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そんなことしてる場合じゃない

まーちゃん🖌️

マクドで隣に座ってる妙齢の女性2人が、ポテトをつつきながら『長年付き合った彼氏といかに穏便に別れるか』の作戦会議をしている。私はたまらずイヤホンを片方はずして、そこからこぼれる別れたい理由や積年の愚痴、ほんの少しの浮気心に耳を傾けた。

一緒に住んでるのに配慮が足りない。夜中に大音量でCreepy Nutsの新曲を流すなんて信じられない、というかそもそも音楽の好みが合わない。ごちそうさまが言えない。連絡のレスポンスが遅すぎる、どうせ仕事もできないよあんなやつ。私はできる男が好きなの、例えばあの子とか。長く付き合ってるとはいえ、好きもありがとうも言ってくれない。

そう話す女性の向かいに座っている連れの女性は、そういった愚痴ひとつひとつに「夜中にCreepyはマジないな、昼ならまだしも」「レスの早さ大事よね」「挨拶とかは最低限やもんな」と、愚痴の邪魔にならない控えめな相槌と心地よい共感の言葉を口にしながらハンバーガーを食べている。聞き上手だな、と思いながら、私もポテトを頬張っていた。

ふにゃふにゃのポテトを選んで食べながら、『こんなことしてる場合じゃないのにな』と思う。
ほんとに、マジでそんなことしてる場合じゃない。
予定と予定の間、やらなきゃいけないアレをやっつけるために、別に飲みたくないコーヒーを買ってわざわざマクドに入ったのに、知らない女性の半生や、これから別れを告げられるであろう顔も見えないお相手の男性に思いを馳せている余裕はない。分かってはいるのに、スマホを見ているふりをして耳をすましている。モラルもなければこんなに余裕がなくなるまで放っておいたスケジュール管理のダメさを反省する気持ちもない、今の私にあるのは野次馬根性のみである。

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