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JACK DANIEL’S パロディー商品に対する商標権侵害訴訟で逆転勝訴! ―アメリカ連邦最高裁 「うんち度数43%」「悪臭100%」は許しません!

 1. 事案の概要
 アメリカを代表するウイスキーである「JACK DANIEL’S」にそっくりな犬用の噛むおもちゃ「BAD SPANIELS」(いわゆるパロディー商品)の販売が、商標権侵害に当たるかどうかが争われた裁判で、アメリカ連邦最高裁判所は下級審の判決を取り消し、審理を差し戻す判決を言い渡しました。二審では、この種のパロディー商品は表現の自由を定めた合衆国憲法で保護されるべきであるとされ、商標権侵害には当たらないと判断されましたが、連邦最高裁は全会一致で決定を下し、JACK DANIEL’Sのウイスキーボトルに酷似したこの犬用おもちゃは、憲法修正第1条が認める商標非侵害(意図的に誤認を招くものではない商標の使用は合衆国憲法修正第1条により保護される)によっては保護されないことを確認しました。
 


(左が「JACK DANIEL’S」、右が「BAD SPANIELS」米国連邦最高裁判決文より引用)

 上の写真をご覧頂ければお分かりのとおり、被告商品のラベルでは「JACK DANIEL’S」の文字部分が「BAD SPANIELS」(悪いスパニエル犬の意)に、「Old No. 7 Brand Tennessee Sour Mash Whiskey」(サワーマッシュ製法で作られたOld No.7ブランドのテネシーウイスキー)というジャックダニエルの特徴的な説明は、「The Old No. 2 On Your Tennessee Carpet」(あなたのテネシーカーペット上のOld No. 2)に変わっています。さらに、JACK DANIEL’Sのラベル下部に記載されている「アルコール度数40%(アメリカ度数80)」の部分は、「うんち度数43%」「悪臭100%」に変更されています。
 
2. 訴訟に至る背景
 ジャックダニエル社は、この犬のおもちゃが商標権を侵害し稀釈化しているとして警告状を送付しましたが、被告はアリゾナ地方裁判所に商標権非侵害及び稀釈化なしとの確認を求めて出訴しました。
 一審はジャックダニエル社の主張を認めましたが、二審の第9巡回区控訴裁判所は、JACK DANIEL’Sの商標とトレードドレスを「ユーモラス」に変更した被告の使用は、この犬のおもちゃを憲法修正第1条(表現の自由)の保護を受け得る資格のある「表現作品」とするものであり、いわゆるロジャース・テストと呼ばれる、芸術作品に対する侵害請求からの憲法修正第1条の保護を強化する基準を適用できると認定して、商標権侵害を否定しました。
 同様に、稀釈化についても、被告の「ユーモラスなメッセージ」により、被告標章の使用は商標希釈化改正法に基づき「非営利」となるから、法律問題としての希釈化責任は免除されると判断しました。
 
3. 連邦最高裁の判示
 最高裁は、侵害しているとされる商標が侵害者自身の商品の出所を示すために使用される場合、ロジャース・テスト又は憲法修正第1条を適用することは適切ではないと判示しました。裁判所は、被告がJACK DANIEL’Sの商標とそのトレードドレスに由来する標章を自己の商品の出所表示として使用したため、本件訴訟における侵害の主張は、出所混同のおそれによって上下すると説明しました。
 
 そしてロジャース・テストは、商標が商標として使用されているかどうかを精査する事から隔離する手段として利用するものではなく、問題となっている商標の「非商標的使用」が絡むケースに常に限定されて利用される、避難小屋のような原理(日本で言う「伝家の宝刀」でしょうか…)であると結論しました。また、表現豊かな商標の使用がすべてロジャース・テストの適用を受けるとすれば、例外が原則となってしまい、ほんのわずかなケースしか混同のおそれの基準で判断されないことになってしまう、と説明しています。最高裁は「商標が商標として使用されるときには… 混同のおそれの基準は、表現の自由の利益を説明するのに十分である」と明確に述べました。
  
4. コメント
 パロディーが表現の自由の保護に値するとはいっても、市場で混同を惹起すれば商標権侵害になるというのがアメリカ連邦商標法です。よって、侵害商標が侵害者自身の商品の出所表示として使用されている場合、ロジャース・テスト又は憲法修正第1条を適用することは適切ではないという本判決の考え方は、連邦商標法及びこれまでの判例の流れを汲むものです。
 商標の重要な機能を認識した本判決は、従来の混同のおそれの基準の下で侵害者に異議を唱える商標所有者の背中を押すものであり、企業努力の結晶である商標(=ブランド)から価値を引き出し続けることを可能にするとともに、需要者をより保護することにもつながるでしょう。
 また、最高裁は著名商標の「稀釈化」についても言及しています。ある特定の出所を示すものとして公衆に広く認知されている商標の希釈は「汚染(傷つけ)」と「ぼやけさせる(不鮮明にする)こと」によって起こると表現しています(ここで裁判所は「tarnishment=汚染(傷付け)」という言葉と「blurring=ぼやけさせる(不鮮明にする)」という言葉とを明確に使い分け、「blurring=ぼやけさせる(不鮮明にする)」は本件とは関係がないと述べています。)。日本では時折、稀釈化(Dilution)の議論をする際に、ポリューションという言葉を「汚染」の意味で用いられる方がおられますが、Pollutionは大気汚染や公害を意味する語であり、商標ではTarnishmentやBlurringを用います。そういった意味でもとても勉強になる判決かと思います。

執筆:加藤ちあき

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