます。「メディアとは、自分ができないことをできるようにしてくれるもの全て」であると解釈します。車は自分の脚の機能を拡張させ、メガネは眼球の感覚を拡張させるものであり、どちらもメディアと言えます。本稿ではこの定義に則りつつも、より皆さんに身近な「コミュニケーション」の領域に絞ってお話していきます。

―量的な限界を超える―

 自分が伝えたいメッセージを広く伝える時、皆さんはどうしますか?一人一人に会って直接話すということをしていては、いくら時間があっても足りないですよね。プライベートであればFacebookやLINEを、ビジネスであればメールやSlackなどを使っているでしょうか。これら何気なく使っているツールも、自己の機能を拡張するメディアだと言えます。PRでは、このように量的な限界を超えていくためにメディアを活用します。
 プロサッカーの試合を例にとってみます。J1・FC東京のホームスタジアムである味の素スタジアムの最大収容人数は49,970人。満員になっても50,000人にも及びません。しかし、例えばこの試合を読売新聞が報じたとすると、東京本社版朝刊の読者5,849,471人(※)に届く可能性があります。この時、新聞は伝える側の口の機能を拡張していると同時に、見る側の眼の機能を拡張しているとも言えます。ここまで大がかりでなくても、自分だけでは届けられない相手と接点をもつメディアを通すことで量的な限界を超えていくことができます。
※2017年1月-6月平均部数。adv.yomiuri参照。

―質的な限界を超える―

 コミュニケーション課題は量的(範囲)だけでなく、質的(影響力)な側面にも顕在化することが多々あります。たとえば、あなたがビール会社の営業担当であるとして、スーパーの棚に高アルコール度数が特徴の自社製品を置いてもらいたいと考えます。しかし、ただ自らの口で製品の特徴を説明したところで取引先の決済権者はなかなか首を縦に振ってくれないものです。熱意だけで押し通すやり方もあるものの、とても賢明だとは言えません。ここで、社会心理学者の名著からヒントを得ましょう。
 ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』の中では、人を動かす6つの原理として「返報性・一貫性・社会的証明・好意・権威・希少性」を挙げています。この中で、第三者であるメディアはその客観性ゆえ「権威」を備えます。自分の言葉で説得しきれない時に、メディアに代弁してもらうことで影響力の限界を超えられることがあります。先のビール会社の営業担当の例に戻ると、多くの小売関係者が読む『日経MJ』というマーケティング専門紙で最近の若年層が高アルコール飲料を好む傾向があるという記事が掲載されたとしたら、決済権者を説得する論拠に用いることで営業を優位に進めることも可能になるかもしれません。自分ではコミュニケーション課題を解決できないとき、他の影響力ある人に語ってもらうというのはPRにおける基本的な考え方の一つです。

―上手にメディアと付き合うために―

 これまで説明してきたとおり、メディアは自分の限界を超えていくために非常に有効なチャネルです。ただし、その力を有効に活用するためにはメディアと自分の双方に利益がなくてはなりません。ここで#1の「主語を相手に移す」という基本に立ち返ります。まずはコミュニケーション課題を解決したい相手と繋がっているメディアを見つけ、そのメディアに主語を移して考える。もたらすべき利益とは、マスメディアであれば所謂ニュースバリュー(別の回で詳しく解説)、SNSであれば思わず語りたくなってしまうストーリー(こちらも別の回で解説)などになります。メディアは誰か(マスメディアであれば視聴者・読者)の代理人でもあるため、代理されている人びとの興味・関心に適った文脈で情報を渡してあげることで、その代理業の助けになれるのです。PRは本来、メディアをもハッピーにするものでなくてはならないのです。正しい他者(メディア)への頼り方を知っている人がPR上手なんですね。皆さんも、自分の周りにどんなメディアが存在するかよく見渡してみてください。思わぬところに課題解決の糸口が見つかるかもしれません。

 まだ決まりきっていませんが、#3は「レピュテーション(評判)」についてお話しようと思います。それでは、また!

―この回で参考にした本―

W.リップマン『世論』(岩波文庫)
M.マクルーハン『メディア論』(みすず書房)
ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』(誠信書房)
難波功士『メディア論』(人文書院)

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