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絶対大丈夫

まーちゃん🖌️


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「あー、お腹空いたなー。」
ある日の笑櫻会終わり、北村文化財が気持ち大きめの声で言った。文化財の大きい声は想定の1.25倍デカいので、若干びくっとする。

「めっちゃラーメン食べたいなあー」
北村文化財という男は、不器用である。
「ラーメン食べに行きませんか?」とか、「飯、行きましょうよ!」とは絶対に言わない。これはごはんだけに限らずどんなときでもそうで、今朝もコピーを取りにコンビニに行く私を捕まえて、「あ、なんか、水、どうしよっかな……」と言っていた。買ってきてくださいって言えばいいのに。

「食べに行こうや、美味しいやつね。」

ここうまそうじゃない?え~、なんか危なそうじゃないですか?と言い合いながらふたりで店を探す。前行っためっちゃ美味しいお店でもいいし、よく行くラーメン屋でもいいんだけれど、文化財とご飯にいくときはなんとなく店を探す決まりになっている。ラーメン食べに行こう、とは言わない彼だが、店探しについてはかなり積極的だ。そして、なぜか絶対外さない。

「なにこの高級食パン屋みたいなラーメン屋、ヤバそうじゃない?」「いや、でもなんかうまそうですよ、近いしここにしましょうよ。僕腹減りました。」「あ、担々麺あるやん、よかったな」「担々麺食いて~」
噛み合っているのか微妙な会話をしつつ二人で並んで歩きながら、仲良くなったなー、と思う。二人でラーメンをすする日が来るなんて、正直想像もしていなかった。

2年前、チームクボを手伝うようになってしばらくは、文化財との距離の取り方を分からずにいた。まいちさんともあらきとも割とすぐに仲良くなれたけれど、文化財だけはこちらからもずっと敬語で話しかけていた。全然嫌いじゃないし、仲良くしたい気持ちはあるんだけど、本当にどう接していいか分からなかった。このデカくて、変で、挙動が不審すぎる男に、一体何を話せばいいんだ。

そんな変な大男との距離感をはかりかねたまま時は流れ、半年後。彼から唐突に電話がかかってきたのは、2021年度ももう終わろうとしている、ある春の夜だった。

「あぁあ、お疲れ様です!!」
「お疲れ様です!どしたんですか?」
その時の私は、めちゃくちゃ嫌な予感を携えて電話に出た。ちょうどその頃はふわり春の解散が決まりかけているタイミングで、クボからも「あとで連絡する」と言われていた。覚悟はしていたが、ついにか、と身構えた。
「あ、えっとあの、」
言いよどむ文化財の声色が変に明るく感じて、ちょっと不思議に思う。

「すみません、絶対今じゃないんですけれども、内定が出ました。」
「――え?」
申し訳なさそうに言いつつ、嬉しさを隠し切れない様子にめちゃくちゃ爆笑してしまった。こんなに今じゃないことがあるのか。
ふわり春の解散劇の裏で、彼もまた、人生において大事な局面を迎えていたらしい。
「えぇ!?今?……お、おめでとうございます!」
「ほんと大変な時にすみません!でも、内定が決まったので」
切実で高揚している声に笑いがこらえられない。
そうだよな、内定が決まったら言いたいよな。

その後少し、電話で話をした。内定が決まったのがポンプ屋なことや、社長がいたく文化財のことを気に入ったこと、就職活動がなかなかうまくいかなくて、3月末までずっと内定が決まらずつらかったこと。「うん、うん」と話を聞きながら、なんか嬉しいな、と思った。内定も、電話を掛けてくれたことも。

その後電話を切る直前に、「クボちゃんから連絡来ました?ふわり春の件」と聞いてみた。
「まだです、まだですけど。」今までよりも少し大きめの声で、文化財がいう。
「どうなってもクボさんは大丈夫ですよ。絶対。」

そんなにはっきりと断言されると思わなかったので、ちょっとびっくりした。
絶対大丈夫、絶対か、そうか。
強い語気ではなかったのに、彼の「絶対大丈夫」になんだか変に納得させられてしまって、そのまま電話を切った。その「絶対大丈夫」は、なぜか分からないけれど、本当な気がした。

結局、その日中にふわり春の解散は決まった。解散はしたが、結果的にクボは“大丈夫”だった。今のところ、大丈夫だったと言っていい。文化財の「絶対大丈夫」は、絶対だった。

このあとから、文化財とはよく話すようになった。好きなバンドの話、ラジオの話、クボの話。文化財が社会人になってからは、仕事の愚痴を言い合うことも増えた。これをきっかけに、とは言わないが、徐々に、かなり仲良くなったと思う。

私たちが仲良くなる間に、色々なことが変わっていった。本コンビがガングリオンになり、たくさんライブを打って、クボはたくさんネタを書いて、ガングリオンはどんどん面白くなった。日々は一瞬で流れていって、状況も信じられないスピードで変わっていく。嬉しいこともあるし、もちろん、悪いことも嫌なこともたくさん起きる。

チームクボの形が変わったり、新しいことがはじまったり、結果に一喜一憂したり。うまくいかない時も、不安な時も、私が失敗しても、もうダメかもって思っても、あいつは目も合わさずに、当たり前みたいに「絶対大丈夫です」と言い切る。そしてこれまではその言葉通り、いつでも「絶対大丈夫」だった。

文化財の「絶対大丈夫」には、なんだか力がある。私もふたりに何度もそう伝えてきたけれど、あれにはかなわない。

絶対に根拠なく言ってるし、なにが大丈夫かはあんまり言ってくれないけれど、それでもいつだって文化財はよどみなく、想定より1.25倍デカい声で「絶対大丈夫ですよ!」という。

こいつのこれには、結構救われる。
本当は私が、私の言葉が、そうでないといけないのにな。

「ね、うまかったでしょ」
あの日よりちょっと強くなった文化財は、得意気な顔でラーメンをすすっている。確かにうまい、やっぱりこいつは、なんか外さない。

「スープめっちゃうまいな」「なんかこの炒飯、卵がふわふわなんすよね。」「結構お腹いっぱいやわ」「僕はラーメン大盛にしましたけど、まだまだいけますね、あ、生駒さんこれ見て下さい、ミスチルです」「Tomorrow Never Knowsや」「崖怖いですね」「真選組動乱編みたいな電車乗ってない?」「鴨太郎ね」
一緒にいるようになって2年経ったが、このように、いまだにいまいち会話は噛み合わない。彼はとんちんかんなことも良く言うし、たまに見え隠れする思想に恐れおののかされることもある。やっぱり変で、挙動不審な大男である。でも。

「今日の僕らのネタ、めっちゃ面白くなかったですか?」

でも、サンパチを挟んだクボの隣は、こいつだけだよな、と思う。
こいつの「絶対大丈夫」があれば、この先もきっと、ガングリオンは大丈夫だ。

北村文化財の「絶対大丈夫」は、絶対だから。


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