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出会いこそがすべて

~今はなき名店ビストロ・ア・ヴァン・ダイガクとそのエキップに捧げる~

現在の僕を構成するうえで欠かせない存在がいくつかある。
よく登場するホテル時代の師匠はもちろんだが彼が繋いでくれた縁も多い。

そのうちのひとつ、忘れられない名店との出会い。
大阪の繁華街のはずれ、東心斎橋にその店はポツンと存在した。
学生の頃によく訪れたRAINという古着屋のすぐ近くで妙な親近感を覚えた。

1Fのカウンターの中や頭上には当時見たこともない自然派の生産者の空瓶。
急すぎる階段。壁一面に書き連ねられた来店したのであろう生産者のサイン。
狭すぎる厨房からどこかオリエンタルなスパイスの香りが漂う店内。
目を閉じればあの店内の雰囲気を即座に思い出せるほど馴染んだ空間だった。

メニューには見るからに旨そうなビストロ料理とパスタが豊富に揃っていて
ワインリストは自分が扱ったことのない生産者のものがほとんどだった。

何度も書いている通り当時の僕は今と違いかなり偏ったワイン観の持ち主で、
流行の兆しのあった自然派と呼ばれるワインたちの事を好きになれなかった。
実際試しに飲んでみたもののほとんどは美味しくなかったのだから仕方ない。

ところがこの店で出されるワインからはそれほど嫌な印象は受けなかった。
むしろ素直に美味しいと思えるものが多く、それは新鮮な驚きだった。
シュレールやラングロール、オヴェルノワ、フォワイヤールにバラル。
今でも大好きな生産者たちとの出会いはほとんどこの店だったように思う。

今回は自然派ワインの定義云々について多くは語らないが
この店との出会いが僕のワイン人生を大きく変えた事は間違いない。

店内を飛ぶように駆け回るサービスたちはみな笑顔で活力にあふれていた。
毎日ホテルのお堅いダイニングで(それでも比較的緩かった方だとは思うが)
とおり一遍のサービスを強いられていた僕にとってその笑顔は眩しかった。

あの時、あの店が存在していなかったら。
きっと今の大阪で頑張っている料理人やサービスマンの大半と出会えてない。
※いまや大阪だけじゃないけど。

店と人、人と人、人とワイン。その出会いこそがすべて。
出会い、繋がることの大切さを噛み締めてこれからも生きていきたい。

・・・心に残る名店ビストロ・ア・ヴァン・ダイガク。
今でもときどき、あのカウンターで飲んでいるという幸せな夢を見る。

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