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君よ、恐れ泣き叫べ!

4月3日(水)08:34
わたしは手術室に歩いて入っていった。
「行ってくるね」そう言って、見送る妻と子供たちに手を振った。
8時間を超える手術になることは、わたしも家族も知っていた。
最悪の場合は術中に死ぬことがある。二度と帰れないかもしれないのに、笑って手術室に入っていった。
笑って家族から去っていくしか方法がない場面だったろうと思う。自分では冷静を装っていたが、その笑顔は凍っていたかもしれない。見送る家族の顔も無理に笑う表情が硬く、目に不安の色がありありだった。

消えていった内臓

手術は成功したが、癌の全部は取りきれなかった。
しかも癌はリンパ節に散らばっていた。

膵臓がんを手術して、へそを起点に「 型」に傷がある。

キャプチャ1


十二指腸と胆のうが無くなり、小腸を引っ張り上げて胃に縫い付け肝臓から伸びる胆管にもつないだ。半分残った膵臓は胃の壁に穴を開けて縫い付けた。
自分でも内臓がどういう全体配置になっているのか分からない・・。

ステージⅣ

6月28日(金)午前
手術から2か月後、肝臓に転移していることが判って、
医師は「このままの進行では数か月単位の・・、」で言葉を切り、「抗がん剤治療を進めましょう」と続けた。
わたしの斜め後ろで聞いていた妻は、ガタガタ震えていた。画像2

わたしはこのときも他人ごとのように、冷静だった。
訓練してきたように普段からそういう姿勢を示してきたし、取り乱すことは恥ずかしいことだと思っていた。
常に感情を抑え込み、客観視する冷静さを保つことが習慣づけられていた。

画像5

抗癌剤治療の副作用

頭髪は抜け、腰や肩・ひざの関節部が痛む。
身体のダルさで動く気力が失せ、日中もソファーで横になっていることが多い。
しかし、それ以外は特に副作用がない。
食欲はあるし、調子がいいときは車を運転して遠出が出来る。
そして何かを考えるには十分な時間がある。

キャプチャ2


これまでに得たものや失ったものを改めて吟味してみると、自分の中の嘘が見えてくる。これも副作用のせいかもしれない。

自分の中の嘘

キャプチャ3

その一つが冷静でいることの是非だ。
がんの転移を告げられたとき、驚愕し、怖れ、泣き叫ぶことができればどれだけ人間らしく気持ちが楽になれたことだろう。
               (2019.9.17 13:41)

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