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17:30、まだ先は長い。

まーちゃん🖌️
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手が止まる。カーソルを睨む。指先が動かないまま針が進んでいくアナログ時計を見つめて、「ぐえー」っと声を出した。ぐえー。
定時まであと30分。業務の進捗は芳しくなく、“最悪”と言ったところだ。嫌いな営業の電話の声が大きくて耳につく。うるさい、あー、間に合わない。ほんと嫌、マジで最悪。ライターとは思えない語彙を脳内で巡らせつつ、私は再びキーボードに手をかけた。なんか最近、上手に文章が書けないな。

最近はもっぱら、兼業芸人の方を尊敬しまくる日々である。1日のうち最低でも8時間をお笑いと関係ないことに割いているのに、みんながみんなあんなに面白いの意味が分からない。すごすぎる。ああ、もちろん文化財もすごいよ。計算も早いし、なんかこう、いっぱいご飯とかも食べるし。

私は舞台に立たないけれど、兼業ではある。兼業芸人さんのほうがもちろんよっぽど大変に決まってるんだけど、こんな私でも、やることがゆるやかに、でも着実に増えてきて、ちょっとずつ忙しくなってきた。

新しいことがはじまりかけている。もっとうまくこなしたいことがある。失敗できないことが増えていく。そんな毎日が楽しくて、自分と向き合っている場合なんかじゃないから、自分自身のことを考えるのをなんとなく後回しにしちゃう。
全ての矢印を外に向けてしまった状態の私の中には、文章になるはずだった言葉たちがいて、そいつらは全然紡がれていかないで、バラバラのまま、脳みその中に散らかっている。

散らかったままの言葉の破片を集めきらないまま日が経つと、突然、ふいに文章を綴れなくなってしまう。例えば今とかね。

「文章が書けなくなる」のは、私にとって結構大事なサインである。忙しいとか、余裕がないとか、なにか忘れてることがある、とか。あるいは、本当に言葉にしておきたいことがあるのかもしれない。
こういうときは一回書いてみるに限る。スッキリしてまた文章が書けるかもしれないし、なにか見つかるかもしれないから。

「この人のために頑張りたい!なにかしたい!」と思う人たちが毎日毎日どんどん増えてしまって本当に困る。本当に時間が、脳みそがたりない。そして、あまりに傲慢である。
最初はクボだけだったのに、文化財にも、あらきにも、いつも本当によくして下さる周りの芸人さん達にも、スタッフさんやファンの方にもそう思うようになって、なにかしようと思い立つとき、目の前にいるガングリオンと一緒に色んな人の顔が浮かぶようになった。
きっと今はそれが原動力になって、私は2本足でしっかり立てている。ポンコツなりに走り回って、迷惑をかけながら助けてもらって、終わったら「あー楽しかった」だの「失敗した」だの言いながらうだうだして、また次のことを考えている。
こんな風に生きてられるのも、私がたくさんの人にお世話になって、助けてもらって、支えられている証拠である。力になってるつもりで、結局めちゃくちゃ支えられてしまっている。情けないね。

この2年で、色んな人にお世話になりすぎているし、大好きな人が増えすぎてしまった。なんでこんなに魅力的な人ばっかりなんだ。良いことやめでたいことがあれば自分のことのようにうれしいし、そうでないときはしっかり悔しいし苦しい。どうしてもどうしても、愛してしまう。きっと、愛されるのが上手な方ばっかりなんだと思う。

そんな『愛され上手』な皆さんの近くにせっかくいるので、なにかできることはないか、とその人たちのことを考える。
「お前に頼みたい」と言って下さったり、真剣にアツくお話をきいてくださるあの人に、また一緒にライブしたいですといってくださったあの人に、いつもライブに出てくださるあの人に、仲良くしてくださるあの人に。私をライブの裏方に入れて下さって、いつでも大切にしてくださるあの人に。

何回私が間違えても傷つけても、絶対に手放さずにいてくれるお前らに。
私は、一体何が。

一人ひとり顔を思い出して、あーあ、と嫌になる。
なにか贈りたいと思うのに、本当にもらってばっかりなんだよな。

正直、2年前に声をかけられたときは軽い気持ちではじめた。スケジュール管理だけだときいてたし、クボは後輩だったし。私には、なにもなかったし。
ところがいつのまにか、ガングリオンに着いていきたいと思えるようになって、たくさんの芸人さんやスタッフさんに良くしてもらって、育ててもらって、全然なんにもできない私を「スタッフ」にしていただいた。やりたいことも、また会いたい人も、みたい景色もたくさんあって、力になりたい人がたくさんいる。
なんや、“もうやめられへん”のは私のほうかい。

ハッと気づくと、もう定時をすぎていた。「ぐえー」とまた言った。ぐえー。
あーあ、ちょっとだけ残業するか。
キーボードに手をかける。指先がキーを叩く。嫌いな営業が帰ったので、さっきよりは集中できる気がする。やっぱり、なんかあんまり上手に書けないな、と思いながら、画面をじっと見つめて言葉を置いていく。しっかりしろ、私。まだだめだ、まだ仕事は辞めらんないよ。私は、「私の大好きな人たちに着いていくんで」と、自分のことみたいに誇らしげに、啖呵を切って、かっこよく辞めるって決めてんだから。


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