枯れ尾花の正体

化け物の正体見たり枯れ尾花(すすきの事)
横井也有(よこいやゆう)の句より
良く使われるようになったのは
幽霊の正体見たり枯れ尾花
すすきと言うものは若い頃はふさふさと白い花を広げ
綿のように白く美しい
しかし枯れればそれは骨となった手のひらのようで
おいでおいでと手招きする
それを見た人間が恐怖のあまり幽霊や怪物と思い込んだのであろう
小学生の頃好きな子がすすきに怯えていた
何でも怖がりですすきが亡くなったおばあさんの手に見えると言う
「おばあちゃんが迎えに来た」
と泣きながらすすきに怯えるあの子に俺は…

「すすき野?」
目の前に広がる若いすすきの穂
ふわりとした柔らかな花が風にそよぐ
「もうこんな季節か」
ずっと忙しくて季節なんか顧みなくなった
「そういえばこの時期だった」
怖がるあの子が可愛くてついいじめてしまった
すすきの生い茂った場所に追い詰めすぎて、彼女は…
「あっ!」
頬に当たるすすきの花が掌の様に撫でる
すすきを握ると、その先には
「君は!」
あの顔は
小学生の頃のままだったあの子
見知らぬおばあさんと手を繋いでいる
「たしか君は川に落ちて!風邪をひいて!」
そのせいで学校を休んだ後おれのいじめが発覚して
俺は両親と共に謝罪するも彼女は学校にこなくなり、
責任を感じた両親が俺の中学への進学と共に引っ越して行った
「俺は君に謝りたくて!」
後を追うも彼女とおばあさんはどんどん進んでいく
「ごめん!あのときは本当にごめん!」
謝罪の言葉が聞こえないのか、彼女らはどんどん先へと進んでいく

進んでいくと硬い指の感触
気が付くと柔らかな穂は枯れ、カサカサとした感触の枯れ尾花となっていた
「いつの間に!」
辺りを見渡すと
「あっ!お前は!」
幼くして死んだ俺の息子
「すまない」
あの時、2人目を妊娠していた妻の代わりに息子の面倒を見ていたのに
「俺が携帯のゲームに夢中になっている間に…」
近くの水路で変わり果てた姿で見つかった
「すまない…俺のせいだ…」
どんなに後悔したか
妻にも責められ離婚にまで追い詰められた
ざわ…
ざわ
俺の顔をすすきの穂が撫でていく
「許してくれ…許してくれ…」
今までに関わった人間の顔が現れて消えて行く
「許してくれぇーっ!」
皆俺のせいで死んでいった後輩や部下達
走り抜けた先は広く大きな川
ざわざわと揺れるすすきはこれ以上は追ってこない
「はっ!馬鹿馬鹿しい」
離れた場所から見たすすきはただの枯れすすきで

「幽霊の正体見たり…ってか何にびびってんだ俺は!」
そもそもあいつらが悪いんじゃないか
ちょっとからかっただけで自殺しやがって
ちょっと背中を押したら勝手に線路に落ち
割りきった関係なのに勝手に妊娠しやがって
だから手っ取り早く流産できるように突き落としたら勝手に死んで
それにあのガキだって
誰の子供か分かりゃしねえ
「あー、でもあの子の事言えねーな」
俺もビビりあがっちまった
一人笑う男の背後に枯れすすきが迫り
「えっ?」
迫ってくる気配に振り向いた瞬間、枯れすすきは全て白骨化した腕で
目の前の川に流されてた

「本日は御愁傷様です」
ハンカチで涙を拭う喪服のママ友に声をかける
「この間最愛の長男が亡くなったばかりで、さらにご主人まで…」
気の毒そうに囁く弔問客
「私、彼の小学生時代の同級生でもあったんです」
意味も分からずいじめられ、外に出られなくなるまで追い詰められた
彼の両親が責任を感じ、引っ越しさせたにも関わらず彼は私の事をちっとも覚えていなかった
案外加害者と言うものは忘れるんだな
「これを仏様に」
秋の花を花束にしてもらった
子供の頃は怖かったすすき
彼に追われ、川に落ちそうになったが、すすきに絡まって難を逃れた
その時にすすきが亡くなったおばあちゃんの手が私を抱き締めてくれた
花束の中に枯れたすすき
それが小さな手となり彼の首に巻き付く
「まさか…」
誰もその変化に気づいていない
枯れていくすすきは骨だらけの手となり彼の首を絞めていき、彼は苦悶の表情となる
私は何も言わず、この場を去った

「化け物の正体見たり…か」
私を助けてくれたすすきは青々として、彼の首を絞めたすすきは枯れていた
「正体も何も…本物じゃないの」

すすきの花

活力 勢い 生命力

それが枯れると…?

終わり

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