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「PRは仲間づくり」事業会社広報と支援サイドを経験した3人が語る「これからのPRパーソン」像

「しみこむPR」は PR という概念の理解を深めることを目的に、現場の第一線で活躍する方々を招く、連続ゲストトークイベントです。明日からすぐ使えるティップスではなく、深く“しみこむ”パブリック・リレーションズの探究を目指します。

 vol.1 では、原 晃則(株式会社カケル・ディレクター)さん、阿部 珠恵(ビルコム株式会社・コーポレートコミュニケーション局長)さん、 片山悠(PuRe)が登壇しました。

テーマは「 事業会社広報から支援サイドへ。 両側を経験した3人だから見えたPRのかたち」

一つの企業や事業に寄り添う事業会社広報を経験したのち、 エージェンシーなどの支援サイドに移った三人。両者を経験して見えた、これからの PR について語りました。

ハウツーではない、じんわり効いてくるようなPRの理解を

片山 みなさん、はじめまして。片山と申します。現在はフリーランスで PR ディレクターをしております。この「しみこむ PR」、今日が初回ということで、ぜひイベントの主旨から説明させてください。

僕がフリーランスになってから、大変ありがたいことに PR に関するご相談をいただくことが増えてきました。その際に、即効性のあるティップスを求められるのが非常に多いことにも気づきました。もちろん、素早い動きが求められる領域のなかで、そうしたテクニックにニーズがあるのも分かっています。ですが、このイベントは、もっと深く PR について考える場にしたいと思っています。

すぐには役に立たないかもしれないけれど、まさに“しみこむ”ような形で。目の前の事業課題に向かわれるとき、「そういえば、あのとき聞いたことと照らし合わせてみるとどうかな」と、後からじんわり効いてくるようなものになればうれしいです。

さて、最初に PR について、少し整理させてください。ここで話す「 PR 」とは、いわゆる手法ではありません。世界中で最も読まれているとされるパブリック・リレーションズ(PR)の体系書から引用すると、PR は「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能」(引用:『体系パブリック・リレーションズ』ピアソンエデュケーション)のことです。

ちょっと難解かもしれませんが……つまり、具体的な広報活動に使える「手法としての PR」ではなく、もっと広く応用の利くような「概念としての PR」について、これからお話していきたいと思っています。

前置きが長くなりましたが、さっそくゲストのおふたりをお招きしましょう。今日のテーマは「 事業会社広報から支援サイドへ。 両側を経験した3人だから見えた PR のかたち」。かつて事業会社で PR 活動を行い、今は支援サイドであるPR エージェンシーで働くおふたりです。阿部さん、原さん、よろしくお願いします。

阿部 はい、よろしくお願いします。

 お願いします!

「ジャイアントキリング」こそPRの魅力

片山 僕を含めたこの3人の共通点は、事業会社から支援サイド( PR エージェンシーやフリーの PR パートナー)に移ったということで、まずは「なぜ事業会社から支援サイドに移ったのか」について、お伺いしたいなと。阿部さんはいかがですか?

阿部 これは真面目に話すと終わらないぐらいのテーマですね……(笑)。私は大企業で6年、スタートアップで3年の計9年間、事業会社で広報に携わっていました。事業会社にいるときにずっと考えていたのは、コミュニケーションってどんどん変わってきているなって。

片山 はい。

阿部 分かりやすい部分でいうと、SNS やブログ、YouTube などのソーシャルメディアの台頭がそうだと思います。今まではマスメディアの情報を受けて、「そうかあ」と思って終わっていたのが、今は情報を自分の手で集める時代になっていますよね。テレビや新聞は見ないという人もいるなかで、広報をする立場として、マスメディアを通じてのリレーションシップしか知らない自分に危機感を覚えたんです。

そんなとき、たまたま現在私が勤めているビルコムという会社に出会いまして。インフルエンサーと繋がったり、データを観ながら有効な手法を分析をしたり、マスメディアだけではなく、ソーシャルメディアを目一杯使いながらのコミュニケーションを組み立てている案件がいっぱいあって、「これだ!」と。

実際に入ってみてもすごくおもしろいので、今は支援サイドにいますね。といっても、まだ4ヶ月ですが……(笑)。

 僕は元々 freee という会社の広報にいたのですが、佐々木大輔さん(創業者・代表取締役 CEO)がものすごくビジョナリーで、メディアに対してのメッセージが一貫していたので、そこをどう PR に落とし込むかを日々考えていました。ユーザーだけでなく、会計士、銀行、さまざまな立場の方を相手にメッセージを伝えていくのはとても勉強になりましたし、その楽しさも知って。

広報って結構横のつながりがあるんですが、そのなかでスタートアップの方々とお話をさせていただくと、「自分がその会社にいたらこうやりたいな」ってことがたくさん出てくるんですよ。そしたらたまたま飲み会で、今僕がいるカケルという会社の話を聞いて。

阿部 飲み会……!

 面接じゃないんですよね(笑)。話を聞くと、まさに今僕がやってみたかったことをしている会社で。

スタートアップって、最初が一番肝心といいますか、世の中に対する自分たちの価値をちゃんと認識したうえで、初めて「どういう見せ方をしていけばいいのか」を考えられるんです。会社の軸となる思想の部分から一緒に作っていけるのが楽しくて。だから今は支援サイドにいますね。

片山 カケルさん、めちゃくちゃイケてますからね。事業会社に近い発想もできて、まずどういう戦略を描いていくかというところから入っていくエージェンシーですよね。

 パートナーのみなさんも非常に優秀なんですよ。

でもやっぱり長くいればいるほど、客観視っていうのはどうしてもできなくなっちゃうじゃないですか。言葉ひとつとっても、社内用語ができてくるように、景色がどんどん凝り固まっちゃう気がして。

片山 僕も実は原さんに近いところがあったんですよね。前職のメルカリで広報を担当しているとき、ほかのスタートアップの広報の方からご相談をいただくことが増えたんです。

 そりゃもう真似したくなる会社ですから(笑)。

片山 そう見ていただけていたのは本当にありがたいのですが、ご相談を受けても、やっぱり会社が持つ様々な資産も違うし、事業も違う。そうすると自分がやっていることをそのままお話ししてもお役には立てないんじゃないかと思って。遠くから憶測でコメントするのではなく、それぞれのチームに入って内側から見てみたい。もっと直接的に困っている方の力になりたいという思いが芽生えてきたんですよね。

ところでみなさん、“ジャイアントキリング”って言葉はご存知でしょうか? スポーツ用語で「大番狂わせ」という意味なんですね。つまり、弱いチームが強いチームを倒す試合のことを指すのですが、まさにこれを起こせるのが PR の魅力だなと僕は思っているんです。

それはたとえば、業界No. 1の大企業に立ち向かっていくスタートアップかもしれないし、深刻な社会課題を解決しようとする社会起業家かもしれないですが、そんな大きなものに挑戦するときに力になれるのが PR ではないかと。自分もその一端になれればというのが、支援サイドに戻った大きな理由です。

 なかなか戻るときは共感されないことが多いですが……。

阿部 (笑)。私も「なんで(支援サイドに)行くの?」って周りに言われましたね。忙しいイメージがあるんでしょうか。

片山 たしかにそういう面はあるかもしれないですね(笑)。でも、阿部さんがおっしゃったように、情報環境は変わってきているし、これからまさに社会に新たな価値を提供しようというスタートアップも出てきている。そこで一つの事業や会社に限らず、幅広く支援できるのはすごく魅力的なキャリアだと思います。

阿部 楽しさが忙しさに勝る時期ですよね。

「広報=メディア露出させる存在」から抜け出せないジレンマ

片山 と、三者が支援サイドに移った理由をふまえたうえで、次のテーマにいきましょう。支援サイドでさまざまな事業会社と接していくと、いくつか悩ましい問題が出てきます。

そのひとつにこちらのキーワード、「PR 発想」があると思うんですね。みなさんどうでしょうか。広報実務をしているとなおさらですが、ほかの職種の方でも結構聞くようになった言葉ではないですかね。「もっと PR 発想をもって企画しようよ!」とか、「それ PR 発想ある?」というような。

「PR 発想」と聞いて、頭の中になんとなく意味を思い浮かべてみると、おそらくこう想像した方が多いのではと思います。すなわち、「メディア発想」ですね。これはまさに僕や原さんがかつて PR エージェンシーにいた頃、より色濃かったと思いますが、どうしたらその企画にメディア露出できる要素を入れ込めるか、事業にメディアが報じる価値を付加できるかといった部分を PR パーソンは求められがちだと。エージェンシーの形が変わりつつある今でも、この「PR 発想=メディア発想」という考えは根付いている気がします。実際どうですか?

 そうですね。頭では理解していても、結局こっち(メディア発想)にフォーカスしなきゃいけない実情もあるのかなと。たとえば、事業会社の広報って、やっぱり結構忙しいんですね。細かいメールのやりとりや社内でのコミュニケーションをするうちに、1日が終わってしまうことが多々ある。そうすると、もっと上流から考える意欲もだんだんなくなっていくんですよ。

加えて、事業部が「PR したい」と言う場合、たいてい求められるのは結局「メディア発想」の部分なんです。「サービス作ったから PR して」って、「=メディアに露出させて」ってことだったりするので。

片山 社内で自分たちの仕事をアピールしないといけないとき、事業会社の広報はどうしても「ここに載りました!」とメディア露出の成果を見せたほうが伝わりやすいんですよね。

阿部 今の話を聞きながら思い出したのは、前職に転職する際、いろんなスタートアップを受けたんですよ。そのときに経営陣に必ずと言っていいほど聞かれるのが「記者とのリレーション(繋がり)はどれくらいありますか?」と。

片山 ああ、ありますね……。

阿部 だから「広報のスキル=メディアとの関係構築」という認識は、広報担当だけでなく、その上の経営陣も抜け出せないものなのだと思います。広報担当も、社内評価がそこでなされるのでなかなか抜けられない。そういうジレンマはあるかもしれません。

PRパーソンは360度の視界を持つべし

片山 ただその「メディア発想」だけだと、事業会社の広報としてやっていくうちに、まったく太刀打ちできない瞬間が出てくると思うんですね。つまり、広報活動を「自社⇄メディア」という二者の対立構造で捉えてしまっていては、懸命に情報発信する傍でさまざまな歪みが生じてくると思うのです。

というわけで今日、「PR 発想」とは実はこちらなのではないかなって仮説をひとつ立ててみようと思います。それは「PR 発想=ステークホルダーズ発想」です。「ステークホルダー」という言葉は、ビジネス用語でもよく耳にするかと思うのですが、直訳すると「利害関係者」です。

「その組織体に直接・間接問わず、何らかの利害を有する人々」ということで、たとえば株主もそう、顧客もそう、社員だってそう、採用候補者もこれにあたります。事業を進めていくには、たくさんのステークホルダーがいます。

さきほど、広報活動は「自社⇄メディア」の考え方では回りきらないという話をしましたが、事業は常に「自社⇄ステークホルダー(株主、顧客、社員、採用候補者etc.)」で考える必要があって、それらと色々調整しなくてはいけない。阿部さんは、長く事業会社で広報をされてきて、これを実感することはありませんでしたか?

阿部 そうですね。ものすごく視座の低い発言に聞こえるかもしれませんが、事業会社は、社内のステークホルダーがとにかく多いと。たとえば広報の中で「この企画おもしろいね!」ってものがあったとしても、実際社内で話してみると「ちょっとあそこの事業部が何て言うかな……」みたいなことがよくあります。

片山 本当によくありますよね。

阿部 ただ、そのストッパーとなる人たちも、決して保身のためにやっているわけではないんですよね。たとえば私が以前いたのは医療系の会社だったのですが、「患者さんにとっては絶対この発信方法が有効だよね」って軽い気持ちで発言したら、社内でかなり渋い顔をされてしまったことがあって。よくよく聞いてみたら、「医師の視点から見た場合は、その発信方法だと信頼性に欠けているように誤解されますよね」と。もう、それはたしかにそうだなと思ったんです。

やっぱり一方向に効果を狙うのではなく、常に社会全体の見え方をちゃんと想像できないといけない。全体を見渡したコミュニケーションができるようにならないと、本当にいい PR パーソンにはなれないんだなと日々痛感しました。

 前職の freee の場合は、それが顕著でした。たとえば「『freee(※)』の顧客に向けて PR をしたい」と一言で言っても、『freee』のユーザーは個人事業主、法人、税理士、プロからアマチュアとさまざまで、それぞれに刺さるメッセージは当然違います。法人には管理情報のセキュリティ部分について丁寧に伝えたり、個人にはこのサービスを使うことでいかに効率化できるかを伝えたり。

※『freee』とは……経理・決算などが行えるクラウド会計サービス

一つのサービスではあるんだけど、「to B」とひと括りにしないで、ステークホルダーを分解してひとつひとつの見せ方を変えていかなきゃ、サービスの良さがうまく伝わっていかない。メディアに露出できたとしてもまったく効果がない。これは一番わかりやすく経験できた気がします(笑)。

阿部 いや、それはすごく大変そうな……(笑)。

 大変は大変でしたね。

片山 原さんの前職の話をするのは、ちょっと気が引けますよ。今フリーランスになってから、『freee』にめちゃくちゃお世話になっているので。

会場 (笑)。

片山 自分がなぜ『freee』にたどり着いたかというと、「独立 確定申告」とか「フリーランス 納税」とか、怖いから結構色々調べるわけですよ(笑)。そうすると、的確なお役立ち記事がヒットして、なるほどな〜と読んでいたら、記事の最後に「確定申告はfreeeで!」って文言が書いてあるんです。

 「はじめてでもカンタン 確定申告は freee」!

片山 そうそう(笑)。会計に関する不安を解消してくれますよね。

 「経営ハッカー」っていうオウンドメディアなんですが、あまり freee であることは主張せずに、経営関連の役立ちコンテンツを載せているメディアで。そういったオウンドメディアをやっているといいのは、自社で書いたものをそのまま掲載できるから、外部のメディア露出を狙うよりスピードが圧倒的に早いんですね。そうすると情報感度も上がって、シェアや反応の様子をみながら、こちらも次の企画を立てていくことができるんです。マーケティング側が主導でどんどん情報を集めてくれるのは、広報としては非常に助かりました。

片山 まさに自分はその記事をみてユーザーになったので(笑)。ステークホルダーが、どんなタイミングで会計ソフトに触れるのか、どんな調べ方をするのかということに寄り添って、丁寧なコンテンツを提供しているなと思います。

広報活動とは「仲間づくり」である。

片山 では、「ステークホルダーズ発想」というものが仮にあるとして、もうひとつ整理したいのは、「ステークホルダー間はつながっている」ということです。

「PR 発想」の基本は、情報がどういう形で生活者の間に行き渡り、情報を受け取ったタイミングでそれぞれどんな感情を抱いて、意識や行動が変わっていくのかに対して思いを馳せることだと思うのですが。

それだけでなく、実はステークホルダー間でもコミュニケーションがなされていることも考える必要があるのではないかと思います。ここでお話したい事例は、「カゴメのホスピタリティ」について。カゴメさんは、みなさんご存知の大企業ですが、非常に素敵なことをされているんです。自社の採用試験に落ちてしまった就活生に対し、自社の商品にちゃんとメッセージを添えて、プレゼントとして贈っているんですよね。

それを受け取ったある就活生がツイートしたところ、すごく話題になったんです。「何万通も ES が届く大企業からこんなおもてなしをされて、嫌いになれるわけがない」と。ひとりの就活生を選考から落としたにもかかわらず、明らかにカゴメさんの印象はよくなっている。

これも「メディア発想」でいうと、プレゼントを贈れば SNS に投稿されて、それが刺さればメディアにも拾われるから効果的です、という話になりがちです。でも、そうではなくて HR(人事)と PR(広報)が一体となってステークホルダーに向き合った結果だと思うんです。あくまで仮説ですが、こういった HR・PR の連携って実際どうでしょう?

阿部 そうですね。今の話を聞くと、2パターン想像できます。一つは HR・PR が実際にガッツリ連携していた場合。もう一つとして、大企業だと個々の施策の連携まではしていない可能性もありますよね。それでなぜ連携してみえるのかというと、企業のマインドがちゃんと社内全体に浸透しているからです。それぞれ色々な場所で発信をみたとき、同じイメージ、さらに良いイメージに落としこめるように、思想が一貫していると。

片山 実際に連携しなくても、ここに立ち返ればどんな発信方法でも自ずと同じベクトルになるという軸が企業に備わっていれば、カゴメさんのようにメッセージが広がるということですよね。

 「これをやったら喜ばれる」「こうしたらこの層に気持ちが届く」という発想が、部署関係なく自然と出てくると強い会社になっていきますよね。だからこそ、社内に向けた発信も怠らないようにすべきというか。

片山 今、“社員全員 PR”とか、企業のトップが PR するといった話も盛んになされています。でもそれを社員みんなが SNS で発信したり、経営陣が発信したりするものと受け取られてしまったら、ちょっと怖いなと思います。

そうではなく、自分たちが向き合っているステークホルダーとのコミュニケーションがどうしたら良くなるかっていうことを考えていれば、発信しなくてもそれは PR だなと。炎上リスクも考えると、発信だけをとにかく急かすのは危険ですよね。

“顔が見えない”IT系サービスは炎上しやすい

阿部 社員それぞれの行動がブランドとして積み重なっていくということですよね。営業担当のふるまいひとつでも、良ければきっとシェアされる時代なので。

片山 外部も内部も、人との接点一つ一つがすべて PR なんですよね。そこに一本の筋を通してあげるのが、広報担当の一つの役割かと思います。そういう意味では、PR は、情報の伝播というよりも「仲間づくり」という言い方が適切かもしれません。

 ファン形成って、広報担当だけで完結できることではないですからね。特に IT 系のサービスでは、なかなか顔が見えません。ネット上で買ってそこで完結しちゃうので、温かみがない分、炎上しやすいです。

片山 顔が見えないと、不満やヘイトが溜まってしまいがちですもんね。

 そういうときに、たとえばカスタマーサポートがしっかりと対応したり、オウンドメディアで親切な情報を出したり、広報だけでなく会社的に意識を変えていくことでファンの獲得につながっていくのかなと。

片山 そこで CS(カスタマーサポート)部門が“神対応”をすると、一気に広がって仲間や味方が増えることがある。すべてに目を通すのはなかなか難しいですけど、「最近のカスタマーサポートの状況はどうですか?」とお伺いを立てるとか、コミュニケーションを欠かさないのは大事なことですよね。

今、プレスリリースがおもしろい!

片山 広報活動で重要なものの一つにプレスリリースがありますが、今、そのプレスリリースの使い方も変わってきていると思っていて。「PR TIMES」というプレスリリース配信サービスには、書いたものが直接アーカイブされます。

プレスリリースは、基本的に報道向けの資料なので、客観性があるかどうか、ファクトに基づいているか、そのほか様々なお作法があるんですね。

そのなかで、直接ユーザーや投資家になりうる人に届けることを見越して、めちゃくちゃエモい手紙のようなプレスリリースを書く企業が増えてきたんですよ。あれを見て、「いやいやそんなの PR できていないだろ」とか「広報として失格だ」と言うのはちょっと思考が停止しているかもしれないなと。むしろ、おもしろい動きだと思うんですよね。

阿部 私も最近見て、なるほどなと思ったのは、2ヶ月前(※イベント開催時)に HUAWEI の代表・王剣峰(ジェフ・ワン)さんが「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」というお手紙を出していて。ご覧になりましたか?

あれって本当に顧客とのコミュニケーションだけを見ているなあと。メディアにはどれくらい取り上げられるか分からないのに発信しているんですよ。あの発想ってずっとメディアリレーションズだけを見ていたら出なかっただろうなと思うんです。

片山 出ないですよね。

 ファクトを伝えるのも大切ですが、「このサービスがあれば、こう世の中が変わるんです!」というようなストーリー性をもたせたプレスリリースを書いてあげる。そうすると、メディアもちゃんと理解をしたうえで載せてくれるところが増えていきます。昔からあるお作法は一旦置いておいて、まずは何を伝えたいのかを意識して書くべきかもしれないっていうのはありますよね。

「リファラル採用」は、社員が会社に惚れてこそ成り立つ

片山 最後のケースとして考えたいのは、最近 HR(人事)業界を賑わせているリファラル採用についてです。「=社員に人材を紹介してもらい採用する」ことなんですが、これもここまでお話したことを応用して考えてみると、すごくシンプルな話かなと思っていて。

まずは、企業にとって最も近いステークホルダーである社員とのコミュニケーションを大事にして、ビジョンに共感してもらうこと。「自分たちが立ち向かおうとしていることはめちゃくちゃ大事な社会課題だ!」とか「この船に乗ったらもっとでかいことができるぞ!」と信じてもらえなければ、おそらくこのリファラル採用はまったく機能しないものなんですよね。

「ほかの企業がリファラル採用に成功しているから、うちも人材紹介をしてくれた社員には◯◯万円出そう」という安易な発想に陥ってしまいがちですが、そうではなくて、社員が一番のファン・応援者になってもらえるようにコミュニケーションしていく。これが大事だと思います。

阿部 そうですね。前職のメドレーは、リファラル採用を積極的に行なっていました。なにをやっていたか一部お伝えすると、基本的には「Wantedly」やオウンドメディアの中で自社の情報をしっかり出していく、あとはミートアップですね。結構それがうまくいったということで「リファラル採用のやり方を教えてください!」と相談に来る他社の広報の方も多かったのですが、やはり最初にお話したように、ティップスを求めるんですよ。

でも、ティップスではどうにもならないんですよね。何度も言うように、その企業がどういう指針でどんなブランドでなにを伝えるためにやっているのか、それによって使うツールも使い方も変わってくる。リファラル採用ってすごくシンプルであり、難しいのは、そういうところなのかなと。という話を、よくメドレー時代のボスの加藤ともしていました。

片山 ここ最近、ひとつ感動した事例があって。僕の元同僚が経営しているPR Tableさんという会社も「Wantedly」を使っているんですが、その記事がまあめちゃくちゃおもしろいんです。

あまりにおもしろいので、「これって誰か他の人が書いているんですか?」と元同僚の役員に聞いてみたんですよ。一人称語りなんですけど、広報担当者かライターさんに書いてもらっているのかなと思ったら、「いや本人に書いてもらっている」と。それを聞いて、「これは強い!」と思ったわけです。

あれほどの熱量と解像度をもって、社員が自分の仕事について語れるようになっているということ自体が、まさに一番の“採用広報”ですよね。「Wantedly」でどういうコンテンツを作ろうという話の前に、まずは社内のコミュニケーション。リファラル採用に限らず、とにかく内側からだなというのは、最近思っているところです。

5年後「広報担当者」はいなくなるかも?

片山 というわけで、最後のトピックになります。事業会社と支援サイドをあえて分けるとして、「それぞれの未来は今後どうなっていくでしょうか」と。僕もまだ答えが完全には出ていないところではあるんですけども、おふたりはどうですか? 

阿部 これは難しいなあと。お題が送られてきてから、毎日「何喋ろう?」ってすごく考えてたんですけど(笑)。

個人的に立てた仮説があって、「広報担当者」のような言葉は5年後なくなっている可能性があるなと思っています。たとえば、採用だったりリアルなユーザー接点なども含めたコミュニケーションデザインをする人というイメージです。その仕事はコミュニケーションディレクターとかコミュニケーションデザイナーとか、なんと呼ばれるかは分かりませんが、そうした広い領域まで事業会社の広報の仕事は広がっていくんじゃないかなと考えているんです。

さまざまなステークホルダーがいる中で、それぞれどういうコミュニケーションをすべきなのか俯瞰で考えられる存在になっていくと。それを考えたときに、 なんとなくやっているのでは、限界が見えてくるだろうという危機感もあります。

 わかります。「メディア発想」から「ステークホルダーズ発想」になったとき、じゃあそもそも僕たちはどんなビジョンを軸にして発信していくべきなんだっけ? というところから作っていかなきゃいけない。となると、支援サイドはあくまで社外の人間になっちゃうので、社内の意見をしっかり共有してもらう必要があります。

その企業のメッセージやビジョンやポジショニングを考えていくうえで、社内の情報をちゃんと理解していて、自分の言葉で話せるかが、事業会社の広報担当には求められると思うんですよね。

事業計画を把握しているだけじゃなくて、事業計画がなぜその数字設定になっているのか、その数字が設定されているってことはどのタイミングまでにどれだけのお客さんを獲得しているべきなのか、じゃあその市場ってどういうところなんだっけ? ってところまで深掘って考えていく必要がある。

逆に言うと、そこを深堀っていくことで、ステークホルダーとどういうコミュニケーションをすべきか、コミュニケーションをするにはこう変わらなきゃいけないよねって、発想もまた生まれてくる思うので。

片山 なるほど。ここまで事業会社側の話だったのですが、この流れで紹介したい本がありまして。

出版されたのは10年前なんですが、「選ばれるプロフェッショナル」っていうちょっと意識高めなタイトルの本があります。 内容としては、クライアントワークをする職種全般にいえる本当に大事なプロフェッショナル像が書いてあるんですね。自分が一緒に仕事をする人にはもう必ず読んでいただきたいくらいの一冊なのですが(笑)。

ちょっとピックアップすると、クライアントワークには、すべてを引き受ける「代行する」ことと、一緒にやっていく「協業する」ことのふたつがあると。そして、今まではオーダーをそのまま引き受けることが求められていたけど、これからは協業していく像が求められていくと書かれているんです。視座も洞察も与えられて、さらに協業できるのがこれからのプロフェッショナル像なんだと。

これは、PR の支援サイドに当てはまるんじゃないかと思って。原さん、これかなり思うところないですか?

 あはは。おっしゃる通りだなと。

片山 支援サイドは、たとえばその事業の再定義を試みる。「今の世の中にとってこの事業は実はこんな価値もありますよね」という示唆を与えることも必要でしょうし、一方で、協業していくには、さっき原さんがおっしゃっていたように事業会社側の PR マインドというか、広報担当者の意識も変わっていかないとなかなか難しいですよね。

「すっごく厳しい記者」に食らいついて、意見をもらう

片山 あと、もうひとつは、大企業に顕著ですが事業やプロダクトが膨大になるとリソースが足りず、メディアリレーションズの実行部分を代行に出してしまいがちなんです。でも、やっぱり自分たちでできるようにならなきゃいけないと事業会社にいたときにすごく思ったんですよ。パートナーをつけるにしても自分たちでやってみないと、最初の戦略を描くことができないんじゃないかと。

阿部 ちょっとこれ、ぜひお話ししておきたいんですが、私すごくメディアリレーションズの活動が好きで。

片山 そうなんですね!

阿部 好きなんですよ(笑)。最初にあれだけ「メディア発想」について話しておきながら、メディアの方と話すのすごく好きで。楽しいんですよね。

なんで楽しいのかなと思ったときに気づいたのは、やっぱりメディアの方たちって読者の代弁者なんですよね。だから率直な意見をくれるんです。本来届かないはずの社会のリアルな声が、記者さんを通じて、痛烈に「それ、おもしろくない」とか言われると。すると、社外から見た自分たちの立場が見えてくるので、 一層思考を深められたりとか、ディスカッションの材料が増えていく。そういう意味では実行の部分を自分でやるっていうのは本当に大事だなと思います。

片山 大事ですよね。僕もメディアの方々とのコミュニケーションは大好きです。だからパートナーさんにも言うのは「メディアの方とはぜひご自身でも接してください」と。メディアは自分たちの情報を露出させてくれる存在ではなく、自分たちのサービスや組織体に対してのフィードバックをくれる貴重な存在なんですよね。

そうすると、送ったプレスリリースに極めて近い内容で記事にしてくれる一見やさしい記者の方よりも、もうすっごく厳しいんだけど、示唆に富んだフィードバックをくれる記者やディレクターの方々のほうが自分にとってありがたい存在になってくるので。ぜひその実行の部分も逃げずに立ち向かって、それを会社や事業にフィードバックすることを、事業会社の広報担当はやらなきゃいけないかなと思うんですよね。

つまり、これから支援サイドもどちらも成長していかなきゃいけない。綺麗な締め方をしちゃう感じはあるんですけど(笑)。

 社内外の違いだけで、やっていることは同じ PR なので、どちらも変わっていく必要はありますよね。いろんなご相談をいただくなかでも、長い時間をかけてプロジェクトを一緒に進めていく案件も増えてきました。同じ目線で見れるっていうのが本当に大事です。

片山 そうですね。これは個人的な目標なんですけど、接しているパートナーさんにとって、いつか自分が必要なくなればいいなと思っているんですよね。

まるで薬漬けのように依存させるのではなく、「もう片山いらないかな」という瞬間がくるようにするのが、目指す PR パートナーとしての関わり方かなと。

そのためには事業会社の方の成長を応援し、それぞれの出来ることを増やしていくというのはこれからの支援サイドの一つのあり方かなと思っています。「そんなの綺麗事だ!」と言われちゃうかもしれないですけどね(笑)。

ライティング:チャン・ワタシ
撮影:飯本貴子
編集:株式会社ツドイ

お知らせ

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日時:2019年4月9日(火) 19:30~21:30
会場:Nagatacho GRID SPACEO B1F
(〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目5−3 地下一階)
料金:前売 3,000円/当日 3,500円

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