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「闘病はきらいです」その3

検査が始まった。
MRI撮影、内視鏡検査、ステント挿入、組織採取に膵液採取。
胆汁は肝臓で造られ、胆管というパイプを通って胆のう(袋)でいったん貯められて、膵頭部をくぐり十二指腸につながっている。
胆汁とは消化酵素であり、大便が黄色くなるのはビリルビンという主成分のせいだ。
胆汁がなければ便は白い。

腫瘍は膵臓内を通る胆管の外周を取り巻くようにでき、胆管を圧迫して通り道が狭められていた。
その処置方法はステントというストロー状の金属器具を胆管内に挿入して通り道を広げるというものだ。一時的な処置ではあるが、これで胆汁は十二指腸を経て腸に排出され、黄疸は解消される。
これらの術式はすべて胃カメラと同じ内視鏡で行われる。
胃を超えて十二指腸から胆管にカメラを進入させる。麻酔(眠り薬)を点滴されて眠っている間に終わっている。術後の痛みはない。

「疑 い」

さきに「癌」と書いたが、まだ特定されてはいない。
ステント挿入時に同時に周辺組織を採取し検査したが、はっきり癌と特定できなかった。
それから膵液を一週間採取した。
鼻から細くしなやかな管を入れ、胃から十二指腸を通り膵管という膵臓から伸びている管に留置する。膵液がそこから流れ込んで鼻の外に出ていくわけだ。
膵液の成分の中に癌の兆候を見つけようというものである。

しかし、各種の検査結果が示すものは「癌の疑い」であり、癌とは断定できなかった。

自分の身体にも予防線を張る


消化器内科の担当医師「○○」先生は言う。「検査結果が示すものは「疑い」の域を出ないが、膵臓は沈黙の臓器と言われ癌を発見した時にはすでに治療が困難な状態になっているのが多いです。私が判断するに、あなたのは癌だと思われ今ならまだ治療、すなわち手術が可能な状況だと思います。医師の私が言うのはなんですが、もし自分があなたの立場だったらわたしは手術を選択します」
つまり、それくらいの確率で癌に間違いない・・、ということである。

癌であろうがなかろうが、胆管を塞ぐだけの腫瘍があるのだ。その塊りが黙っていて消滅するはずはないのだ。癌でなければいいが・・、という思いはあった。しかし、わたしの中では手術を9割以上決めていた。
残りの1割は医師の後押しであった。
最終的な意思決定を他人に委ねることで責任を転嫁したのだ。
手術は怖い。リスクはある。失敗を自分のせいにしたくない。
自分自身の身体なのに、それでも保身が優先するらしい。
自らの決断を背負えるほどの勇気が、わたしにはなかった。

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