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【レイプ神話解説】服装と性暴力被害に関係はない

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DJ SODAの性被害とひろゆきのデマ

 2023年8月、韓国人アーティストのDJ SODA氏が観客から胸を触られるなどの性被害に遭った。結局、この加害者は特定され、いずれも被害者側が刑事告訴を取り下げるかたちで事件の幕は引かれた[1]。

 しかし、この事件は別方向で騒動を起こす (というか、起こされる) ことになる。DJ SODA氏が露出の多い衣装でステージに立つことが多いらしく、事件当時もそのような服装であった (とみなされた) ため、露出の多い服装が被害を誘発したのだという主張がSNS上で流布された。

 こうした主張を再三繰り返した代表的人物が、痰壺もといインターネット掲示板2ちゃんねるの開設者、西村博之である。彼は同月22日、『ユタ州立大学の調査』なるものを持ち出し、『性被害者の22人に1人は、挑発的な服装が被害の一因』『「服装と性犯罪の被害は絶対に関係がない」は嘘』などと主張した [2]。また、激しい批判に対抗するように、翌日には『科学警察研究所の調査』を持ち出し、改めて服装と性暴力被害に関係があるかのように主張した [3]。

 もちろん、こうした主張は誤りである。そもそも、仮に被害者が全裸でいたとしてもレイプしてよい理由にはならないが、被害者の服装が性暴力被害のリスクを高めるとするエビデンスは現在に至るまで特段確認されていない。

 この記事では、まず無料のパートで、一般論として服装と性暴力に関係がないことを示す。その後、有料のパートで西村の主張の誤りを指摘する。後述するように、西村は無料で読めるネット記事すらまともに理解できていないが、私はこの記事を書くために書籍や論文を取り寄せるため、2000円くらい費用をかけている(マジで)。こうした手間や必要経費の差が、デマとその訂正の間に横たわる非対称性なのだ。

神話の検証

服装と性暴力被害は無関係である

 服装と性暴力被害に関連がないことは、皮肉なことに、ほかならぬ西村自身がその証拠を示している。それは、彼が2回目に投稿したツイートそのものである。西村自身がはっきりと書いているように、科学警察研究所の調査によれば、服装を被害者を選ぶ理由とした加害者は5.2%しかいない

 なお、より正確な情報は内山 (2000) [4] に示されている。この研究では、回答者となった性犯罪者をさらに罪状 (強姦か強制わいせつか) と年齢 (成人か少年か。明示がないが恐らく犯行当時の年齢と思われる) で分けて検討している。

 分析によれば、被害者を選んだ理由として「被害者が挑発的な服装をしていた」を選んだ割合は、少年・強姦で最も小さく3.2%、成人・強制わいせつで最も大きく6.7%だった。

※余談だが、内山 (2000) [4] は上中下に分かれており、これを引用した鈴木 (2014) [5] はこのことを明確に書いていない。そのために全て取り寄せる羽目になりコストがかさんだ。専門書ではないとはいえ、出典は正確に明示してほしいものである。

 ではなぜ、性犯罪者は服装でターゲットを選ばないのだろうか。後述する鈴木 (2020) [6] も指摘することだが、加害者にとってまず重要なのは、自分が捕まらないことである。そのためには、被害者の露出が多いかどうかよりも先に、抵抗されないか、通報されないかを考える必要がある。性犯罪者は我々の想像よりも計画的に犯行に及ぼうとしているのだ。

 事実、内山 (2000) [4] の調査でも、「警察に届け出ることはないと思った」が少年・強姦で46.8%、「おとなしそうに見えた (抵抗されないと思った)」が少年・強制わいせつで55.4%に及んでいる。こうした結果からも、彼らにとって逮捕されにくい相手であることの重要性がうかがえる。

 また、性暴力の動機が性欲だけではないことも影響しているだろう。例えば、斉藤 (2017) [7] は、自身のクリニックに訪れた加害者の自己申告であることを断りつつ、痴漢加害者の半数が犯行時に勃起していないことを指摘している。痴漢の動機には性欲のほかに、ストレスの解消や"同好の士"に対する承認欲求があるため、性欲が発散されれば痴漢をしなくなるというわけではない。このため、露出の多い女性を見て性欲を搔き立てられて犯行に走った、というストーリーが成立しない場合も多い

ひろゆきの詭弁を論破する

 ここからは西村の詭弁を個別具体的に否定していく。そのため、レイプ神話解説としては蛇足となる。

 最初に否定するのは、順番は前後するが、西村が2つ目に挙げた科学警察研究所の調査である。内容自体は既に否定はしているが、加えて、彼は自身が示している記事の内容すらまともに読めていないことを指摘しておく。

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